第二十六話:ホラー映画あるある
ホラー映画あるあるのように。
扉の方に何かいるのでは!?と見たら、なにもない。
安堵して顔を元に戻したら、そこに何かがいる――!
当然、叫びそうになるが、ふわりと手で口を押さえられた。
こういう時、幽霊は手で口を押さえたりします!?
しないと思う。ここは「キャーッ」と叫び声が響き渡り、場面転換だと思います!
ということで怖くて、怖くて仕方ないのに。手で口を押さえられたことで少し冷静になり、閉じていた目を開くことになる。
そこで見えたのは……。
ベージュの粗末な布を頭から被っているが、美しいアイスブルーの髪、サラサラとした前髪の下にはきりっとした眉。私を見つめる透明度の高い海のような碧い瞳、そして形のいい唇には自身の人差し指が添えられている。
つまり「静かに。声は出さないで」の合図。
「クラウスさん!」という叫びは呑み込み、代わりにこくりと頷くと、彼は私の口から手を離す。
「サプライズ。びっくりした、フェリス?」
「……ビックリしました。転移魔法は建物の中には入れないですよね……!?」
「そうだね。でもこの村の家の人は、山奥であり、村人同士の仲がいいからか。鍵なんてどこもかけていない。裏口の扉は風の通りをよくするためなのかな? 開け放たれていたから、お邪魔させていただいた。あ、まだ僕は正式にこの村には戻っていない。丁度、ティータイムにあわせて到着予定だ。その時間になったら馬を待たせている場所に戻るよ」
これにはビックリ!
ティータイムに到着するなら、なぜ今、ここに……?
「どうしてここに現れたのか――そう思っている?」
「そ、そうです」
「一足先にフェリスに会いたかった。この答えでは不合格ですか?」
もう心臓が止まりそうになる。
いきなり目元がキリッとして、表情も変わったと思ったら! ジョーンズ教授になるのだから……!
「ちょっと細工をしているので、邪魔されることはありません。時間まで、少しおしゃべりをしましょうか?」
ジョーンズ教授になったクラウスが私に手を差し出す。私は自然とその手に自分の手を載せ、案内されるままにこの部屋のソファに腰を下ろす。
彼も私の隣に並ぶようにして座った。
「さて。フェリス嬢。おしゃべりをするにあたり、君の希望を聞かせてもらえますか?」
「希望……?」
「私は特級魔法の使い手であることから、自分の身を守るため、様々な人格を演じ分けることになった。例えば今の私はジョーンズ教授だ。頭脳派で論理的な思考の学者タイプ。インテリのステレオタイプを具現化したつもりです」
大切な小道具とも言えるメガネがなくても、今のクラウスはちゃんとジョーンズ教授に見えた。表情や声音が本当にガラリと変わった。
と思ったら!
ニコッと笑顔になった、そしてきっちり折り目正しく座っていたはずなのに、カジュアルに足を組み、ソファにもたれるその様子は……。
「街中にいる好青年。気さくな雰囲気で話しかけやすいだろう? ……また君に会えて、とっても嬉しいな。ところで僕との約束、覚えていてくれた? まさか僕以外に、頰にチューしたり、していないよね!?」
「エ、エディ、それは……」
焦る私の顎をクイッと掴むと、自分の方に向けたのは……。
いつのまに、ベージュの布を頭から下ろしていたの!? しかもその下に着ている白のシャツの胸元、あんなに開いていた!?
引き締まった胸筋が見え、健康美に息を呑む。
「クルスは武道派であることを隠さない。男性らしさを全面に出している。でも品の良さも感じさせるようにしているんだ。その延長で生まれたのが……」
モナリザのような柔和な笑み。
中性的で、女性のようにも見えるこの独特の雰囲気!
「私が描いた絵を気に入ってくださり、ありがとうございます。あのような絵でよろしければ、いつでも描いて進呈しますよ」
「う、嘘ですよね……!?」
「あたしは美味しいに賭けるわ。お兄さん達はどうする!?」
あの時の会話を再現するように話すのは……絵描きのシャイン! なのだけど、まさかこれも……。
もはや絶句でしかない。
「ということでフェリス。君は誰が一番気に入った?」
涼やかな声はゼノビアの護衛であるクラウスだ。
一体、彼はいくつの人格を演じることができるの!?
そして本当の彼は……。
「クラウスさんは、『クラウス』が本当の名前なんですか……?」
「ああ。そうだ」
直前まで中性的で柔和なオーラが漂うシャインだったのに!
すっかりクールな護衛の顔になっている。
「演じていない、素の状態のクラウスさんと話したいです」
「それは……難しいな。どれも僕の人格だから」
そう言われてしまうと、とっても困るのですが!!!!!
「エディとクルスをあわせたような、明るく快活、でも洗練されている……そんな感じがフェリスは話していて落ち着くのかな?」
また変わった……!
まさにエディとクルスをあわせたような、爽やかな笑顔でクラウスが私を見た。
正直。
それは話しやすいというより、ド直球で私のツボのタイプなんですけど……。
ということは今はいい!
一体全体どういうとなのか、ここはクラウスから聞き出さないと!!!
お読みいただきありがとうございます!
夏らしいホラー展開でした♪
25話のラストと26話の冒頭までを1枚漫画で見たい(笑)
次話は18時頃公開予定です~