第六話:ついに到着!
夜明けとともに目覚めると、ハーミット村を目指し、出発することになる。
ピアとは色違いのワンピースに着替えた。
私は空色、ピアは桜貝色。
私としては姉妹気分である。
エルは白シャツに明るいグレーのズボンにいつもの軽装備。
「では出発します」とエルは幌馬車を走らせながら、これから向かうハーミット村について教えてくれた。
「宿の主や、ロビーで見かけた人に聞いたところ、ハーミット村について、いくつか分かったことがあります」
「リサーチしてくれたのね。ありがとう、エル。それでどんなことが分かったのかしら?」
「ハーミット村は、山奥にある村。ですがいろいろな物資を運ぶため、馬車道は整備されているそうです。ただし村の周囲をぐるりと先端を尖らせた木の柵で囲んでおり、門を通過しないと村の中へは入れないとのこと。ちゃんと門番も置かれ、物見櫓もあるそうです」
かなり厳重に思えるが、それについてはエルはこんな風に補足する。
「来る者を拒む……という面もあるのでしょうが、獣による襲撃から村と村人を守るために柵は設置されたようです。山奥ですから、そのままでは獣に畑を荒らされ、盗賊や山賊に襲われてしまうからと」
「なるほど。そういうことね。よく分かったわ。エル、調べてくれてありがとう。幌馬車で門のところまで行けると分かり、安心ね」
「そうですね。途中から幌馬車を降りて歩きになるかと思いましたが、そうならずに済み、良かったと思います」
そんな会話を交わしていると五時を過ぎた。
次第に明るさを増す山へ続く道を、幌馬車は進んでいく。
二時間程走らせると、無人の休憩所に到着する。
井戸と簡素な木製のテーブルと椅子があるぐらいで、他に馬車や荷馬車の姿はない。
「見て~! 今朝もアサガオが咲いたよ!」
休憩所では、ピアが美しく咲いたアサガオを見せてくれる。
「今日も綺麗に咲いたわね。良かったわね、ピア」と私。
「本当に目が覚めるような青で、美しいです」とエル。
ピアは「えへへへ」と嬉しそうだ。
こうしてこの日も元気なアサガオ見ながら、サンドイッチをいただいた。
「では先へ進みましょうか」
「そうしましょう」
エルの掛け声に応じ、出発となる。
すれ違う馬車も、後ろに続く馬車もない中、ひたすら森の中の道を進むことになった。
「さすがに山奥の村と言われるだけあるわね」
「そうですね。少しずつ傾斜のある道を登っているので、標高もじわじわと上がっているようです」
標高が上がるにあわせ、気温は下がる。さらに既に太陽が昇ったものの、森の中でもあるので、陽射しは少ない。それでいて風も通りやすいので、この時間になっても暑さを感じなかった。
そんな夏なのに快適な森の中を進んでいくと……。
道の両端にマルベリーの実が見えてきた。
「そう言えば村の近くには、マルベリーの実が実っていると言っていたわよね」
「そうですよ、お嬢様! そろそろ村が近いのではないでしょうか」
それからさらに三十分程幌馬車で進むと、想像以上に立派な門と柵が見えてきた。門に併設された物見櫓も立派だった。
門は閉じられているが、物見櫓に人の姿が見えた。私達に気づいたようで、櫓にいる人が動いている様子も確認できる。
「お嬢様、門の横の扉から人が出てきました!」
「本当だわ」
そこで扉から出てきた人物をよくよく見て、驚くことになった。
髪色はダークブロンドで瞳の色は濃い水色、大陸でよく見る顔立ちだ。
だがその男性、着ている服は麻の生地で出来ている。しかしその服は、着物そっくりに見えるのだ! ちゃんと右前にして、帯もつけている……!
ここに暮らしていた東方人は親子二人だったはず。でも村全体に東方の文化が広まっていたのだろうか? それとも東方由来の冷やしラーメンを出す私達のことを聞きつけ、着物姿で登場してくれた……?
確か娘には子供がいたというから、もしや成長した子供なのかしら? つまりは東方人の血を引くから、着物を着ている?
いろいろ疑問が浮かぶが、その着物の男性の前で幌馬車を止め、挨拶することになった。
「初めまして。突然の訪問で驚かせてしまい、申し訳ないです。私はフェリスと申します。知り合いの船に乗せてもらい、この島に来ました。こちらの村には東方の方が住んでいたと聞いています。実は東方の料理に興味があり、料理本から得た知識でラーメンを作り、販売しています。今は夏なので、冷やしラーメンを販売しているんです。よかったらこちらの村でそのラーメンを販売し、また東方の文化について知っている方がいたら、お話を聞かせていただきたいのですが……」
いつもならエルが店主という立場で前に出てくれるが、今回は村が閉鎖的と聞いていたため、私が話してみることにしたのだ。
良くも悪くもこの世界では、女性に対するイメージがステレオタイプ化されており、余所者でも男性が何か言うより、女性の方が角が立たないという傾向があった。警戒心をもたれにくいというわけだ。
しかし。
「僕はマークと申します。この村に知り合いがいるのですか?」
エルと同い年ぐらいに見える男性は厳しい目つきで私を見て、低い声で尋ねた。
「知り合いはいません」
「ならば帰ってください。この村は余所者を歓迎していない」
お読みいただきありがとうございます!
ピアとエルに励まされ、ハーミット村に到着しましたが……
さて、どうなるのでしょうか!?
次話『第七話:まさかの展開』は明日の7時頃公開予定です~
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