013. 正義の人質交渉
「おい! こいつらがどうなってもいいのか!」
目の前に迫った、巨大カメにそう告げる俺。
「きゃー! 助けてー!」
「いや、私らを人質にとって、どうすんのよ? このカメ、ロリコンなの?」
巨大怪獣の怒りを鎮めるのは、双子姉妹の役目と決まっている。
俺は、魔女共を人質にとって、カメと交渉する事にした。
このシーンは、魔女の阻害魔法によって、誰も撮影は出来てないはずだ。
ハーはノリノリ、ミーは否定的。双子でも全然違うなあ。いや、異母姉妹なんだっけ?
うーん。ダメだなあ。カメは交渉に応じてくれそうもない。
「ああ、お前らが双子じゃないから」
「フェニックスに頼んでみたらどうかしら? 使い魔同士同僚なんでしょ?」
「その手が?」
フェニックスに、カメの説得を頼む。
なんと、フェニックスは、カメの上司だったよ。
「だから、この世界に実体を持つのはやめろって言ったんだ」
手の平サイズの小型ロボットの姿になったフェニックスが、そんな事をぼやいている。
これは、ロボ型スマホかスマートスピーカーみたいなもので、実体ではないそうだ。
チャットアプリを通して会話している状態と同じ。
それでも、そこに居るって感じがあるね。
さっきまで、小型ロボと巨大カメが、向かい合って会話してたよ。
なかななか、シュールな絵面だった。絵本の一幕みたいな。妖精とドラゴンって感じ。
異世界エージェントが、この世界に実体を持つのは、いろいろとリスクがあるらしい。
今回は、依り代にした生物の暴走なんだとか。
暴走の一言しか説明は無かったから、何が何だかさっぱり分からんが。
暴走なら仕方ないな。
「もう大丈夫だよー、カメの中身だけ僕らの世界へ帰したよ。あいつ、ちょうど今日で定年だったしね」
異世界エージェントにも定年があるのかー。
俺の定年はまだかなー。異世界へ引っ越すのが、俺の定年退職だ。この世界からのな。
「なあ? 中身だけって事は、この動かなくなった巨大なカメは?」
「あー、このまま動かないから、観光名所にすれば? 君達人類は、こういうの好きでしょ?」
まあ? 確かに?
実物大巨大怪獣像みたいなもんだな。お台場とか万博会場にあったアレみたいな。
暴落した地価が、今度は高騰するチャンス来たか!?
もっとも、あちこち瓦礫だらけだから、しばらくは復興作業が大変だろうけど。
「肉焦げてるぞー。はよくえー」
なんてマイペースなんだ、うちの住人達は。
俺も、BBQに参加するか。俺が、BBQに参加する日が来るなんてなあ。
「あんたも、ジャスティス・ポイント集めてんでしょ? じゃあ、今日から私達も仲間だね」
ビールを豪快にぐいぐいやりながら、弁護士がそんな事を言い出した。
クライアントから、正義のヒーローに降格したのか? 達、って事は、ここに居る士業全員そうなの?
いつの間にそんな話になったのかといえば、BBQの間にかな?
エージェントのフェニックスが、小型ロボットになって参加してたからな。
「私達もポイント貯めて、異世界へ行く事にしたのよ。こんな仕事してると、人間の闇を見てしまってね … 。あー、異世界行きてー!」
現代社会の闇は深いな … 。異世界が、理想の世界なのかというと、確証は無いんだがなあ?
他人が異世界に憧れてるの見てると、ちと冷静になるな。
異世界に行けば、のんきなスローライフが保証されてるなんて、誰が言った?
エージェントに確認しておかないと。
「なあ? ジャスティス・ポイントの特典で行ける、異世界ってどんな世界なんだ? 勇者になって魔王を討伐する世界とかじゃないよな?」
「あー、それ聞いちゃうー?」
嫌な予感のする返事だな?
この世界以上に、理不尽で修羅な世界って可能性もあるのか?
「どんな異世界に行けるかは、ガチャだよ! 楽しみだね!」
「リセマラ可能ですかね?」
ハズレだった時のやり直し。リセットマラソンは、仕様とか規約上可能なのか?
「この世界の人類は、すぐそういう事思い付くね? 安心して、ここよりヒドイ世界無いから」
え、俺らの世界ってそんな … ?
結局誤魔化されてしまったが、異世界に引っ越すって事でいいか。仲間も居るしな。
どんな炎上プロジェクトだって、チームのメンツ次第では楽しく乗り切れるもんな。
逆に言えば、どんな安泰なプロジェクトだって、チームのメンツと気が合わないと、憂鬱極まり無いワケだが。
そうだなー、考えてみれば、異世界へ行くのも、派遣先が変わるのも似た様なもんかなー。
「というわけなんで、頑張ってね! 正義の執行とやらは、あんたらに任せるから。その代わり、今後は回収した現金は全部そっちへ行くからね」
ああ、なんだ。正義のヒーローが増えたワケじゃないのか。
ただし、金の流れは変わる。俺には、入って来ないけどな。
もうさ、俺は魔女共に養って貰えば、よくない?




