014. 正義の天使たち
「タマちゃん、タマを流してあげるよ!」
俺が風呂に入っていると、ハーが乱入して来た。
「タマを流すって何だよ。流すなら背中にしてくれ」
戸籍上20歳、自称6歳、実年齢100歳越えの幼女が、背中をわしわしと洗ってくれる。
こいつ、意外と怪力だから、しっかり洗ってくれる。
「タマちゃんのドラゴンが成体に!?」
「なってねーよ、幼体だよ。俺のドラゴンが本気出したらこんなもんじゃねーよ」
「ドラゴン退治に来たわ!」
「退治すんなよ」
ミーまで乱入して来た。
こいつらが、今までどんな暮らしをしていたのかは知らん。
毎日、小学校へ通うフリして、近所の公園で何を想っていたのか。
楽しい事はあったのか、つらい事はあったのか。一切、知らん。
でも、今はきっと楽しいんじゃないかと思う。それでいいんじゃないだろうか。
実際には何歳なのかも知らない。
実は、見た目通りに10歳なのかも知れない。
だとしたら、小学生なのだが。こいつら、へたしたら俺よりも知識あるし、大人相手の交渉術なんかにも長けている。今さら、義務教育が必要だろうか?
情緒や協調性を育むという目的も学校にはあるのだろうが、こいつらを小学生の群れに混ぜてしまうと、他の小学生達にとっては災難でしかないだろうしな。
本人達が、通いたいと望まない限りは、学校なんて行かなくていいだろう。
あそこは、監獄以下だ。監獄ならば、法は守るだろうけど、あそこは治外法権だからなあ。
むしろ、行くべきではないという気さえする。
大学ならいいかも知れんな? 俺は、高卒だから、どんなところか知らんが。
戸籍上は、女子大生になるには適齢だしな。
「私達、学校へ行きたいんだけど」
3人で湯舟につかっていると、俺の考えとシンクロしているかの様な事を言い出した。
「学校って、大学? お前らなら京大辺り向いてそうだな」
「京都に行って生きて帰って来れる気はしないよ」
「行きたいのは、代々木だよ」
京都に、どんな偏見があるのか知らんが。いや、戊辰戦争前から生きてるなら、修羅の時代の京都を知っているのか。ヤクザ対テロリストの抗争の時代。ちなみに、俺はテロリストの方と同じ県の出身だ。まさか、こいつらヤクザを雇ってた方の県の出身じゃないだろうな?
「代々木? 声優になりたいの?」
「お笑い芸人だよ」
「行くとこ違うんじゃないの? 宇宙海賊さんは大宮校の出身ではあるけど」
「宇宙の海は、ワシの海じゃけえのう」
「そっちじゃない」
しかし、残念だったな、あそこは義務教育を修了していないと入れないんだ。
学歴詐称は、炎上するからなあ。うちのビルの住人達の手を借りれば可能な気がするが。
「夜になれば、多少は涼しいか」
風呂上りに、庭に出て涼む。庭と言っても、ここはビルの屋上だけどな。
こんなに、のんびりしてんのいつぶりだろうか。
「お? タマちゃん達も、花火観に来たの?」
ビルの住人達が、またBBQやってる。こいつらずっと居るけど家無いの?
今日は、花火大会があるらしく、ソレが目的で居残ってるのかも知らんけど。
「あーにきぃー!」
「兄貴はむしろ私達の方じゃないの? いや、姐御?」
昭和のドラマにはまってる魔女共が、牛乳瓶を持ってやって来た。
屋上のペントハウスに住んでて、ニワトリを飼っている。
風呂は外じゃないけどね? 偶然なのか、狙ったのか、今の環境に似てる。
俺は、配信で初めて見たけど、こいつらリアタイ視聴してたかも知れない。
「風呂上りには、牛乳瓶の牛乳だよね!」
風呂上りには牛乳瓶で牛乳を飲むのが魔女共の日課だ。
空き瓶を洗って使い回して、パックの牛乳を入れている。
憶の金動かしているくせに、妙に庶民くさい事をするんだよなあ。
金持ちほど、そういうもんらしいって、よく聞くけどな。
ファーストフード店で、クーポンは俺が出すって言い争ったりするらしい。
俺は、ファーストフード店すら行けなかった時期があるけどな。
上京して最初に入った会社が、ブラックだったんだよなあ … 。
渋谷にオフィスがあるIT系企業は、漏れなくブラックだから警戒するといいよ。
花火が始まった。
わくわく幼女ランドで、花火を特等席で鑑賞。
今が、俺の人生のピークって事はないよな?




