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お祭り

「一旦帰ってお祭りの用意って、何をすればいいんだ?」

「んー。浴衣でしょ浴衣!」

雫先輩と一旦解散し、3人で家の道を辿る。今日はいつもよりなんだか乃亜が上機嫌だ。

「なんか乃亜ちゃん、嬉しそうだね。」

「お祭りなんてめっちゃ久しぶりなんだよ?楽しみに決まってるじゃん!!」

「確かにいつぶりだ?でもこの祭りには来たことあったよな。」

「3年ぶり......とかじゃない?私と乃亜ちゃんと壱龍でいったでしょ。あの日は乃亜ちゃん珍しく、外出できたんだったよね。」

「確かにそうだね〜......去年も一昨年も本当は行きたかったんだけどね。」

「今年は行けるんだし、楽しい思い出作ろうな!」

久しぶりに、こんだけ笑ってる乃亜見たな。いっつも習い事大変そうだし、忙しいんだろうしな。

実のところ、乃亜は歴史のある貴族の末裔で結構お嬢様だったりするのだ。親は優しい人で基本乃亜に何でも任せているのだがお嬢様教育だけは譲らず、習い事があるとかで昔から遊ぶ機会が少なかった。

だからこそ彼女は背がピンと伸び、ご飯を美しく食べてそんな上品さでも多くの男を魅了してきたわけなのだが、本人からすれば実のところ大変なだけらしい。昔から僕らに早く辞めたい。2人はいいなと愚痴を言っていた。

たまには乃亜の気分転換に楽しくできればいいよな。

何もできない子供ながらずっと気にかけてきた幼馴染のことだ。こういう時くらい楽しませてあげたい。

「あらお帰りなさい乃亜。」

「はい。ただいま戻りました。お母様。」

あ、今日は珍しく庭仕事か。

豪邸の前乃亜は小さく手を振っている。僕らは振り返してその隣の家の前に立った。

「それじゃ、あとすぐこいよ。」

「分かってるし、乃亜ちゃんの家集合ね。虎生牙くんも連れてくるんだよ。」

「......まじか。」

あんま乃亜には合わせたくないんだけどな。

「それじゃ。」

家に入って行った和樹を見送り鞄を下ろして後ろのポケットから鍵を取り出す。

なんか、久しぶりに見たな乃亜のお嬢様モード。なかなかギャップがあるもんだよな。

『忘れてくれないかな。』

何故だかそんな乃亜の声が蘇ってくる。あのデート、あれは夢だったのだろうか。あれ以来別に乃亜といい感じにならないし。

......そこまで考えて。また自分の昔の気持ちが胸の中にあることを感じる。どうしてだろう、忘れようと思ってたのにこの感情は忘れられないのか。こんなことで悩むなんてつくづくつまんないやつそんなことは分かっているけど......。

「告白は、できないんだよな〜。」


「どうしたのにいちゃん!!」


.......ぱーぅぱーぅぱーぅ。

僕は耳たぶを押して耳が壊れていないかを確認すると玄関に立つ妹をぎっと睨んだ。

「もーう、そんな顔しないでよお兄ちゃん。まだ反抗期の来ていない可愛い妹にする顔じゃないよ〜。」

「耳壊しに来る妹だからだろ。」

このテンプレ妹キャラを演じてくるしょうもないやつは僕の実妹、みんなには言っていないが、乃亜や和樹にさえ言っていないが。実はいる、ちゃんとした妹なのだ。松山有栖まつやまありす。顔が二次元から飛び出してきたかのように整っているので誰にも存在を伝えていない、伝えたらめんどくさくなるから。そんな妹だ。

