第四話:忠誠を誓う護衛騎士
「えええええっ、旦那様はお嬢様が国外へ行くことを認めたのですか!?」
「ええ。何とかね。ただ悪女としてトレリオン王国を追い出されるでしょう。そうなると隣国も警戒し、入国を拒否する可能性が高いわ。魔法を使い、入国できないか……と思うけど、どの国も国境に障壁魔法を展開しているから、魔法での侵入は難しいと思うの。特級を使えたら、話は別よ。でもさすがにそのレベルの魔法、私では使えないから……」
「特級魔法……! 使える人間は五本の指に収まると言われています。使えなくて当然かと。そうなるとお嬢様の悪女の汚名が隣国に届く前に、国境を超えるおつもりですか……?」
そう尋ねるエルに私は頷き、こう告げることになる。
「朝刊には間に合わない。おそらく今回の婚約破棄と断罪が掲載されるとしたら夕刊よ。それまでに隣国に向かうわ。ということでエル、これまでありがとうね。これからしばらくは私、隣国でひっそり生きて行くわ。でも世間の私の悪女という噂が落ち着いたら、返り咲くつもりだから。その時にまた、会いましょう」
「え、お嬢様、まさかお一人で国外へ行くつもりですか!?」
「ええ。そうよ。私は上級魔法を使えるから、たいがいのことはできるわ。着替えも料理も。天候を変えるとか、大洪水を起こすとか、そう言ったことは特級魔法でしかできないことだけど、上級魔法が使えれば生きて行く上で困らないと思うの。これまでは第二王子の婚約者ということで、エルに護衛についてもらったけど……。王族の婚約者という肩書も消える。でも護衛がなくても私、一人で生きていけると思うわ」
エルが顔を伏せたと思ったら、「いやです……」と呻くような声が聞こえる。
「お嬢様は確かに上級魔法を使えます。でもここではない国。土地勘もなく、知り合いもいないのではないですか。それなのに一人でなんて……。しかも公爵令嬢なんですよ! ダメです。自分がお供します!」
「!? 私は悪女として国外追放されるのよ!?」
「そこからして納得ができません! お嬢様は悪女ではないです! 自分はお嬢様の護衛騎士として仕えて来ましたが、一度たりともアズミ・ワーリス男爵令嬢を蔑むことなど、していないではないですか!」
それはその通り。正直、ワーリス男爵令嬢が失敗しそうな魔法をアシストしたり、上級魔法を試そうとした彼女を止めたりしただけなのに。ロスのヒロイン・ラブ・フィルターを通過すると、それは「ここにいるアズミ・ワーリス男爵令嬢に対し、魔法を使えないことを馬鹿にし、勉強をできないと蔑む言葉を何度も投げかけた」になってしまうのだ。
ロスのフィルターというより、ゲームのシナリオのせいなので、仕方ないと私は諦めだった。だがエルは根が真面目でしかも護衛騎士。高潔な精神の持ち主なだけに、この理不尽さが許せないようなのだ。
そうなるとここは父親と同じ説明をすることになる。つまりはロスみたいな男性と結婚しないでよかったよね……ということ。
「その点については異論はありません。第二王子殿下は、ことあるごとにお嬢様に対し、暴言がありましたから……。魔法については生まれ持った魔力もあるので、どうにもできません。魔法以外のことで頑張ればいいのに、ずっと根に持たれて……残念な方でした。ですが国外追放は……!」
そう。扱える魔法のレベルは魔力による。よってそこはどうにもならないことなのだ。それはさておき。父親と同じで、国外追放は納得いかない件よね。
「エル。冷静に考えてみて。第二王子に婚約破棄された私がこの国に残って、社交界でどんな噂を立てられるか。そんな話、聞きたくないと屋敷に引きこもったら……それは死んだも同然よね?」
「! そ、それは……!」
貴族が貴族たるゆえん。それは社交界で生きることでもある。そこを干されたら、居場所を失うようなもの。エルだって私の護衛騎士をしているが、侯爵家の次男。私のいわんとすることは、よく分かってくれた。
「では国外追放の方が、お嬢様は幸せなのですね」
「ええ、その通りよ」
「分かりました。お嬢様は納得の上で国外に行くのです。それならばなおのことお供します。不要であると言われても、勝手に追いかけますので」
エルの忠誠心には驚くしかない。
「でもエル、あなたはそれでもよくても、イーソン侯爵はどう思うかしら? 悪女の護衛騎士な」
「関係ございません。騎士に叙任され、そして既に十六歳になり、社交界デビューもしているのです。成人年齢ではありませんが、父上は自分を大人として認め、その生き方に何か言うことはありません。自分がお嬢様を信じるなら、信じて進めばいい――そう思っているかと」
「分かったわ。じゃあエル。私と一緒に隣国へ向かってくれる?」
改めて問うと、エルは私の前で片膝をつき、跪く。その上で私の手を取る。
「お嬢様の護衛騎士として、お供します!」
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