第四十四話:あともう一品
ワインビネガーは米酢より酸味が強いが、加える砂糖の量を調整すれば、ちゃんと酢飯にできると思った。ということでまずは米を焚いてもらうことにする。同時に、店主に頼み、寿司が完成したら、私の仲間であるピアとエルにも試食してもらうことを提案。
「勿論ですよ! 東方料理が好きな方に試食してもらえたら、嬉しいです!」
そこでジョーンズ教授に頼み、伝言をエル達に送れないか相談すると「転移魔法を使い、伝言してきましょう。この店の場所も説明しておきます」と応じてくれる。転移魔法は魔力を使うのに、気軽に応じてくれるところに、ジョーンズ教授の魔力の強さを噛み締める。伝言は彼に任せ、私と店主は――。
「ではシャリから作りましょう」
こうして竈で米を炊き、店主手作りの寿司桶に、炊き立てのお米を移す。あとは予め用意したすし酢……ワインビネガー、塩、砂糖を加え、切るようにしてしゃもじで混ぜて行く。
「いいと思います。団扇は……さすがにないですね。扇子であおいで、冷ましましょう」
こうして完成した酢飯は、ちゃんとしたシャリになっている。これにスモークサーモン、玉子焼き、オイルサーディン、茹でたエビ、塩漬けのサバを合わせれば、それはもう完璧。ウスターソースはなし!
さらに。
別の料理で使う予定だったホタテがあるということで、それをバター焼きにしてのせる新ネタを考案。そして市場でも購入できるマグロの塩漬けを手に入れ、そちらも寿司ネタにすることにした。しっかりと味がするマグロの塩漬けなので、オリーブオイルを一滴たらしていただくといいだろう。本当は大葉を合わせたら今の季節にぴったりだが、贅沢は言えない。
ということでこのマグロの塩漬けを含めた諸々の材料を市場で手に入れて来てくれたのは……。
「戻りました。伝言と買い物は完了です」
ジョーンズ教授は転移魔法であっさり戻って来たが、その手に持つ籠にはリクエストした品が入っている。
「まずは鶏肉のブイヨン、牛乳、鶏肉、マッシュルーム。それとマグロの塩漬け。さらに小エビ、チャービルも購入してきましたが、これで何を作るのですか?」
今、言ったものが入った籠を私に渡しながら、ジョーンズ教授が尋ねる。ちなみにチャービルは、見た目が三つ葉によく似ているハーブだ。
「マグロの塩漬けは寿司で使います。残りは茶碗蒸しを作ろうと思っているんです。東方の料理で、卵を湯煎で蒸して作る料理です。軽い食感なので、お寿司の後にもう一品となった時に、出すと良いのではと思いました」
玉子焼きをあれだけ心を込めて作れる店主なら、茶碗蒸しも丁寧に作れると思ったのだ。材料の一部はこの国のもので代用するが、限りなく茶碗蒸しに近いものを作れる筈だ。
「東方の料理を作れるのは楽しみです! チャワンムシ、頑張って作ります!」
案の定、店主はやる気満々。竈の火はジョーンズ教授に安定させてもらい、様子を確認しながら、茶碗蒸し作りもスタートだ。
「具となる鶏肉、小エビを茹でます。マッシュルームはスライスし、チャービルは千切ればオッケーです」
既にお湯を沸かしていたので、ゆがく作業はすぐ終わる。あとはエビの殻を外したりだが、これも店主と私で手早く完了。
「今回は時短のために市場でブイヨンを購入しました。ですがお店でブイヨンは作れると思うので、鶏肉と野菜ベースでブイヨンを作り、よく冷ましたものを使うようにしてください」
私の説明に店主とジョーンズ教授までふむふむと頷く。
「手順としては、ボウルに卵を割り入れ、よくときほぐすようにしてくださいね。ここにブイヨン、牛乳を加え、塩胡椒で味付けです。その後、何度か濾すと滑らかになります」
説明は私がしたが、作業は店主が行う。
元々食べることも作ることも好きなようで、問題なく作業が出来ている。そして店主が濾している間に私は湯煎の準備だ。蒸し器は残念ながらこの世界にはなかった。
「では器に具材と卵液を入れ、布を被せて湯煎を行いましょう」
こうして茶碗蒸しは完成。さらにホタテのバター焼きも作り、マグロの塩漬けはスライスする。そこにピアとエルも到着した。
「ではこれから試食会を始めます。おしながきは、寿司と茶碗蒸しです。ぜひ忌憚ない意見を聞かせてください!」
店主がそう告げて、正しいレシピで作ったシャリによるお寿司七貫── スモークサーモン、玉子焼き、オイルサーディン、茹でたエビ、塩漬けのサバそしてホタテのバター焼きとマグロの塩漬け、さらに茶碗蒸しが出される。
ピアとエルはどんな料理が食べられるのかとワクワクしている。ジョーンズ教授は調理する様子を見守っていたが、味見をしたわけではない。よって期待する様子が伝わってくる。
「スモークサーモンとオイルサーディン、蒸したエビには塩を振りかけてください。玉子焼きはそのままで、ほんのり甘い味を楽しんでください。塩漬けのサバとホタテのバター焼きのせも、そのままでお楽しみいただけます。マグロの塩漬けはオリーブオイルを一滴、振りかけてみてください」
店主の説明が終わると、早速、実食になる。
「! ライスと魚をこんな風に食べるのは初めてだけど……美味しい、とても! ほんのり塩味がとてもあっている!」
スモークサーモン寿司を食べたピアが声を上げると、塩漬けのサバ寿司を食べたエルも……。
「この酸味のほんのり効いたライスと、塩漬けのサバが見事にマッチしています。これは完璧なハーモニーと言えばいいのでしょうか。とても美味しいです!」
ジョーンズ教授はホタテのバター焼きをのせた寿司を食べ、唸るような声を出す。
「ライスとバター焼きのホタテとの組み合わせ、これはこの店の最高傑作に思えます。そもそもホタテのバター焼きはとても美味しい。これを独特の風味を持つライスに合わせても、やはり美味しい! これだけでも満足度はとても高いです」
このあとはもう、かわるがわるでお寿司の感想を口にする。その共通点は「とても美味しい」だった!
お読みいただきありがとうございます!
今日のランチはお寿司ーっ!
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次話は18時頃公開予定です~