本当は構ってやりたいところだがそんな時間もないので、僕は彼女の隣をずんずんと歩いていく。

「どうしたのお兄ちゃん。帰ってきて急に告白の話し出したかと思ったら今度はこんなに可愛い妹をスルーしちゃうのお??酷いよおにいちゃん。」

「そんな駄々をこねる年齢でもないだろ。」

「別に、優しくしてくれたって良いんじゃない?可愛い妹なんだからさ。」

「まあ、ちょっとだけな。」

「そうそうそのままもっとポンポンしてよう。」

「いや、ちょっと忙しいからさごめんな。」

「ま、まあ良いよ。優しい妹だから許してあげる。」

財布とスマホを確認して妹のあたまをぽんぽ頭をポンポンしてやると、彼女は拗ねている様子だったが少し機嫌を直してくれたようだった。

「そういえば有栖。虎生牙はどこだ?」

「あー、ださ兄は2階にいるよ。」

「そっか、ありがとう。」

ださ兄、か。実の兄が実の妹にそう呼ばれていることになんだかなと呆れながらも二階への階段をタタタタッと駆け上がる。最難関が来たな。

部屋の扉の前、ため息をつく。

虎生牙は基本出かける時はごねる。とにかくごねる。

とにかく面倒くさい兄なのだ。

だからいざ誘うと言うのはちょっと嫌な気分だったのだが......

「おかえり壱龍。」

「え、うん。ただいま。」

いつもなら休みの日は大体寝転がってるだけなはずの兄が珍しく起き上がってたもんだから僕は驚きのあまり声が出なかった。

「きょうはどうしたの?珍しく着替えてるし。」

「だってあの会長と祭りに行けるんだろ?後乃亜ちゃん。まあ和希ちゃんも綺麗だけどねあの2人には及ばないっていうか。」

「あの、兄ちゃん。普通にキモイよ。」

ぐさっぐさぐさと僕が刺すと

兄は床に倒れ込み、またいつものようにグデーンとなった。

「ごめんごめん。そんなことないよ。冗談じゃん。」

僕がそういうと兄の顔はすぐにパーっと晴れやかになった。

「そ、そうだよね。まさか、壱龍が、そ、そんな、僕に悪口言うなんて、ありえないよね。」

ごめん兄ちゃん、とりあえず都合が良くなったので僕はそう言うことにしといて兄を急かす。

「ほら!早く行くよ!あんま時間もないんだし。」

「わかったわかった。ごめんよ兄が不甲斐なくて。」

毎回ちょっと病むのやめてくれないか???いや、そうじゃなくて!

「まあ、その格好、なんだね。」

祭りでやる気があっても、これかあ。

ちょっと直してやりたかったが、時間がないと思い気持ちが焦っていたので、とにかく乃亜の家に入ると玄関で乃亜が待っていた。

「乃亜ちゃん!久しぶり!」

「あ、虎生牙先輩お久しぶりです!今日は色々整えてあげますからね!」

「うん、本当ありがとうね。乃亜ちゃんに整えてもらうと大体いっつも褒められるんだよね。」

「ありがとうございます。あと壱龍は......まあいっか!面倒見てあげたいんだけど時間がないからなあ。」

僕は上の空でそんな話を聞いていた。だってそんな話が耳から入ってこないほどに乃亜が可愛くて仕方なかったからだ。

いっつも長く降ろされたピンク髪は今日は高い位置で結ばれて。その髪の色と水色の浴衣はとにかく相性抜群で。乃亜が美人タイプの私服を着てるはレアだしとにかく綺麗だからつい見惚れてしまう。

「ん?どーしたの壱龍。ぼーっとしちゃって。」

乃亜がひょこっと僕の顔を覗き込む。

その小動物のような動きに僕はつい顔を赤くして目を逸らす。

「いや、何でもないよ。」

乃亜はあーあーそうですか。とでも言うように僕を見て笑う。昔っから、乃亜に勝てる気がしないんだよな。

「乃亜さん!ここは家でしょう?何ですかその言葉遣いは。」

「あ、婆や。ごめんなさい。つい気を抜いてしまっていたわ。」

「私は別に良いと思いますが奥様に見つかったら何を言われるか分かりませんよ。」

「はい。重々承知しております。」

昔からお世話になってる婆やはすごく優しくてかっこいい人だ。僕らに軽く会釈すると廊下をスタスタと歩いていった。

「本当婆やでよかったわ。つい倒れそうになってしまうぐらいだったもの。」

「親に見つかるとやばいのか?」

「まあまあです。私の家には教育方針がありますから。」

「なんかすごい違和感。」

「しょうがないじゃないですか。」

喋り方変わると人ってこんなに印象変わるんだな。さっきまでの乃亜は着物は着ていたけどいつもの少し子供っぽい美少女な乃亜だったが、今は上品な美女な感じがあってすごくたまらない。てか浴衣の破壊力がエグすぎる。首元とか......もうこれただで見ていけない気がしてくる。

