第六十三話:終わり良ければ総て良し
「なんて美味しさなんだ……!」
「初めて食べたぞ、こんな料理!」
「屋台なんてやめて、ここに店を構えるといい!」
悪党かと思っていた彼らは、そんなことはなかった。
既にシャインと飲み始めてほろ酔いになっていた彼らは、ただの陽気なおじさん達。
新参者云々を言い出したのも、過去、多くの見かけない屋台に不味い物を食べさせられたり、それどころかお腹を壊す者もいた。
「物を壊されたり、暴力を振るわれたり。女子供に手を出して、朝一番で逃げだすような奴もいたんだ」
つまり散々な思いをしたことから、新参者への強い警戒につながっていったようだ。
「まさかこんな旨い物を出すとは思わなかった。しかも麦茶は無料提供。お前さん達はいい奴だった。本当にいちゃもんをつけ、申し訳なかったよ」
私達が出した冷やし中華にも麦茶にも納得し、自分達の非礼を詫びてくれた。
「俺達に出来ること、お詫びとして、後片付けを手伝わせてくれ」
これを聞いたピアは安心して先に休むことができた。そしてその後片付けが終わると……。
「こいつの実家は飲み屋をやっている。今からお前さんたちを招待するから、一緒に飲もう!」
シャインは勿論、エルと私、さらにゼノビアを連れ、飲み屋へ招待してくれたのだ。
それは嬉しいのだけど、エルと私もまだ飲める年齢ではない。
それが分かると……。
「飲めないのは残念だが、この店は酒だけじゃない。何せ港町の飲み屋なんだ。食い物も完璧。何よりお前さん達は、あんなに旨い物を食べさせてくれたんだ。この町の美味しい物を、お前さん達にはたんと食って欲しい。特に魚は最高だ。まあ、まずは食ってみてくれ」
そうして様々な魚料理が提供される。
カリッと揚げられたアジフライ、ガーリックシュリンプ、アクアパッツァ、スモークサーモン……どれもこれも美味しい! 間違いなく、この町なら寿司を作るといいと思ったので、東方の料理として説明すると……。
「スシか。お前さん達が言うなら美味しいんだろうな。しかし魚を生で食うなんて。火を通さないで大丈夫なのか!?」
そこで不安があれば今の季節ではなく、涼しくなってから試すこと、慣れていない人が作るならサバ・サーモン・イカでの寿司はやめておくことを伝え、さらに……。
「東方で実際に寿司を食べたことがある人が店主を務め、生魚ではない寿司を出しているお店もあります。山を越える必要がありますが、機会があれば尋ねてみてください。私達のことを話せば、喜んで寿司を握ってくれるでしょう」
「そうか、そうか。百聞は一見に如かずというからな。よーし、野郎ども! 今度、スシを食いに遠征するぞ!」
「「「おーっ!」」」
これはもう大盛り上がりだった。
「シャインさん、今日は本当にありがとうございます。あの時、間に入り、仲裁しようとしてくれたこと。心から感謝しています。でも賭けを提案したことには驚きました。私達が出している東方の料理。シャインさんも食べたことがなかったわけですよね? それなのに美味しい方に賭けるなんて……」
エルはお酒の代わりにジンジャーエールを勧められ、ガンガン飲ませられている。
そしてエルの代わりのように、ぐびぐびお酒を飲んでいるのはゼノビア!
どれだけ飲んでいるか分からないが、顔色は一切変わっていない。
間違いなく酒豪では!?
妖艶で強くて酒豪ときたら、もうおじさん達は大喜び!
ということでそちらが熱気と共に盛り上がる中、静かに洋酒を口に運ぶシャインに、私は改めて御礼を伝えたのだ。
「一期一会ですからね。あの時、私に声を掛けてくださったのも何かの縁。そんなご縁のあった皆さんが、厄介ごとに巻き込まれている。助けたいと思ったのは自然な流れでした」
その上でいたずらっ子のような表情を浮かべ、シャインはこんなことを言う。
「料理については……それこそ確かに賭けでしたね! ただ、ピアさんも。フェリスさんも。悪い方には見えませんでしたから。仕込みをしている皆さんを見ても、とても楽しそうでしたしね。あんな風に楽しそうに鼻歌を口ずさめるのは、自分達の料理に誇りを持っているからではないでしょうか。ですから美味しいに賭けたのは……当然と言えば当然です」
これには何といい人なのかと感動してしまう。
ただ、楽しそうに仕込みをしていたのは確かだった。それは自分達が楽しいというのものあるが、この料理を食べる人も「美味しい。食べて良かったね!」という気持ちになって欲しいと思っていたのは事実。それがシャインに伝わったことは……良かったなぁと思う。
こうしてこの日。
いろいろあったが終わり良ければ総て良しで、一日が終わった。
お読みいただきありがとうございます!
本日の〆にぴったりの終わりでした♪
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