017. 正義のヒロインは、電気藁人形の悪夢を見る
「まいど! 社長ちゃんおるー? パソコンの先生を連れて来たったでー」
「あ、チエちゃん。まだ、こっち居たの? もう夏休み終わってるでしょ」
「2学期からは、こっちの学校通うねん。ワシは、優秀なシティ・ガールじゃけのう。都会の学校に通うべきやねん」
駅前の不動産屋に入るなり、元気よく挨拶する中二のおさげ。
え? なんで、急に関西弁なの? チエちゃんだから? ウチは、日本一不幸な正義のヒロインや、とか言い出す日も近いな。父親が関西人なんだろうか? どうでもいいけど。
あと、川崎市多摩区が都会かというと、どうだろうか? 南武線中野島駅なんて、駅の目の前が梨畑なんだぜ? 山口県よりは都会だろうけど。
そして、ばあちゃん子だからなのか、表現がいちいち古臭いな。
あー、ツッコミどころが多いなあ。
「ワシは、山口弁と関西弁を話せるバイリンガルなんやで」
ギャグまで昭和だわー。うちの魔法幼女達と、話が合うかもな?
あいつらも、地球儀回して「ドイツのだ? オランダ!」とかやってるからな。
宇宙海賊さんは、そんなんと違うぞ?
パソコンの設定は、チエちゃんに任せているうちに、あっさりと終わった。
確かに、優秀だわ。黙ってないけど。
「ほいじゃー、次は、正義の雑用の引き継ぎやろ?」
「雑用言うな、ミッションって呼んでたんだから」
俺は、不動産屋をあとにして、屋上のペントハウスにおさげっ子チエを連れて帰った。
表で出来る話じゃないからな。正義の執行って法やモラルに反してるから。
「お茶どぞー」
リビングのソファにチエと腰かけると、ハーがコーヒーを出してくれた。
最近、ジャスティス・ミッションが無くて暇なのか、コーヒーに凝っているようだ。
本人は幼女で飲めないから、ちっとも腕は上達しない。
自家焙煎とかやり始める前に、他の事に興味を移させよう。
「漆黒のダークマターか。ワシ、飲めんのんよ」
「じゃあ、シャイニング・ホワイトをあげるわ」
ミーが、飲むヨーグルトを持って来た。こいつら、牛乳とか乳製品が好きだから、この手のものは常備してある。駅の反対側にあるスーパーに、毎日3人で通うのが日課となりつつある。俺ら、暇だなー?
「で? 引き継ぎって何やんの? 俺が始めた時、そんなの受けてないんだけど」
「簡単な事だよ。チエちゃんと子作りをするだけだよ」
こいつら、正義のためなら、法も条例もモラルも何もかもガン無視だな!
「今、正義のヒーロー界は、深刻な後継者不足でのう」
謎の長老みたいな口調で言ってるのは、おさげっ子チエちゃんの胸元からのぞいている藁人形だ。
どこにどういう状態で入ってるんだろう。おさげっ子は、すっとんつるりんで、ひっかかる場所無さそうなんだけど。
「タマちゃん、ちんちんでかいの? ワシ、未貫通じゃからして、でかいのは困るんじゃけどー」
「タマちゃんのタマちゃんは、まだ幼体だから小さいよ」
「いや、ちんちんはいつでも成体になれるらしいよ?」
なにこの女児共のガールズトーク?
「おい、これもジャスティス・ミッションなのか?」
「もちろんそうだよ。ジャスティス・ポイントも300万入るよ!」
300万!? 異世界への移住権利が666万ポイントだから、一気に半分近くに!?
いや、待て。
残り、366万ポイントのために、今回を越える悪事に手を染めるきっかけになるぞ?
こいつの親、弁護士だし! いや、ちっともやる気ないですけどね? 俺、悪いロリコンじゃないよ?
「いや、やらんけど」
「あ、そう? じゃあいいや」
「生贄は、他にいくらでもおるしのう」
だったら何で、試そうとした? ヒーローの純血培養とかそういう実験なの?
コワい回答が出て来そうなので、この件はもう忘れ去ろう。
「なんだ、やんないの? 見たかったのに」
「ニンゲンの交尾は見た事ないもんね」
うちの娘達も何言ってんだ? 理科の実験じゃねえ。
「引き継ぎはコレで終わりなのか? 他にやる事あんの?」
「無いよ、チエちゃんの担当は、誰でも出来る雑魚仕事だからね」
IT業界でいえば、さっきやってたパソコンの設定を手順書渡されてやる感じなんだろうなあ。
俺って、正義のヒーロー界で、そんな位置づけだったんだ。
さっきの不動産屋でやったのは、現地でクライアントの要望聞きながらやってたから、ずっと上のランクの仕事だけど。
システムエンジニアみたいに、正義のヒーローにも、下流から上流まで工程があんのかあ。
世知辛いというか、世の中そんなもんだよな、というか … 。




