26. 正義の資産形成
「なんで、金利が下がるのに通貨の価値が上がってるの?」
「噂で買って事実で売る、ってやつだな。それに経済ってのは、気分次第だから、なんでだよ? って動きをするものなんだ」
フェニックスの疑問に、偉そうに答えている俺も、よく分かってはいない。
ただ、教科書通りに、USドルの利下げが決定したところで、ドル円を買っただけだ。
たったの1時間で30万円の利益。今の俺には、大金だ。
これ以上、上がるかも知れないけど、ここで手仕舞いにしておく。
もっとも、ほぼ同額損切りした後だから、差し引きだと利益は3万円くらいだけどね。
利益が出てはいるんだが、3歩進んで2歩下がる、というか30歩進んで28歩くらい下がるを繰り返してんな。
「ふーん。僕は、経済の事は分からないんだよね。ITの事もだけど。だから、僕にないものを持っているタマちゃんの事は頼りにしているんだ」
「そうかい? お前には、俺にない暴力ってやつがあるじゃないか」
「そうだけどね … 。暴力だけでは、世の中渡っていけないよ。僕は、今この生活が楽しい。これは、暴力では手に入らないんじゃないかな」
ロボのクセに、随分と情緒豊かだな? って感じだけど。このロボは、フェニックスの実体ではない。
何処にどんな形で存在しているのかも知らないけれど。リモートで操作しているはずだ。
この世界に実体で存在するのは危険なのだと言っていたからな。
もう4時だ。そろそろ寝たい。
海外で重要なイベントが起きる時、日本は深夜。為替取引ってのは、どうしても寝る時間が不規則になってしまう。
昼間は子供の世話をしなきゃいけないのに、放置して爆睡してんだから、不健全な話だよ。
「寝る前に、こいつを片付けるか」
フリースクールから押収して来たノートパソコンだ。
かなり古い型だ。OSも来月でサポートが切れるようなやつが入ってた。
ひっくり返して、ドライバーでビスを外し、裏蓋を開けると、あっさりとHDDを取り出せた。
このHDDを、俺のパソコンにマウントすれば、中のデータが読み取れるはずだ。
マヌケが使っていた安物パソコンだから、暗号化もされていないだろう。
「SATAインターフェースの、USBケーブルでいいかな」
聞いているのはフェニロボだけだし、こいつには意味が理解出来ないだろうが、そんな事を言いながら、通販サイトを開く。友達の居ないシステムエンジニアは、独り言が増えるんだ。これも老化現象なのかも知れんけど。
「すげえな、今日中に届いちゃうのかよ。コンビニに届けてもらおう」
うちはオフィスビル屋上のペントハウスだからな。玄関前に置き配を頼んでも、ちゃんと届かないのだ。俺が配達員だっとしても、届けられる気がしない。というか届けられちゃ困る。外部には、分からないようにしてんだから。
ここを設計したやつは何を企んでいたのかな? 都合がいいので、便利に使ってるけど。忍者屋敷みたいに、このペントハウスへの経路は隠されているのだ。一部のビルの住人達は、簡単にやって来るけどね?
寝る前に牛乳か飲むヨーグルトでもいただこうか、とキッチンへ向かうと。
ずどん! と脇腹に柔らかい衝撃が。家の中で気配消して走るなよなー。
「なんだ、今日は早いな?」
「そう? いつもの時間だと思うけど。今日は、パソコンの解読やるんでしょ? まだなの?」
「あー、それなら、午後からだな。道具が足りん」
これは、ミーだな。昨日、闇の眷属の美容師のところで、ふたり揃って髪を切って来たのだが、同じ髪型にして来ちゃったんだよなあ。俺には区別つくけど、他人には無理だろうな。
ふたり並んでいると、片方は残像にしか見えないから、残像ごっこして遊んでるよ。
「ぬう! 質量のある残像だと!」
そう言いながら、今度はハーがずどんと来た。俺に、ぶつかっておいて言うセリフじゃないだろ。
「あ、そのセリフ、ワシも言いたかった」
大佐も起きて来ちゃったよ。あれ? もしかしてもう昼過ぎてる!?
「え? マジか!? もう荷物がコンビニに届いてる!?」
スマホにピロリんと通知が来て、さっき頼んだ道具の到着を告げる。
「タマちゃん、さっきパソコンに向かったまま寝てたよ」
「あ、そうなの?」
言われてみれば、窓の向こうの明るさが、午前4時のもんじゃないわ。
フェニロボ便利だな。俺の、睡眠モニターまでしてくれる。
「荷物とりに行くついでに、外で朝飯食うか!」
「ワシ、パピコ!」
「私、りんご味!」
「私は、失われたレモン味を求めたい」
パピコは朝ごはんじゃないけどな?
ちきしょう、今日も朝陽が眩しいぜ。いい朝だな!
俺の最大の資産である、正義のヒロイン共と、朝の街へ繰り出す俺だった。




