第三十二話:働き者!
「このニタマゴはね、昨日のうちに茹で卵を作って、秘伝のタレでマリネしたんだよ!」
「へえ、だから白身の周りにほんのり色がついているのかい。それでこの中のトロトロッは、茹で卵を失敗するとこうなるけど……マリネするとこんなにうまくなるんだねぇ」
「そうだよ! そのトロトロとメンを一緒に食べると、もう涙が出るぐらい美味しいの! まずは試して!」
「お嬢ちゃんの説明は分かりやすい! どれ、そうやって食べてみようじゃないか」
お昼のつけ麺の営業は大盛況。
その大きな要因になったのは、ピアだ。
ピアは積極的に声をあげ、客寄せをしてくれる。
さらに昨晩、自身がつけ麺を食べ、仕込みを体験したことで、その美味しさの肝を心得ているのだ。
「お嬢ちゃん、何だい、この口の中で、ほどけてとろける肉は! チャーなんとかって言うんだろう!?」
「はい! それはチャーシュー。あちらのフェリスお姉さんが作った、特製の調理器具で誕生した肉料理だよ。こんなとろけるお肉、ここでしか食べられないんだから!」
「そうよね! なんて美味しいんだろう! でもこの美味しさを生み出すのは、特別な料理器具が必要なのねぇ。真似したいけれど、それじゃ真似できないわ」
するとピアはチャーシューのタレについて説明し、特別な調理器具……圧力鍋がなければ、二時間程かけて煮込めばいいと、ちゃんと教えることもできるのだ!
つまりタレの材料も頭にインプットされていた。それを聞いたおばさんは「そんなに煮込んでいる時間がないからねぇ。このお店で食べられればと思ったけど……。明日には移動しちまうんだろう? 残念だよ」と言ってくれる。
みんなつけ麺の味に満足し、ピアの接客を喜んでいた。
喜んでいるのはお客様だけではなく、エルと私も同じ。ピアは接客を行い、行列を整理し、さらに皿洗いやつけ麺を席まで運ぶことまでやってくれるのだ。
本当に働き者!
孤児院での労働を嫌がっていたが、そこは別の要因が絡んでいるのではないかと思った。
ともかく思ったことは一つ! もしピアが使用人だったら、メイド長になれると思う。
そんな優秀なピアに支えられ、昼営業を終えた。
「遅くなったけど、私達もランチにしましょう」
そこで私が休憩所のテーブルに置いたのは……。
「フェリスお姉さん、これは何!?」
「これは私が思いつきで作った、チャーシューサンドよ」
「! ということはお嬢様、このパンにサンドされているのはチャーシューなんですか!?」
「そう。一瞬見るとハムカツかと思うわよね。でもマスタードを塗ったパンにチャーシューをサンドしてみたの。私が味見をした時は、美味しく感じたのだけど……」
「「それならば絶対に美味しいはず!!!」」
ピアとエルの声が揃い、二人は同時にチャーシューサンドを手に取り。
「「いただきます!!!」」
再び声が合わさった二人は、そのまま勢いよくチャーシューサンドにかぶりつく。
「うんっ!」「うん!」
二人は同時に声を上げ、私を見る。
「マスタードがパンとチャーシューの橋渡しをしていると思います! 脂の乗ったチャーシューにも、パンにもあうマスタードのおかげで、口の中で相乗効果が起きていると思います、お嬢様。このサンドは普通に販売しても、売れますよ!」
「もうチャーシューが絶品だから、何にだって合うと思うな! でもパンとチャーシューを合わせるなんて、私では想像できないよ。これを思いついたフェリスお姉さんは、やっぱり最高!!!」
どうやら二人ともチャーシューサンドを気に入ってくれたようだ。安堵して私もチャーシューサンドを口に運ぶが……。
普通に美味しいと思う!
ということで遅めの昼食を終えると、ピアには読み書き計算を教えた。やはり字を書き、読めないと、将来的にピアがお店を開く時に苦労すると思ったのだ。
と言うことでしばらくはピアがどれぐらい読み書きが出来るかを確認すると……。
幼い頃、多少は読み書きを習っていたようで、ピアは私が想像していたより、基礎が出来ている。これなら読み書きはすぐに終わり、他の勉強もできるかもしれない。
そんなことを思いながら、勉強が終わると、ピアは幌馬車の中でお昼寝タイム。エルは風魔法を試しながら、剣術の練習をしている。
もしや剣に風をまとわせようとしているのかしら!?
そんなことを思いつつ、幌馬車の後部に設置されているテーブルで、私は売上金の計算を行う。
私がここにいることで幌馬車で眠るピアの防犯の目的も果たしていた。
「よし。売り上げも順調。利益も出ているわ」
思わず心の中でガッツポーズをすると、エルが「お嬢様!」と興奮気味に駆けてくる。
「どうしたの、エル?」
「出来たんです!」
「もしかして……」
「はい! 風魔法使えるようになりました!」
これにはハグをしたくなるが我慢して、ハイタッチで祝うことになる。
「エル、少し早いけれど、仕込みをしてしまいましょう。そして今晩はレストランで食事よ。ピアが新しいメンバーに加わったこと。エルが風魔法を成功させたこと。この二つを祝いましょう!」
南部に来てからずっと屋台やテイクアウトフード、もしくはつけ麺を食べていた。勿論、それらも美味しいが、久々にきちんとした食事をしたくなっていたのだ。
何よりも食べることも大好きなピアを喜ばせたかった。
「お嬢様、ありがとうございます! では仕込み、やってしまいましょう!」
お読みいただきありがとうございます!
次話は18時頃公開予定です~
【併読されている読者様】
“ずぼら悪役令嬢”は17時頃公開するので
18時公開と良かったら併せてお楽しみくださいませ☆彡