第四十話:絶妙なタイミング
「いらっしゃいませ~、本日限りの営業で、東方のツケメンという料理を販売中! 玉子やお肉、スキャリオンがトッピングでついてくる! 食べられるのは今日だけ。今日だけだから、お見逃しなく!」
宿場町の中心部にある時計塔広場で営業を始めると、すぐに三人で声を出すことになった。
大きな宿場町なので、広場のスケールも壮大。屋台だけではなく、スタンドショップもあるので、店の数も多い。
お客さんも多いが、やはり人気店に並ぶ傾向が強いのだ。ここは頑張って声を出す必要がある。そこで店頭でエルと私が、ピアは少し離れた場所で客寄せを行う。
「では一ついただこうか」
早速一人目のお客さん!と思ったが。
声に思い出す、ジョーンズ教授のことを!
ゼノビアの件で、つい頭がいっぱいになっていた!
「ジョーンズ教授、ありがとうございます。こちらが一緒に屋台をやっているエルです!」
いきなり紹介されたエルは、一瞬、「???」となるが、そこは騎士でもあるが、貴族の一員。慌てふためくのは、貴族の美学に反すると、よく理解している。よって「はじめまして、教授。エルと申します」とスマートに対応してくれた。そして笑顔でつけ麺のスープを用意。その間に私は麺を茹でる。
「なるほど。そんな風に調理しているのですね。それにしてもそのメンというのは、形状といい、初めて見ました。……! それは……メンについている湯をきっている? キレのある動きだ。うん!? 今度は冷水にさらしたのですか??」
ジョーンズ教授のオーバーリアクションに、通りがかった人達が「なんだ、なんだ」と集まってきた。元々スープのいい香りもしているのだ。さらに興味を持ってもらえる。そこですかさずアピールだ。
「今日だけ、本日限定の東方の料理です。明日には食べられません。興味を持った方、食べるなら、今です!」
「そうか。今日だけなのか」「限定か」
「東方の料理なのか」
通行人が足を止め始めた中、ジョーンズ教授につけ麺を出す。
彼が食べ始めるのを周囲の人が興味深そうに眺める。
「これは……! なんて奥深い風味なのだろうか。さらにこの歯応え。そして不思議なことにスープはアツアツなのに、メンは冷たい。だがこのスープにつけ、口に運ぶと……。絶妙な温度になり、それがとても美味しく感じる。実に珍しい体験だ……!」
絶妙なタイミングでジョーンズ教授が声を上げてくれたのだ!
これは作為的なものではなく、まさに食べた直後に自身の感想を口にしたに過ぎない。
さらに。
「これが例のチャーシューですね。どれ……なんと! ナイフいらずでほろほろと崩れそうだ。これは余計なことはせず、すぐ口に運ぶのがよさそうですね。……! 柔らかい。本当に口の中でほろほろと崩れ、とろけていくようだ。肉のうまみにタレの味が絡み、そして出来立てだからなのか。とてもジューシーだ。この肉とメンを一緒に食すと……これは……なんとも感動的な味わい……」
ジョーンズ教授の実況中継に、列ができ始めた。ピアが慌てて行列の整理をしてくれる。
「ニタマゴ。初めて食べましが、これは茹で卵の失敗などではないですね。これは計算された黄身のとろみです。しかも白身にタレの味がしっかり染み込んでいる。このニタマゴとメンを一緒に食べると……なんて合うのだろうか……! スープのついたメンと、このニタマゴの出会い。まさしく奇跡です! すまない、おかわりをいただけるだろうか!」
感極まった様子のジョーンズ教授が椅子から立ち上がるのを見た人々は……。
「ください」「ひとつほしい!」
「私にもお願いします」
まさにブレイクした瞬間だ。
一気に人が集まり、エルと私は大忙しになった。
ピアも行列を整理させながら、忙しく動き回る。
忙しくしながらも、あることを忘れない。
麺を鍋に投入した瞬間。
湯切りを見事に決めた時。
スープに麺を移すタイミングでも。
ゼノビアがこちらを見ていないか。
目を素早く走らせるが、その姿は見当たらない。
といっても行列に並ぶ前に、調理するレイと私の様子を近くで見ようとする人も多かった。湯切りを豪快にすればする程、皆、喜ぶ。それが分かるので、つい、私も頑張ってしまう。そうするとさらに大勢が店頭へとやってくる。そうなるとゼノビアを探すのは……難しい。
それでも見渡せる範囲を探すが、あのグラマラスな体型と見事な黒髪の女性の姿は見当たらない。
それでも「もしかしたら……」と思い、二食分を残しながら営業を続けると……。
「私が最後なんですね! 評判を聞いて慌てて来ましたが、間に合って良かったわ~」
この宿場町の住人であり、本屋を営む女性が、確保している二食を除いた本日ラストのお客様になった。
「ありがとうございます。ぜひ味わってください」
女性が笑顔で受け取り、ピアが万歳で叫ぶ。
「やった~! 今日も完売! 大人気!」
「ピア、ゼノビア様、来なかったわね……」
「これだけ屋台も沢山で、人出も多いから……。大丈夫、フェリスお姉さん、気にしないで!」
そこでエルが私に声をかける。
「お嬢様。最善を尽くしたのです。それにゼノビア様に会えないのはお嬢様のせいではありません。ご自身を責める必要はないですよ」
「そうね……」
「フェリス嬢」
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本日もよろしくお願いいたします☆彡
売り上げは好調、でもゼノビア様は……?
次話は12時頃公開予定です~