第二十一話:辻褄合わせ
「フェリスお姉さん!」
「ピア!」
ピアは全身ずぶぬれの姿でこちらへ駆けて来た。
多分エルは救助活動をしており、建物の中にいたのかもしれない。ピアは外にいて、思いっきりあの雨が直撃したようだ。
「ピア、無事でよかったわ。マーガレットさんやマークは? 他のみんなは!?」
「みんな、無事だよ! 火傷したり、避難時に転倒した人もいたりで、怪我人はゼロではないけど……それでもみんな生きているから!」
「それは本当によかったわ」
そう言いながら、風魔法を使い、ピアの濡れた髪や服を乾かす。
「村を守るはずの柵がね、燃えちゃうと、村にみんなを閉じ込める檻になっちゃって。本当に大変だった。天気の急変でものすごい雨が降って助かったけど……奇跡だったんだよ!」
ピアの言葉を聞くと、エルとクラウスが言っていたことが妥当に思える。私が刑を言い渡すなら、エリオンドは火あぶりだわ(怒)!
「フェリスさん、ご無事で何よりです」
「マーガレットさん!」
「フェリスさん、怪我はないか!?」
「マークさん!」
村人が続々が集まり、その無事を確認し合うことになる。
みんなびしょ濡れだが、顔は笑顔。
なぜなら村を取り囲む柵はかなり燃えたが、その柵の中の家への被害は免れることができたのだ。何より怪我人はいるが、みんな生きている。命があって良かったと喜んでいた。
重篤な被害が出なかったこと。それはクラウスのおかげだった。本当はすべて彼のおかげだと言いたい。それを伝えられないのはとても歯がゆいし、残念だった。
そう思いながらクラウスの姿を探すが……いない!
「あの、クラウスさんは!?」
さっきクラウスと話していた村人に尋ねる。
「あ、あの美形の兄ちゃんか? 捕えた悪党のところへ戻るから、馬を借り受けたいと言われた。フェリスさんを救った兄ちゃんだ。快諾し、厩舎の場所を教えた」
「そうなのですね……!」
一番の功労者なのに。
何も言わず、ゼノビアの所へ戻ってしまうなんて!
厩舎の場所は幌馬車をとめる時に案内されたので分かっている。慌てて駆け出そうとすると、腕を掴まれた。
「お嬢様、どうしたのですか!? 首の傷の手当てをしましょう」
「エル! それは後でいいわ。クラウスさんがゼノビア伯爵のところに、エリオンドの所へ戻ると言っているの。私、クラウスさんと話したいことがあるのよ。厩舎にいるって言うから、行かせて」
「! ならば自分もお供します!」
村のあちこちにできた水たまりをバシャバシャさせながら厩舎へ向かうと、馬に馬具を装備し、今にも騎乗しようとしているクラウスの姿が見えた。
「クラウスさん、待ってください!」
「フェリス」
駆け寄り、必死の思いで尋ねる。
「エリオンドの、ゼノビア伯爵のところへ戻るのですよね!?」
「ああ。さすがに彼女だけでは、気を失ったエリオンドを運ぶことはできない」
エリオンドを捕らえること。彼を尋問し、いろいろ聞き出すのは必要なことであると分かる。でも……。
「クラウスさん、話の続きは……」
「そうしたいのは山々だが、奴の始末をつける必要もある」
「そうですよね……」
エディ、クルス、クラウスと、三つの名を持つミステリアスな彼に。聞きたいことが沢山ある。でもそれはすべて個人的に気に掛かること。エリオンドを捕え、トレリオン王国がした悪事を暴くことは、とても重要なことだ。私事を優先して欲しいとは言えない。
「村へ戻って来てほしいのか?」
ハッとして顔をあげると、透明度の高い海のような碧い瞳と目が合う。吸い込まれそうな瞳だった。
「はい……。話をしたいです。聞きたいことが沢山あるので……でもエリオンドから全てを聞き出し、トレリオン王国の悪事を止める必要があると思います」
すると私を見ているクラウスが、フッと口元に笑みを浮かべる。
「……分かった。いろいろ辻褄合わせをしたら、戻ってくる」
「!」
ゼノビアの元へ戻ったら、転移魔法を使い、きっと首都まであっという間に戻るのだろう。そこで尋問もすぐに始められる。
だがクラウスは魔法を使えない前提でここにいるのだ。皆に不思議がられないよう、いろいろな辻褄合わせは確かに必要だった。
「村に火を放ったエリオンドの手下は、ゼノビアの所へ向かい、制圧されているはずだ。討ち漏らしがあれば俺が始末をつける。ひとまずこの村は安全だ。だが村を囲む柵は作り直す必要があるだろう。これを機に木ではなく、石壁にした方がいい。モーリス伯爵に話をつけておく。ちゃんと身元がしっかりした作業員を送らせるから、安心するよう村人に伝えてほしい」
「分かりました」
クラウスは微笑み、そしてその顔を近づける。これは耳元でエルには聞かれたくないことを話すためだと分かっているが……。その美貌の顔が近づけば、当然体が反応してしまう。つまり思いっきりドキッとしていると。
「フェリス嬢。後ほど君がその情熱を注いだ冷やしラーメンを食べさせてもらいます」
そう言うとクラウスは美しいアイスブルーの髪をサラリと揺らし、軽々と騎乗の人になってしまったが。私はもうドキッとどころではない程、心臓がバクバクしている。
だって今の言葉に、私はデジャブを覚えていたからだ!
フェリス嬢という呼び方。そしてその言葉遣い。
あの時は「つけ麵」を食べたいと言っていたが、間違いない。
今の声音は……!
「ではこれで失礼する」
優雅な微笑みを残し、クラウスは馬に掛け声をかけた。
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