「なあ、乃亜。」

「うん?急にどうしたの?」

僕は財布から1000円を取り出す。

「受け取ってくれ!!」

にっこりとしてた乃亜の顔から笑みが引いていく。

「壱龍さん。ふざけてるなら用意してください。今から仕事に行くんです。」

「あ......はい。」

なんか、すいません。


「和希!!似合いますね!」

「そうかな?ありがとう乃亜ちゃん!!」

うわ、すげーな。赤色の浴衣を着て髪をしっかり結ってる和希もまるで漫画から出てきたみたいだ。

この2人と、これから祭りだって?

鼓動が高鳴る。なんか、これが青春なんだな〜って感じだ。

「おい、壱龍。僕はどうだい。」

興奮気味な兄に一つため息をついて振り返ると、そこには誰?と思うほどのイケメンがいた。

「これが......お兄ちゃんなの?」

「そうだぞ。乃亜ちゃんの技術はかなりすごいからな。」

「そんな。褒められるほどのことでも......。」

「いや、本当凄いって!自信持って!」

「虎生牙先輩......。ありがとうございます。」

そっか、乃亜が......。

にこにこと会話する2人。その姿を見て何だか胸が痛んだ。そんなに笑顔で、何で今日はそんなにお兄ちゃんに構うんだ。

「壱龍。どうしたんだ?そんな怖い顔して。」

兄ちゃんが僕を見てそんなことを言う。

怖い顔?何の話だか、何の話だか......

「う〜ん。どうしたんですか〜。」

乃亜はいつも通りいたずらな笑みを浮かべながら僕を見ている。何だか......なんでなんだか。僕は乃亜の目に惹き込まれて目が離せなかった。

「そんな見つめないでくださいよ。照れるじゃないですか。」

和希はつまらなそうな顔をしている。

「乃亜ちゃん、そろそろ集合時間になるし外出ようよ。」

「了解です。では和希、行きましょうか。」

和希と乃亜が玄関の扉を開け外に出たので僕らもそれに続く。外には熱い日差しが燦々と照っていた。


「うわ、かわいいね。みんなやる気満々だ。」

祭りに着くと開口一番雫先輩が僕らを褒めてくれた。

「ありがとうございます。どうせヒーローショーがあるなとも思ったんですけどそれが始まるまでは可愛くいたいなって思ったので。」

乃亜は普段より満足したような笑顔を浮かべている。

その後ろで和希は乃亜の手をギュッと握りながらうんうん頷いている。どっちもそれぞれの良さがあって可愛いんだよな。どうしてこんな2人が幼馴染なんだか、前世で結構徳積んだんだろうな、俺。

と言うかそんなことを言ってる雫先輩もいつもは下ろしてる長い黒髪をまとめてゴムで結びいつもとは違って可愛い感じだ。そんな雫先輩は途中で何かが気になったかのように目をぱちくりとし、一度顔を下げると

またそっと顔を上げた。

「その、もしかしてだけど壱龍くんの後ろにいるのは......虎生牙くん?」

「あ、うん。僕だけど。」

確かに、これは驚くよな。普段一切清潔感のないクラスメイトがここまでイケメンな格好してるとか、絶対燃えるやつだろ。

ここから始まる恋もあったり......

そんな僕の思いとは裏腹に彼女はちょっと嫌そうな顔をした。

「今日はありがとう、そしてよろしくね。」

彼女は素っ気なく挨拶をすると僕らに背を向けて歩き出した。

「お兄ちゃん、なんかしたの?」

「いや、特になんもしてないけれど、なんか珍しく厳しいな雫さん。」

「ん?案外お兄ちゃん接点あったりするの?」

「ああ、うん。隣の席だからよく話してるよ。僕みたいなのにも優してくれるしね。僕さ、乃亜ちゃんに整えてもらうと色んな人からジロジロ見られるからさ、実のところ素材に自信あるわけじゃないし僕なんかが乃亜ちゃんにセットしてもらうのは変な格好なんじゃないかって嫌になるんだけど、彼女なら安心できるかなって、でも逆効果だったみたいだね。」

