第五十話:夏の新メニュー決定
「麺作りはいつもと一緒。寝かせる時間が短く、麺を切る時、つけ麵より細くする感じになるわ」
市場での買い物を終え、休憩スペースに戻り、そこで早速調理開始だ。
ピアもエルも麺づくりには慣れている。私が生姜をおろし、キュウリやトマトを洗い、切っている間に作業は終わり、すぐに生地を寝かせることができた。
「生地を休ませている間にタレを作ろうと思うわ。使うのは、いつものアンチョビベースの魚醤、ホワイトビネガー、砂糖、水、生姜、白ワイン、シロップ、アーモンドオイルよ」
もはや魚醤に生姜と白ワインは必須。この二つで魚醤の濃い味も強めの風味もマイルドにすることができた。さらに今回はみりんの代用品になりそうなシロップを作ることにしていた。
「鍋に白ワインを入れて、砂糖を加え、弱火で十分程煮詰めるの。これが隠し味になるシロップよ」
この作業はエルにお願いし、その間に魚醤、ホワイトビネガー、砂糖、水、生姜、白ワインを、ピアがかき混ぜる。
シロップを冷ます必要があるので、一旦タレ作りはここまでにして、錦糸卵を作ることにした。
ピアが割った卵をボウルでかき混ぜ、そこに塩を加える間に私は説明を行う。
「錦糸卵という名の由来は、細く切った卵が、糸のように美しいことから生まれた言葉。つまり冷やし中華のトッピングに使う卵は、細く美しくカットすることが大切なの」
そこでフライパンに薄く油をひき、中火で温める。
エルが魔法で火力を調整し、フライパンが温まったところで、私はボウルを手に持つ。
「エル、火を弱火にできる?」
「お任せください」
すっかり風魔法をマスターし、エルは火力調整がお手のものになっていた。
「こうやって均一になるように、フライパンに卵を流し込んで」
ピアが用意してくれた卵を薄く広がるように流し、「表面が焼けるまで弱火で待つの」と告げる。ここで前世を思い出し、ガラスの蓋があればいいのにと思う。思うが、耐熱ガラスはまだこの世界にない。では魔法で作れるかと言うと……難しそうだ。何せ耐熱ガラスの原理が……全く分からない!
「フェリスお姉さん、そろそろいいのでは?」
「! そうね。これはお皿に移して、冷ましてから切る。次はエル、焼いてみる?」
「はい、挑戦してみます!」
こうしてエルの次はピアも挑戦したが……。
二人とも本当にすごい。
一度のチャレンジで焦がすことなく、焼き上げることができた。
「では冷ましている間にタレ作りに戻ります。冷めたシロップをボウルに加え、混ぜ合わせましょう」
ピアがタレの入ったボウルをかき混ぜ、エルがみりん代わりのシロップを加える。私は味見をして、いい感じに仕上がっていることを確認。
「風味を出すため、アーモンドオイルを加えるわ」
ごま油がないので、香ばしさを出すために、アーモンドオイルを足した形だ。
「タレは完成ね。そろそろ麺の生地を伸ばし、カットしましょうか」
「「はーい」」
麺の方は、エルとピアがあっという間に仕上げてくれる。その間に私はハムをカットし、麺を茹でるため、水をいれた鍋を火に掛ける。
「メンの用意できたよー!」
「ありがとう、エル、ピア。そうしたら錦糸卵をカットするわよ」
ここはお手本で千切りをしてみせる。
「本当だ。糸を束ねたみたい!」
「ピア、やってみる?」
「うん!」
二人はすぐに理解し、エル、ピアと順番にカットするが、完璧。
「では麺を茹でるわよ」
ちょうどよく鍋の水が沸いたので、麺を茹でる。
茹で終わったらつけ麵の時のように水にさらして冷まし、盛り付けとなる。
「すごーい! ツケメンより具沢山」
「キンシタマゴ、ハム、キュウリ、トマト。イエロー、ピンク、グリーン、レッドと、彩りがいいですね」
完成品を見たピアとエルが感動してくれる。
「これにタレをかけるのよ。タレをかけるタイミングは、麺にしっかり味をつけたいなら、トッピングをする前に。トッピング後にかけると、全体に味がなじむ。後者が採用されることが多いから、こっちにしてみたの。でも麺とトッピングを少し残しているから、どちらも試してみて」
「「はーい」」とエルとピアが返事をして、三人で声を揃える。
「「「いただきます!」」」
まずは二人ともトッピングをそれぞれ食べ、タレとの調和を確認している。
「あ、このタレ、美味しい~」
「さっぱりしていて、トマトにもキュウリにも。キンシタマゴとハムにも。どれにでもこのタレは合いますね」
ピアとエルはそう言うと、今度はトッピングと麺を一緒に食べ始める。
「キュウリのシャキシャキとメンのコシ。タレの酸っぱい感じと塩気。ハムとキンシタマゴの味。そこにトマトのジューシーさが加わって……。え、口の中が天国かも!」
ピアは感動で目を輝かせている。
「タレがメンとトッピングに見事に調和し、味わいを一つにまとめていると思います。メンは程よく弾力があり、キュウリの食べ応えとの相性もいいです。ハムを噛み締めると、香ばしさが加わり、キンシタマゴに味が染み込みます。そこにタレと一緒にメンが加わると……。止まらなくなりますね。勢いよく、一気に食べてしまいたくなります。しかもさっぱりして、鼻の奥に抜けるアーモンド風味も、実に素晴らしいです」
エルも絶賛。そして二人とも「「酸味により、さっぱりしており、夏に向いていると思う!」」で意見は一致。冷やし中華を販売することが決定した。
お読みいただきありがとうございます!
冷やし中華と風鈴の音を想像すると、夏が恋しくなりますね。
次話は18時頃公開予定です~























































