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悪役令嬢は異世界でラーメン屋台を始めることにした  作者: 一番星キラリ@商業ノベル&漫画化進行中
【第一部】

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第九話:知らなければよかった。でも私は知ってしまった。

 ローストヴィルの地に、知り合いなどいない。

 この屋敷で暮らすようになり、誰かが訪ねてくることもなかった。


「エル」

「大丈夫です、お嬢様」


 エルは魔法を使い、革製の胴鎧(キュイラス)と籠手(アームブレース)、そして黒のスリムなズボンに脛当て(レッグアーマー)を身に着ける。さらに腰に剣、背には矢筒、肩から弓を背負う。その上で私の部屋へと向かい、トランクを手に持った。もしもの時に備え、トランクはすぐに持ち出せるようにしていた。つまりトランクの中に必需品が既に詰め込まれていたのだ。


「表と裏口を同時ということは、ご近所の方が訪ねてきたわけではないわよね」


「残念ながらそうなります。こういった訪問は、屋敷の人間を捕らえることが目的かと」


 まさかバレるとは思わなかった。


 貴族にしては質素過ぎる屋敷に暮らし、狩猟と市場の買い物で細々と生きていたのだ。狩猟の申請では偽名を使っているし、身分を示すようなものも提示していない。さらに新聞で報じられた通り、首都アールを目指したと思われていたはずなのに、なぜバレたのかしら……?


 エルとのスローライフにすっかり気持ちが緩んでいたの、私!?

 いや、違う。

 こんな場所を捜索するなんて、想定外……!


「お嬢様、落ち着いてください」


「エル……!」


「捕えることが目的ですが、まだ自分達の素性がバレているかどうかは不明です」


「それは……そうね。でも捕えられたらバレる可能性がある」


 エルはコクリと頷く。


「エル。ここで滞在を始めてから、あなたも頑張ってくれたから、魔法を使う機会はほぼなかったわ。だから魔力は温存できている。それでも上級魔法でも高度になる転移魔法は三度が限度よ」


「お嬢様……!」


「南部の都市へ逃げ延びたいけれど、きっとギリギリだわ」


 それを聞いたエルはぐっと口を結んだ後、真剣な表情になる。


「自分が足止めをします。お嬢様はお一人で逃げてください」


「!?」


「転移魔法は移動距離、移動人数で消費する魔力が変わります。自分がいなければお嬢様は確実に南部の都市へ逃げきれます」


 そこで私はハッとして尋ねることになる。


「エル、あなたまさか最初からそのつもりで……」


「そういうわけでありません。できればお嬢様をずっと護衛していたいと思っていました。ですがこういう時に役に立てるとも思っていましたので」


 エルが手にしていたトランクを私に差し出した。

 私はトランクを受け取るとすぐに蓋を開け、金貨の入った巾着袋だけを手に取る。


「ひとまずお金があればなんとかなる。これを持って、エル!」


「お嬢様……!」


「エル、あなたはとても有能よ。毎日の剣術の訓練の様子も見ていたわ。それに日々の狩りの成果からも、あなたは自分が思う以上に強いでしょう。それでも数で攻め込まれたらどうにもならない。ましてや今踏み込んできている全員が、中級以上の魔法の使い手だったら?」


「それならばなおのこと、自分が足止めを」


 そこで私はエルの頬に手を添え、その紺碧色の瞳をじっと見る。


「エル。これは命令よ。私について来ると誓ったのだから、絶対について来て。途中離脱なんて、許さないわよ」


「お嬢様……!」


 知らなければよかった。


 最初から一人で国外追放でこの屋敷で暮らしていたら、こんな気持ちにはならなかっただろう。だがもう遅い。


 私は知ってしまったのだ。


 誰かの帰りを心待ちにする気持ちを。誰かと一緒に料理を楽しみ、食事をする楽しさを。何よりも誰かがそばにいることの安心感を、経験してしまった。それはなかったことにはできない。


「どこに着地するか分からないわ。私のこと、絶対に離せないで、エル」


 畳み掛けるとエルは、その紺碧色の瞳を一瞬潤ませたが、すぐに真剣な表情になる。


「承知しました、お嬢様」


 そう言い終わるなり、エルが私を抱き上げたので、ビックリしてしまう。


「こうしていれば、もし湖に着地することがあっても、お嬢様は濡れません」


 これにはいろいろツッコみたい気持ちになるが、屋敷の玄関の扉が蹴破られたような音が聞こえてきた。


「三度目の転移魔法を使った後、魔力切れで私が気絶したら、後は頼んだわよ」

「お任せください」


 そこで私は転移魔法を詠唱した。

お読みいただきありがとうございます!

次話は明日の7時頃公開予定です~

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