第四十五話:絶品卵料理
正しいレシピで作ったシャリ。それに合わせたこの世界で食べられる魚を活用したお寿司。それはとても美味しいと受け入れてもらえた。そして私が感じたように、玉子焼きについてエルとピアはこんな感想をもらす。
「これは驚きました! こんなに甘い卵料理、スイーツなのかと思ったら……シャリと組み合わさると、ちゃんとオスシになっている。斬新な発想のオスシだと思います。いろいろな種類のオスシを食べた後、最後の最後で食べるのにいいと思いました!」
エルがそう言えば、ピアは……。
「ビックリした! スイーツみたいに甘いのに、酸っぱさのあるシャリと食べると、違和感がないんだもん。ツケメンもスープは温かくて、メンは冷ましてあるけど、一緒に食べると美味しい。この玉子焼きも、甘いと酸っぱいの組み合わせが美味しくなるのが、とっても不思議~」
二人の発言を聞いたジョーンズ教授もこんなことを口にする。
「東方の食べ物は、相反するようなものを組合わせ、それを美味しく感じさせるという独特の感性を持つようです。人間の味覚だけではなく、熱いと冷たいなどの触覚まで食に取り入れとは……実に興味深い。オスシの中ではこの玉子焼きが一番驚きを与えてくれました」
「ありがとうございます。玉子焼きはこのお店を開店以来、大切に焼き上げてきたもの。正しいシャリと共に提供でき、想像以上に高い評価をいただけて、とても嬉しいです!」
大喜びの店主はそこで私に目配せをした。
頷いた私は茶わん蒸しを食べるようにエル、ピア、ジョーンズ教授に勧める。
「これはまるでプディングのようです」とエル。
「とっても美味しそうな香りがする~」とピア。
「表面の滑らかさが美しいですね」とジョーンズ教授。
皆、見た目、香りから既に興味津々な様子。
いざ実食すると……。
「わあ、すごい! スプーンが吸い込まれるみたいに入っていく!」
ピアは茶わん蒸しの滑らかさに感動する。
「なんて柔らかさ……。まるでアイスのように滑らかです。口の中でとろけるよう。チャーシューのジューシーさとはまた違ったとろけ具合です……!」
エルは茶わん蒸しを口の中に入れた時の、その触感にメロメロになっている。
「マッシュルームにしろ、鶏肉にしろ、このとろけるような卵にピッタリですね。甘み、塩味、そして旨味。この三つがバランスよく調和しています。甘い玉子焼きのオスシの後に登場するこの茶わん蒸しには、なんだかホッとできますし、この軽さがとても丁度いいです」
試食メンバーの中では一番年上である(といってもどう見ても二十代前半と若い)ジョーンズ教授がしみじみと口にする言葉に、私は強く同意したくなる。
茶わん蒸しは、その柔らかな食べ心地が優しく、奇抜ではない味わい、さらに素朴な具材が、なんとも心を安らかにすると思うのだ。まさに食事を終える前の最後の一品にピッタリだと思った。
「自分も味見ではなく、今、完食させていただきましたが……。茶わん蒸しは、玉子焼きとはまったく違う魅力を持つ卵料理だと思います。この味をちゃんと日々維持できたら、間違いなく人気メニューになると思いました」
店主の言葉に、茶わん蒸しがこのお店の定番メニューになると分かり、嬉しくなってしまう。
「では本日の試食会はこれで終了ですね」
「はい。フェリス嬢、いろいろご指導いただき、本当にありがとうございました。ジョーンズ教授、こんな東方通をご紹介いただき、心から感謝します。そして試食してくれたピアさん、エル卿もありがとうございました!」
試食会はこれで完了だが、店主はつけ麺を食べてみたいと言う。
ゼノビアと護衛のためにとっておいたつけ麺。
もう提供する機会はないので、それを店主に食べてもらうことになり、幌馬車をとめている休憩スペースに皆で移動になったが……。
「フェリス嬢と二人で、少し話をしたい。ここで別行動してもいいでしょうか?」
ジョーンズ教授にそう言われ、休憩スペースの手前で、みんなと別れることになった。
エルも既にジョーンズ教授がなぜ私を食事に誘ったのか。それは理解していた。東方の料理を間違って出している店を改善できないか、そのために私に声を掛けたのだと。エルやピアに声を掛けなかったのは、かなり改善の余地があるお店であり、二人が食べるとトラウマになると、教授が考えていたことも、ちゃんと分かっていた。
よってジョーンズ教授が私と二人で話したいと声を掛けたのも、東方料理の件で、何か込み入った話をしたいのだろう――そう予想したようで、すんなりと応じてくれる。
「では先に戻り、ツケメンをピアと共に作り、店主に出すようにしますね」とエルは言ってくれたのだ。私もそれでいいと思ったので「頼んだわ、エル。ピア、お手伝いよろしくね」と伝え、みんなと別れる。そしてジョーンズ教授と歩き出す。
十九時を過ぎたこの時間、日没前で青空が見えつつ、建物の影は濃くなりつつあった。そして夕食を提供する屋台やスタンドショップからは、いい匂いが漂って来ている。
「この先に川があり、遊歩道があるので、そこへ行きましょうか」
お読みいただきありがとうございます!
ああ、またこの時間なのでお腹が空いています……
茶わん蒸しの優しい味わいと温かさを胃袋が欲している~
次話は明日の7時頃公開予定です!
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