第三十七話:御礼をしたい!
翌朝。
何だかゴソゴソする音で目覚めることになる。
「ピア、もう起きているの?」
「あっ、フェリスお姉さん! 起こしてしまい、ごめんなさい!」
「気にしないで」
棺から起き上がり、すぐにランプをつけると、エルの姿はない。早朝やっている剣術の自主練の最中だろう。
「ピア、簡易なベッドだから、寝心地が悪かったかしら? 何ならもっといいマットに買い替える?」
ロフトベッドから降りてきたピアに尋ねる。
「これまで地面に寝てたから、ベッドで眠れるなんて天国。大丈夫! ただ……」
棺の蓋を閉じ、ソファ代わりでそこに横並びでピアと座る。
「ふと目覚めて、ゼノビア様に助けてもらった御礼をちゃんとしたいなと思って……。それを考えていたら、目がすっかり覚めちゃった」
「そうだったのね。御礼……そうね、何がいいのかしら……」
「フェリスお姉さんがツケメンを作るところ、何度も見ていたよ。私も作れるかな?」
ピアは物覚えがいい。箸の使い方も、麺をすするのも、すぐに出来た。どちらもこの世界にはない道具、慣習なのに。
「ピアなら出来ると思うわ。私がコツを指導しながら、ゼノビア伯爵に出すつけ麺、作ってみる?」
「フェリスお姉さん、いいの!?」
「次の休憩所に行く前に、一食……あの護衛の方の分も含め、用意しましょうか?」
これにはピアは大きく頷く。
そこで身支度をまず整えることにする。
ピアはレモンシャーベット色のワンピース、私はラベンダー色のワンピースへ着替えた。
幌馬車から出ると、少し離れた場所で剣を振るうエルの姿が見えている。
「エルお兄さん……カッコいい!」
エルの本業(!?)は騎士。
やはり剣を振るう姿が一番素敵に見える。
「私も……強くなりたいな」
「ピア……?」
「フェリスお姉さんは魔法を使える。あの炎の壁を出した時、私、すごく感動した。ゼノビア様は、あの男を気絶させた。エルお兄さんは剣を使える。でも私は……」
貴族令嬢であれば、強くなる必要はない。基本、守られる存在だから。でもピアは違う。
いずれ、私から独立し、きっとお店を開きたいと思っている。ならば変な奴が寄ってきた時、身を守れる方がいいだろう。
いくら口が達者でも、腕力を振るわれたら、ひとたまりもない。
「ピア、エルに頼んで、簡単な護身術を習う?」
「! 教えてもらえるかな!?」
「ええ。教えてくれるわよ。エルが使うような剣は無理だとしても何かしらの武器なのか、きっと教えてくれるわ」
「やったー!」
「ひとまず身支度をしましょう。朝食を摂りながらエルに話せばいいわ」
こうしてエルに休憩所の水場へ行く合図を送り、建物に到着すると顔を洗ったり、レストルームへ行ったり。それが終わると宿のフロントへ向かう。
「おはようございます。昨日、ここの二階の部屋に泊っているゼノビア伯爵に助けていただいた者です。昨晩はお騒がせしてしまい、申し訳ありませんでした」
丁寧にお辞儀をすると、フロントの女性は「いえ、お気遣いありがとうございます。お怪我などされないでよかったですね」と応じてくれた。そこで「ゼノビア伯爵に御礼を伝えたいのですが、言付けできますか?」と尋ねる。
「あ……、実はゼノビア伯爵たちは既にチェックアウトされています。サンフォレスト方面へ向かわれるとおっしゃっていましたが……お客様もそちらへ行くなら、また会えるかもしれませんね」
「そうなのですね。分かりました。ありがとうございます!」
まさかこの時間帯で出発していると思わず、驚きだが、サンフォレスト方面へ私達も向かっているのだ。
「大丈夫よ、ピア。この次の宿場町で会えるわ。丁度お昼前には到着するから、ゼノビア様もそこで今日は一泊するはずよ。そこで一泊して、翌日は山越になる。よほど急いでいない限り、次の宿場町にいるはず。そしてどんなに急いでいても、人も馬も休む必要がある。きっと会えるわよ」
「うん。そうだね。じゃあフェリスお姉さん、早く朝食を摂って、私達も追いかけよう!」
「ええ、そうしましょう」
こうして朝食の席で、エルにはピアが護身術を習いたいこと、さらにゼノビアに自身が作ったつけ麺を食べさせたいと思っていることを伝えると……。
「なるほど。ピアならツケメンを作り、ゼノビア様に出せると思います。そして護身術ですね」とエルはすぐに応じる。
「通常の剣はピアには重いので、細身の剣を使うという手もあります。それでもピアの今の身長と体重では厳しいかもしれません。短剣は投擲具として使えますが、投げてしまえば丸腰になってしまいます。では短剣で実戦となると、近接戦となり、逆に危険です。よって剣を使った護身術というのは、もう少し先でしょうね。我々と行動しているうちに、ピアはどんどん成長されると思うので、それまでは日傘を使った護身術を覚えましょうか」
「日傘……? 貴族のお嬢さんがよくさしているあの日傘?」
ピアが目をぱちくりしているが、それは私も同じ。
「子供向けの日傘もありますから、それを使い、攻撃と防御を覚えます。日傘を広げれば、相手の視界を遮ることもできますし、払いの動きで攻撃をかわしたり、突きの動作で攻撃も可能です。それでいて日傘は軽量設計ですから、持ち歩きも可能ですからね」
「これから夏を迎えるから丁度いいわね。エル、私も知りたいわ!」
「承知しました。ではピアとお嬢様、お二人に教えます。そしてゼノビア様に、御礼でツケメンを食べてもらいたい気持ちもよく分かりました。朝食を終えたら、すぐに出発しましょう」
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次話は12時頃公開予定です~























































