第十八話:また会えた
水の勢いの強さに、立っていることが出来ない。
またも膝から崩れ落ちそうになったが、強く抱きしめられ、そして水圧に反するように体が浮き上がったと思ったら……。
降り立ったのは、白い砂浜のようだ。
足元にはサラサラの白い砂、そして波音が聞こえる。
体が楽になったと思ったら、強い力で抱きしめられていたはずが、解放されていた。さらに温かい風が全身を包むように吹き抜ける。
全身に感じていた水の気配が消えて行く。
バサリと私の体を覆っていた布が落ち、私は慌ててそれを拾い上げる。
布を拾い上げ、目の前に広がる断崖絶壁に驚く。
こんな場所、転移魔法でしか来られない場所だと思った。
「!」
飛んできた水滴に、私をここへ連れて来た人物をまじまじと見てしまう。髪色は違う。でも瞳の色は同じだ。透明度の高い海のような碧い瞳をしている。でも表情は全然違う。クルスの人懐こい雰囲気はなく、クールで人を寄せ付けない気配がある。
クルスみたいに見えるが、クルスではないかもしれない青年がこちらを振り向いた。
美しいアイスブルーの髪は、魔法で乾かした直後だからか。まだ少ししっとりした感じがしている。その髪をゆっくりかきあげ、手をおろした瞬間。
「フェリスさん、また会えたね」
朗らかな笑顔、そしてその声。それはあのクルス!
髪色は違うが、確かにあのクルスだった。
驚きはするが納得は出来ている。だって村の火災を鎮火させるために、突発的な雨を降らせたのだ。つまりは天候さえ操れる特級魔法を行使した。そんなことが出来る人間、それは五本の指に収まる。そしてそれができる人間を私は一人しか知らない。
「ゼノビア伯爵の護衛……それがクルスさんの正体なんですね。それだけではない。ポアラン男爵から私を助け出してくれたエディもまた、クルスさんなんですよね?」
「同一人物だったか。その答えは『イエス』だ。いずれ明かすつもりでいた。ただまだ早いかと思っていたけど……。打ち明けたい気持ちと、まだ秘密にしておきたい気持ちが、ない混ぜになっていたかな」
「それはどういうことですか!?」
問おうとする私の唇を、クルスが指で押さえる。
もう胸がドキドキしてならない。
「君のことは何と呼ぼうかな。フェリス、と呼びたいけれど、それだと馴れ馴れしいかな」
陽射しを受けてその美しいアイスブルーの髪が輝き、まるで大天使のように見える。そんなクルスからフェリスと呼びたいと言われ、「ダメです」とは言えない。自然と「フェリスで構いません」と答えていた。
「ありがとう、フェリス」
「御礼を伝えるべきは私です、クルスさん。本当にありがとうございます。あなたは何度も私のピンチを助けてくれました。ゼノビア伯爵は私が酔っ払いに絡まれた時、自ら大男を眠らせ、その後は……あなたに私たちを見守るように命じたのですね?」
「それはちょっと違うかな」
「違うのですか!?」
盛大に驚く私にクルスはくすくすと笑い、私に尋ねる。
「ここで僕とおしゃべりを続けるのと、村に戻る。フェリスはどちらを優先させたい?」
「! そ、それは……!」
クルスとおしゃべりを続けたら、いろいろ気になっていることを聞くことができる。だがこれは個人的な願望を満たすだけだ。
村に戻る。そこにエル、ピア、マーガレットおばあちゃんにマーク、村人もみんな待ってくれているはず! 何よりあの火災でみんな安否確認もできていないのだ。
「戻ります。村へ戻らないと。みんなのことが心配です。それにエルに帰るって約束をし」
そこで顎をクイッと持ち上げられ、目を大きく見開くことになる。
お読みいただきありがとうございます!
遂に謎の彼の正体が明らかに!
次話は明日の7時頃公開予定です~
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