旅人
物語の舞台はソウル。
今も昔も女性は強い!
内助の功って何のこと!?
働く女性の恋愛と結婚。
過去から現代まで脈々と続く女性の包容力を描く。
「うわぁ!」
突然、目の前に開けた鎌倉の海を見て、ハナは思わず小さな声が出た。
ソウルのコスメ会社に勤めるハナと親友のソラは休暇で日本を訪れていた。
「近くにお花が綺麗で有名なお寺があるみたい」
ソラがスマホを見せると、ハナは趣味のカメラを海に向けながら
「次はそこへ行ってみようか」
と言って、シャッターを何度かきった。
二人を乗せた電車は海沿いを走り、小さな駅に着いた。
少し歩くと大きな赤い提灯が見えてきた。
寺の門をくぐり、階段を上ると立派な本堂が建っていた。
二人は初めての日本のお寺に戸惑いながら、周りの参拝者の様子を暫く観察し、見様見真似で大きな観音様に祈りをささげた。
「いつか素敵な人に出会えますように・・・」
「世界の平和が未来永劫続きますように・・・」
二人は真摯にお祈りをした。
本堂を出て、右へ行くと海の見えるテラスがあった。
さっき見たキラキラと輝く青い海が眼下に広がっている。
「あ~風が気持ちいい!」
ソラの髪が風になびいている。
ハナは持っていたカメラでソラと光る海を写真に撮った。
「お腹空いたね。」
「そうね、どこかで美味しい物食べようか!」
二人は、来た道を戻ろうと歩き始めた。
「ちょっと、待って。このおみくじを引いてみる」
ハナは小さな箱に入っているおみくじを一枚引いた。
おみくじの袋を開けると、小さな紙に文字がかかれていた。
「日本語だから、何が書いてあるのか解らないな。」
ハナは少し残念に思った。
「一緒に入っているこのガラスのキーホルダー。可愛いからいいや」
それはキラキラと光る鎌倉の海の様な色をしたトンボ玉の根付だった。
小さな紙と一緒にポケットに入れた。
ブー・ブー・ブー・・・
その時ハナのスマホに着信が。
ソウル本社の社長、ユミからだった。
慌てて電話に出るハナ。
「はい、ハナです。」
「今、お話しても大丈夫?」
会議を終えたばかりのユミ社長が、大勢の部下を引き連れて廊下を歩きながら会話を続ける。
「急に、鈴木社長とアポがとれたの。休暇中に悪いけど、直ぐに日本支社長と一緒に取引先に行ってほしいんだけど。」
ユミ社長は小さな町の手作りコスメ店を韓国大手のコスメ会社にしたやり手の女社長だ。
ハナとソラの憧れの女性でもある。
「はい。今すぐ東京へ向かいます。」
そう言って、二人は駅で鳩の形をしたお菓子を買って、東京行きの青い電車に飛び乗った。
「はぁ、間に合った!」
二人は席に着いて一息ついた。
「すみません、これ落としましたよ」
ハナが振り返ると、背の高い若い男の人が立っていた。
手にはさっきお寺で引いたおみくじの青いトンボ玉の根付をぶらぶらと揺らしていた。
「あ、ありがとうございます」
少しおぼつかない日本語でお礼を言うと、
「あ、僕は日本語が少しだけわかります。」
とやはりおぼつかない様子で答えた。
「もしかして、韓国の方ですか?」
ソラが韓国語で話しかけると
「そうです、あなた方も韓国人?」
ふんわりとした髪に優しそうな瞳の青年が二人に微笑みかけた。
彼の名前は、ジュン。
留学を終えて、ソウルに帰る前に鎌倉観光をしていたとの事だった。
「これ食べます?」
ソラが鳩の形のクッキーを手渡した。
「ありがとう、いただきます。」
そう言って、袋を開けたジュンは鳩の頭からかじった。
ポロッ・・・ポロッ・・・
お菓子が口からこぼれ、シャツに落ちた。
このお菓子は、口の中の水分を持っていかれるタイプ。
ジュンは慌てて、持っていたお茶を一口飲むと、
ググフッ・・・
今度は、咽ている。
「はい、これで拭いて!」
ハナは少し呆れて、バックから取り出したウェットティッシュを手渡した。
3人は東京に着くまで、話が弾んだ。
『東京~東京~』
電車が駅に着き、
「それじゃあ、今度はソウルでお会いしましょう!」
ジュンは、さわやかな笑顔で軽く手を挙げた。
「はい、ぜひ、またソウルで会いましょう」
アドレスを交換し、彼と別れた。
彼の姿が雑踏に紛れ見えなくなると
「ねぇねぇ、ジュン君、凄くカッコよかったよね!」
ソラは飛び跳ねるようにしながらハナの肩を叩いた。
「そう?ちょっと頼りない感じがしない?まぁ、顔は良かったかな・・・」
二人は日本で出会った青年とソウルで会う約束をして、日本支社へ向かった。
日本旅行中に出会ったのは、どんな縁があったのか。
舞台はソウルになります。