さっき話してからちょっと落ち込んでるなと思ったらそう言うことか、別に雫先輩も悪く思っていない気がするんだけど。

「虎生牙先輩、ちゃんと自信持ってくださいよ、私が整えてあげたんですから!」

「そ、そうだね。よく考えれば乃亜ちゃんに失礼だったね。せっかく整えてくれたのにごめんね。」

「謝ることじゃないですよ、私も好きでやってるんですから。てかそんなことより私は雫先輩にアタックすべきだと思いますよ。」

「な......なんで。僕なんかが。恐れ多いよ、彼女は僕なんか見てくれないでしょ。」

「でも、すきなんでしょ好きなんでしょ?雫先輩のこと。」

「......え、なんで。ま、まあそうなんだけど。」

照れる兄貴。僕は意外すぎて目が飛び出そうだった。やけにやる気あるなとは思ったがそう言うことか、雫先輩に釣られていたのか。

「乃亜ちゃんはよく気づくね。」

どこからかりんご飴を買ってきた和希が合流してきた。いつのまにどっかいってたんだよおい。

「あ、和希おかえり。今恋が始まりそうでさ、その話してたとこ。」

「え、なになに?誰の話?」

和希は普段クールなタイプだが恋バナにだけはよく食いつく。お兄ちゃん、これ多分面倒くさいことになるわ。

「今ね。虎生牙先輩が雫先輩のこと好きって話してて。」

「えっ、えっ。虎生牙先輩が!????」

和希は目をキラキラさせてお兄ちゃんに近づく。お兄ちゃんは困ったように頷いた。

「雫先輩ロン毛好きだし結構ありだと思いますよ!」

「あ、うん。ありがとう。」

意外な新事実、それまじなのか?

「虎生牙先輩。ズバリ今日!告白とかしちゃいます??????」

「そ、そんな。だから恐れ多いって。てか雫ちゃん見失なっちゃいそうだし早く行こうよ。」

「雫ちゃんだって!もうカップルじゃん。」

「乃亜、ほどほどにしといてやれって。」

てか俺がこんな照れ照れしてる兄、見てられないって。


「ここだね〜。ショーは五時半からだから......。後20分くらいだね。用意しよっか。」

ステージでは今は高校生の、軽音部だろうか。バンドが演奏をやっていた。

「ガチで着ぐるみみたいなの着なきゃダメなのかな。」

挽回を狙うようにお兄ちゃんが雫先輩に話しかけたが彼女はぎこちない笑顔を返した。

「そうだね。まあそのために来てるわけだし......。」

いや、先輩。それめっちゃ僕の兄がバカみたいになってます。

「その、脇役とかあるのかな?なんて思ってたんだけど......その、ないんだなって。」

「あ、ああそういことなんだね。あんまり気乗りしないかもだけどよろしくお願いします。」

「なんかさ、ガチで気まずいじゃ〜ん。」

「乃亜、なんか楽しそうだな。」

「いやちょっとは気まずさ感じてるけどさ、でも、なんかこのギスギスした感じってたまらなくない??」

乃亜は本当ちょっとやばいやつだよな。

「なんか失礼なこと考えてない?壱龍?」

「い、いや別に。なんでもないよ。」

こいつ本当に勘が鋭すぎる。

「おい、乃亜。そんなこといいからこの空気どうにかしろよ、無言になっちゃったじゃねえか。」

「別に良いでしょ?なんか楽しいじゃん。」

僕はサイコパスな幼馴染に呆れながら、バンドの演奏のリズムに乗って、どくどく脈打つ心臓を抑えるのであった。









今回は結構早く更新できました!くどさんいちです!

今回の推しキャラは虎生牙先輩!気弱な男の先輩って絶対優しいじゃないですか、どんなアニメでも結構好きになる立ち位置なんですよね。乃亜ちゃんの意外な面も今回描けて嬉しかったです。書くごとになんだか愛が生まれてきて、最近はいい感じだなって思っています。最近は気持ち的にはあんまり乗れてなくてばばばばーっとかけてるわけでもないんですけど自分なりに愛を持って作品制作に取り組んでいます。皆の意外な面がこれからどんどん出てくると思うので、是非推しキャラを決めて、続きを楽しみにしてもらいたいです。応援よろしくお願いします!!

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