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正義のヒーローは魔法幼女と共に異世界転生を目指して悪事を働く  作者: へるきち


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018. 正義の雑用とシステムエンジニア

「ワシの真名は、ニャアなんよ。ニャア少佐と呼んでや」


 のじゃりんこチエが、何か言い出した。

 正義のヒロインとしては、雑用担当の底辺のはずだが、士官を名乗っていいのか。

 光の使徒としての階級なのだろう、きっと。

 会社では社長でも、経済界の会合では雑魚みたいな、そんな感じなのだ。知らんけど。

 どこぞの大企業の役職らしい、おっさんとかおばはんが、電車の社内やエレベーターの中で、妙にふんぞり返ってるアレ。会社の外でまで、お前の社内での肩書は通用しないんだぞ、としばきたくなるよね? ちょっと関係なかったかな。


「大佐じゃなくていいのか?」

「次のミッションが成功したら昇格するんよ」


 出世すんの早いね。

 のじゃりん子チエでも、ニャア大佐でも何でもいいので、好きにさせておこう。

 正義界隈は、自由だからね! 法からも、モラルからも、あらゆる戒律からも!


「次のミッションって、もう決まってんの?」

「武蔵小杉の駅前のオフィスビルに侵入して、このUSBメモリをPCにぶっ刺すんじゃけども。ああいう所は、セキュリティ厳しいんじゃろ?」

「なるほど。後輩には、やっぱり引き継ぎが必要かも知らんなあ」


 そのオフィスビル、多分知ってるわ。そこで働いてた事あるかも。

 

「さすがに、そのセーラー服じゃ無理だな。スーツっぽいの持ってないのか?」

「母上に、借りて来るのじゃ!」


 のじゃりン子チエ改め、ニャア少佐は、そう言うとビルの下のフロアへ降りて行った。

 

「ニャアのはじめてのお使いに、私達も行きたい」

 

 うちの娘達も、行きたいなどと言い出した。

 さすがに、幼女は無理じゃないか? と思ったが、どうせ言っても聞かないので、好きにさせる。

 認識阻害の魔法もあるしね。最後の仕上げに、ビルを爆破しないように、警戒だけはしておこう。

 まあ、吹き飛ばしてもいいけどね? あんな、ヤクザみたいな企業のオフィスなんか。


 IT業界では、クライアントから直接受注する1次請けの企業は、何もしないなんてケースが常態化している。子会社や協力会社に丸投げなのだ。建設業界よりも、多重下請け構造がヒドイ。

 俺は、2次請けの企業に派遣されていた事があるのだが。

 俺が5千万円で書いた見積もりが、1次請けからは、1億円でクライアントに提出されていた事があった。

 クライアントから「なんでこんな金額なの?」って聞かれたけど、5千万円分は説明のしようが無かった。「本家の看板代ですね」とは言えんものな。書類にハンコひとつ押すだけで5千万円もぶんどっていくのだから、ハンコ代と言ってもいいかもな。ヤクザみたいとしか言いようがないだろ?

 ちなみに2次請けの派遣が、クライアントと直接交渉とかしてんの、二重派遣で違法だよね。ウケる。


 まあ、違法だとか、これから正義を執行する俺がいえた義理でもないかな?


 などと、IT業界の闇に想いを馳せていると、スーツを着たニャア少佐が戻って来た。

 

「それ、母ちゃんのスーツ?」

「ほうじゃよ。どうじゃろか?」

「お前の母ちゃん、中二の時から成長してないのかな」

「 … 、ワシも永遠の中二体型なんじゃろか?」


 ニャア少佐に、母親のスーツがぴったりフィットしている。

 スーツさえ着ていれば、今年新卒採用の新人システムエンジニアに見えなくもない。

 うちの娘達も、いつの間にかスーツに着替えている。魔法で着替えたのかな?

 私立幼稚園の入園式にしか見えんが … 。


「どうやら、タマちゃんはスーツフェチではないらしいよ、姉さん」

「こいつの属性が分からないわね」


 何を分析しているのだろうか。そして、その結果をどう利用するつもりなのだろうか。

 夏休みの自由研究かな? 夏休みはもう終わってるんだぞ?


