第三十三話:本来の子供らしさ
「わぁぁぁぁ……」
休憩所に一軒だけあるレストラン。
夜は居酒屋兼となるようなお店である。
公爵令嬢としてトレリオン王国にいたら、利用する機会はなかったであろうレストランだったが。
ピアはテーブルの上に次々と並べられる料理を見て、焦げ茶色の瞳をキラキラと輝かせている。
「す、すごい……。こんな、ご馳走……」
豪快なサイズのステーキ、白身魚のフライ、山盛りポテト、豆のサラダ、オニオンスープ。三人分が一皿ずつに盛り付けられているのだから、それはものすごいインパクトだ。
「ピア、遠慮しないでいいのよ。好きなだけ食べて。今日はエルと、新たな仲間に加わってくれたピアのお祝いでもあるのだから」
エルにプレゼントしてもらったワンピースを着た私がそう言うと、ピンクグレープフルーツ色のワンピースを着たピアが尋ねる。
「いいの……? こんなに沢山……!」
いつものうるうる瞳は、今日はピアが独占かと思ったら!
「私のお祝いとエルお兄さんが風魔法を使えるようになったお祝いでもある。……エルお兄さんも、おめでとう! 魔法なんて使えないから、お兄さんがすごいと思うな!」
ピアからそうストレートに褒められると、エルも瞳をうるうるさせ「ありがとうございます……!」と感極まりつつ、その場で風魔法を少しだけ使って見せる。つまりは持っていた紙をふわふわと浮かせて見せたのだ。それだけでピアは感動している。
「遊びはそこまで。せっかくのお料理が冷めちゃうわよ」
私の言葉にエルとピアが「「はーい!」」と返事をして、食事が始まった。
三人で楽しく食事を進めている……。
「ご家族でご来店のお客様へのサービスです!」
それはまさに一口サイズのカップケーキだったのだけど、こんもり生クリームがのっている。
貴族は生クリームを当たり前のように楽しんでいるが、平民が普段楽しむ乳製品は、チーズやバター。生クリームなんて本当に特別な機会でしか食べられない。ピアは生クリームを見て、もう目が普段の倍ぐらい見開いている気がする。
「いただきます……!」
そう言ってあっという間に食べ終え「あ~、甘くて美味しかった。もっとゆっくり食べればよかった」とため息をつく。それを見たら……。
「ピア、これ、あげるわ」
「! でもフェリスお姉さんの分だよ」
「私はお肉とパンをいっぱい食べたから、今日はもう満腹。だからピアにあげるわ」
するとピアは幼い子供のように目をしばしばさせ、心配そうに尋ねる。
「……いいの……? 甘くて、とても幸せな気持ちになれるんだよ。本当にいいの……?」
「もしピアがまだ食べられるなら、食べてもらえると嬉しいわ」
「! じゃあ、もらう!」
この様子を見たエルまで「ピア。自分の分もプレゼントします!」と申し出る。
これにはピアはもうビックリ!
「じゃあ、一個はここで食べちゃう。もう一個は幌馬車へ持って戻っていい?」
「いいけれど……寝るまでに食べちゃわないと。生クリームだから」
「うん。幌馬車で食べる。今、全部食べるのは……勿体ないから!」
ピアはエルと同じで、とても器用で、記憶力もあり、地頭もよかった。箸もすぐに使えるようになり、つけ麺をすすることもすぐにできた。仕込みで一度見ただけで調理の行程を頭にインプットし、お客さんに説明することさえできたのだ。
見た目は八歳くらいだけど、頭脳は大人顔負け。
しっかり者の印象がピアに対しては強かった。
でも生クリームがのったカップケーキを前に、素の表情というか、本来の子供らしさがでていたのだけど……。それはエルとは違った意味で、愛い!
「じゃあ、軽く湯浴びもしたいでしょう。そろそろ戻りましょうか」
「うん!」
ピアは大切そうに、残り一個となった生クリームたっぷりのカップケーキを手に、歩き出す。
「お嬢様。お会計は自分がしておきます。ピアと先にお店の外へ出ていただいて大丈夫です」
「エル、頼んだわ」
貴族が利用するレストランは、テーブル会計が基本。だが今日利用したのは、高級レストランというわけではない。ゆえにカウンターで会計だったので、それはエルに任せた。
「生クリームたっぷり、雲みたいにふわふわ。雪みたいに、真っ白。甘くて、綺麗で、美味しそう~」
ピアは歌いながら店を出て行く。
その様子はとても可愛らしい。
未婚であり、婚約破棄され、相手もいないのに「子供、欲しい」なんて思ってしまう。
「ありがとうございました」
「ご馳走様です」
店員に見送られ、お店の外へ出ると、初夏から夏へ少しずつ季節が動いていることを感じる。既に十九時を過ぎているが、まだ完全に日没にはなっていない。夏になると日没は、二十一時過ぎになるのだ。
そこで空から視線をピアに戻し、私はハッとして「ピア」と声を上げることになる。
手にのせた生クリームのカップケーキに夢中になっていたピアは、前方をあまり見ていなかった。そして身長の高い大人の男性は、小柄なピアが視界に入らない。
つまりレストランへ向かっているがたいのいい男性とピアは……。
「きゃあっ」「うわ、なんだこのクソガキ!」
がたいのいい男性の着ているスーツに、ぶつかった衝撃で、思いきりカップケーキの生クリームがついてしまったのだ。
お読みいただきありがとうございます!
あわわわ、トラブル勃発!大丈夫!?
ということで次話は明日の7時頃公開予定です~
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