第十九話:先って何ですか!?
顎をクイッと持ち上げられ、その顔をガン見してしまう私にクルスは――。
「フェリスは本当に護衛騎士と仲がいいよね」
「! だってエルは……」
「護衛騎士ではあるが、大切な仲間であり、友……と言ったところかな?」
「そ、そうです!」
懸命に答えるとクルスの顔が近づき、今度こそ心臓が止まりそうになる。
だが近づいた顔は私の耳元へ向かう。爽やかな香りと共に、クルスの息が首筋にかかり……。
「僕のことは仲間であり、友であり……の先を期待したいかな」
先って何ですか!?と思った瞬間、クルスの顔は離れ、顎から手も放している。そしてさっきまで私の顎をクイッとしていた手は、あの粗末な感じのベージュの布に向かっていた。
バサッと音がして、クルスはその布を羽織った。
「!」
目つきと表情がガラリと変わる。
さっきまでの大らかな雰囲気が消え、ピンと緊張感が漂う。
ゼノビアの護衛としてのクルスになってしまった――そう感じられた。
どんな人物でも演じられることを称え“カメレオン俳優”という言い方をするけど……。クルスはまさにそれだと思えた。エディとクルスは雰囲気が似ている。でも護衛という立場になると、全くの別人に感じるのだ。
服装も髪も変わってたわけではない。でも醸し出すオーラ、表情、眼光などが変わるだけで、一気に距離ができ、近寄りがたくなる。
「では戻るから」
声も変わり、すっと手を差し出されたが、それもよそよそしく感じられた。
すごい。
魔法の力ではない。
自身の立ち居振る舞いと声音だけで、こんなにもオーラを変えられるなんて……! つい感心してしまうが、そうではなく!
「転移魔法は私が」
「フェリス。君は足から力が抜けるぐらい、一点集中で魔力を使い、魔法を行使している。この場所は島の最東端だ。村からは相応の距離がある。君が転移魔法を使えば、村へ戻った時、疲労困憊だ」
「! それならクルスさんは天候を変えたのですよ!? クルスさんの方が魔力を」
すっと唇を押さえられ、やはりこれにはドキッとしてしまう。
「特級魔法の使い手の魔力は、上級魔法の使い手の比ではない。天候を変える魔法であっても、君が思うより多くの回数で行使が可能だ。具体的に教えることは、弱点をさらすことになるから言えないが」
そこでグイっと腰を抱き寄せられ、彼の胸に私の体はすっぽり収まる。
「フェリス、君は本当に、いつだって他者のことを考える。その親切心は、自分自身がよく思われたいと思い、することではない。君自身の気質なんだろう。そんな君を見ていると、自然と守りたくなる。君がそこまで頑張らなくてもいいように、支えたくなる」
クルスは護衛モードで声音も涼やかなのに。
言葉の一つ一つが温かい。
「頑張り過ぎるな、フェリス。肩の力を抜き、たまには甘えていい」
「!」
エルも以前、同じようなことを言っていた。頼ってください、お嬢様と。
でも私はエルをこんなところまで連れてきてしまったのだ。私がちゃんとなんとかしなきゃと思うのは当然だと思っていた。でも……たまには甘える……。
そうか。きっとエルも甘えて欲しかったのね。
ゼノビアのように強くて逞しい女性につい憧れてしまう。だが男性は本能的に頼られること、甘えられるのが、嬉しいのでは? そこはやはりヒロインみたいな令嬢が人気なのかな。
「男性に最初から頼るつもりで、べたべた甘えるような女性に貸す胸はない。フェリスのような頑張り屋だからこそ、放っておけなくなる」
まるで私の心を読んだかのような一言にドキッとした時。体がふわりと浮き上がるような感覚、そして感じる爽やかな風。
着地した足元には水たまり。
「お嬢様!」
エルの呼び声が聞こえた。
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次話は12時頃公開予定です~
月初と下期スタートで会議が多く
時間が前後するかもしれませんが
始まる前か終わったら更新いたしますので
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