第二十五話:まずはやってみよう!
いろいろ考えたが結局。
作ってみないことにはどうなるか分からない。
幸いなことに寒天はたっぷり用意がある。
失敗したら再チャレンジは十分にできるのだ。
ということで!
「羊羹、作ります! まずは寒天をふやかします」
空色のワンピースに白のエプロンをつけた私は、羊羹作ります宣言を行う。
アシスタントは、いつもの装いに生成りのエプロンをつけたエル、町の人にプレゼントされた着物を着て白のエプロンをあわせたピアだ。
ピアが早速、水をいれたボウルに寒天を浸してくれる。これはこのまま十分ほど、放置だ。
その間に砂糖・蜂蜜・水を鍋に入れ、中火で加熱しながら溶かすことになった。これは私が魔法で火力調整し、エルがかき混ぜる担当をしてくれる。
「なんだかとってもいい香りがする~」
「お昼ご飯を食べた後なのに、この香りでなんだか無性に甘い物を食べたくなります」
ピアとエルがうっとりした顔になるが、それは私も同じ。キャラメルを思わせる甘い香りが、次第に漂い始めたのだ。厨房を囲むようにこちらを見ている村人も……。
「そういえばゲンさんがヨクアンを作っている時もこんな香りがしていた」
「ああ。この香りに、ゲンさんがヨクアンを作っていると分かり、村人が集まった」
それを聞くと、やはりこの手順で間違いないのだと思える。
「寒天もいい感じにふやけたので、この甘い香りを漂わせる鍋に、寒天を入れます」
ピアが寒天を鍋に入れ、エルが丁寧にかき混ぜる。
「中火にして寒天が完全に溶けるまで、よく混ぜてください。この時、焦がさないよう、注意してください」
私が説明をしている間もエルはしっかり手を動かし、寒天を溶かす。その間でピアが木製の容器を用意。
「一度こして滑らかさを確保します」
こすことで羊羹の滑らかさを確保、そして遂に容器へと流し入れた。エルが手早く作業してくれる。
「一旦、これで粗熱を冷まします。その後は氷室で数時間冷やせば完成です。丁度ティータイムにみんなで試食ができますね!」
私の言葉に村人から拍手が起きる。
「ヨクアン自体の作り方はとてもシンプルだったのね」
マーガレットおばあちゃんの言葉に私は頷く。
「大変なのは寒天です。ですがゼラチンでは、羊羹のあの食感を出せない。そもそも寒天の元になる海藻がこの島で採れたのが奇跡。そしてゲンさんがこの島にいたのも奇跡。しかもゲンさんが寒天の作り方を知っていて、羊羹のレシピも頭にあった。これもまた奇跡です。いくつもの奇跡の末に誕生したのが羊羹だったのだと思います」
私の言葉を聞いたマークがさらに続ける。
「マーガレットさんが寒天の作り方を覚えていたこと、フェリスさんが魔法を使えたこと、村のみんなが少しずつヨクアンのことを覚えていたこと。これも全部、奇跡に思えます」
「はい! まさにその通りです。今日があるのはみんなが生み出した奇跡ですね」
そこで粗熱のとれた木の容器を氷室に運び、魔法で温度調整。ティータイムまで一旦解散になった。
この時間を使い、エルは昨晩と同じで寺子屋を開業。村の子供達とピアに、今日も元気に読み書き計算を教えている。
平和なその様子に癒されつつ、私はゲンさんが使っていた部屋を見せてもらうことにした。
東方の料理のレシピをゲンさんはほとんど破棄してしまったというが、日記であるとか、雑記や手紙は残っている。そうマーガレットおばあちゃんが教えてくれた。
それらを見せてもらうことにしたのだ。
なぜ見るのか。
これは単純にもう、ノスタルジーだ。
完全に西洋な世界で生きていると、前世日本の和の風景が、何となく恋しくなる。毎日フランス料理では飽きてしまい、和食が恋しくなるような気持ちだ。
東方の文化に触れたい。東方から来た人の残した息吹を感じたいと思ったのだ。
「フェリスさん、お茶の時間が近くなったら声を掛ければいいのね?」
「はい。それまではこちらのお部屋で、ゲンさんの残した日記などを見させてもらいます!」
「ええ、ごゆっくりどうぞ。ただね、ゲンさん、誰かに秘密にしたいこと、不思議な文字で書くの。あまりにも文字が複雑で、何を書いているのかなんて、分からないわ。もうそこは謎の暗号文みたいよ」
それについてはピンとくる。
きっとそれは、平仮名や漢字なのではないかと。
「暗号文……それは何だか面白そうですね! 解けないか、挑戦してみます!」
「ふふ。フェリスさんなら解けるかもしれないわ。頑張ってね」
マーガレットおばあちゃんが出て行き、一人になった私はゲンさんの書斎兼寝室の本棚へ向かう。ほぼ洋書が並ぶがそこに、日記がズラリと並んでいる棚があった。
背表紙に書かれているのは日本語!
いきなりの漢字に懐かしさを覚える。
キイイイッ……。
「!」
扉が軋むように開く音が聞こえ、驚いてそちらを見る。
断罪での斬首刑や絞首刑、火あぶりを回避するために。私は将来断罪を告げるロス第二王子に、幼い頃から繰り返しホラー話を聞かせた。そんなことをした私はホラーに強いのかというと……。
まったく強くない! 前世でも今生でもホラーはどちらかと言えば苦手だった。
開いた扉の前で、見えてはいけないものが見えたらどうしよう。
心臓はいきなりのフルスロットルになっている。
だが扉は……。
開いたような音が聞こえたが、ちゃんと閉じられている。
気のせいだったんだ。
そう安堵し、本棚の方に顔を戻すと。
それはまるでホラー映画のワンシーンのように。
顔を戻すと目の前に!
お読みいただきありがとうございます!
さあ、この次、何が起きるでしょうか!?
次話は18時頃公開予定です~