「じゃあ、早速行くか」


 登戸駅まで、3人を引率してぽてぽてと歩き、南武線で武蔵小杉まで移動する。


「若者が多いな」

「小学生の群れも居るよ」


 つい最近まで住んでいたというのに、多摩区に馴染んでしまった今となっては、違和感が強い。

 あの小学生達、タワマンに住んでるのかな? 俺が小学生の頃は、県営団地に住んでいたが。

 子供の頃から、タワマンに暮らしていると、どんな情緒に育つのだろうか。

 まさか、住んでる階層でマウントの取り合いとか、いじめとかしてないよな?


「登戸辺りは、老人しかおらんけ、同じ市内とは思えんのう」


 自称シティガールであるニャア少佐は、多摩区よりも、こっちのが良かったとか思ってそうだが。


「多摩区の方が、落ち着てていいぞ」


 この辺りは、例えば車の運転なんかがヒドイ。道を譲ったら死ぬ呪いにでもかかってるのか?

 多摩区に移ってから、コンビニから車で府中街道に出る時に、すっと止まって入れて貰えた時は、感動したね。

 この辺りのドライバーは、意図的に進路を塞ぎに来てるようにしか見えない。脇から出て来そうな車見たら、むしろ加速しやがるもんな。そんなに、漏れそうなんですかね?

 左折する時に、まず右に車体を振るやつの率も高い。お前の車は、トレーラーですか?

 あと、ベビーカーの集団な。暴走族だよ、アレ。何度か、轢かれた事がある。

 それから … 、おっと、心がダークサイドへ堕ちるところだったぜ。ここへ来た目的を思い出そう。


「このビルであってんのか?」

「ほうじゃよ。ここの12階じゃって」


 やっぱり知ってるビルだった。12階は、もっとも人の入れ替わりが激しいから、都合がいいぞ。


 そして … 。


「え!? どういうことなん!? 誰もからも、怪しまれんかったんよ!? 幼女まで一緒に居るのに!」


 ミッションは、あっさりと完了した。

 人の入れ替わりが激しいから、見知らぬ者が居ても誰も気にしないし、入館証を持ってなくても、誰かについて行くだけで、ゲートを突破出来る。俺達以外にも、そういう手合いは何人か居た。

 

「タイミングも良かったな。ちょうどランチから人が戻って来る時間帯だったからな」

「人の波に紛れるだけで、簡単に侵入出来るなんて … 、ここ一部上場企業で、セキュリティ商材を売りにしてなかった? 大丈夫なのかしら? この国」

「入館証持ってない人が沢山いたよ?」


 ニャア少佐だけじゃなく、うちの娘達も唖然としている。


「新規で入場した派遣や協力会社のスタッフは、入館証持ってないんだ。発行が追い付いてないから」

「私達も、それと同じに見えたって事ね?」

「そういう事だ。ニャア少佐みたいに、おどおどしててもソレっぽいし、お前らみたいに堂々としててもソレっぽいんだ」


 うちの娘達には、すれ違う時に、おじぎする者まで何人か居た。幼女なのに、役職者のオーラ放ってたからな。認識阻害の魔法を使ってもないのに。うちの娘達、どんな幼女なの?


「システムエンジニアの情緒おかしくない … ?」

「基本、全員コミュ障だからな」


 システムエンジニアは、コミュニケーション能力が大事だ、なんてよく言われるけどな?

 コロコロ変わるチームのメンバーや、ヤクザみたいなクライアントや上流相手に、調整や交渉が出来るのは、むしろコミュニケーション能力が破綻したコミュ障だと思うぞ?

 特にここは、長くても3か月もたない、地獄みたいなところだからな … 。

 俺は、3年近く居たけど。適応障害と診断された。診断書も貰った。


「やっぱり、日本の将来が不安になるわ」


 ミッションが終わって、数日後。某大手金融機関が大規模障害を起こして、トップニュースになった。

 ミッションとの因果関係は知らんが。

 日本の将来を破壊してんのは、俺らだったかな?

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