第二十七話:投げ銭続出!?
エルの胃袋をがっつり掴めたチャーシュー。これならいけると思い、広場へ幌馬車ごと移動し、昼時に合わせた営業を行うことにした。
広場にはテーブルと椅子があるので、その近くで火を起こし、スープの香りで客寄せを行う。
お昼時にはいろいろな屋台も出るので、様々な香りに溢れている。その中でも魚介系つけ麺のスープはインパクトがあった。
「なんだ、この香りは!」
「どこか知っていて、知らないような、美味しいそうな香りがするぞ」
続々と人が集まってくる。
「これは東方で食べられているつけ麺です! 美味しい玉子とお肉、スキャリオンのトッピングもついています。ここでの販売は本日だけ。一期一会でいかがですか〜?」
軽い気持ちで問い掛けたところ、「異国の料理!?」「今日限り!」「確かに一期一会」と反応したかと思ったら……。
「「「一つください!」」」
いきなり数名のお客さんが購入してくれた。
そのお客さん達が誘い水になったと思う。
「ほろほろとほぐれる肉が最高だぞ! 初めて食べた、こんなに柔らかで旨い味の肉は!」
「何だこのお上品なのに、貪り食べたくなる美味しさは!」
「このとろみのある玉子がたまらない! このメンというものに絡めて食べると最高だ!」
食べながら感動の声を上げてくれるのだ。皆、何事かと注目してくれる。すると初めてのつけ麺に感動している彼らは勝手に「今しか食べられない東方の料理だ!」「今日だけの限定販売だぞ」「逃したらもう二度とは食べられないだろう」と宣伝までしてくれる。
そして極め付けはこれ。
「スープがまだ残っている。メンのお代わりは出来ないか!?」
「俺はもう一杯食べたい! 玉子と肉も食べたいからな! お代わり頼めるか!」
「明日は食べられないと思うと、俺もお代わりしたい」
このリクエストを聞いた、周囲に通りがかった人は……。
「注文したい!」「一つくれ!」「俺にも頼む」
「順番にお願いします!」
エルが続々と殺到するお客さんを整頓し、私は大忙しで調理を行う。
「何だ姉ちゃん、貴族さんみたいな別嬪さんなのに、豪快だな!」
「本当だ。何だか勇ましくていいじゃないか!」
「大道芸を見ているみたいだ!」
何と湯切りをする私の姿に、投げ銭をする人が続出。すると行列待ちしている人は、私の湯切り姿に投げ銭がデフォルトになり、あれよあれよという間にコインの山が築かれる。
「いゃあ、旨いし、パフォーマンスも迫力があるし、最高だった!」
「俺は行商人だ。またどこかで会えるといいな!」
「この町で店を開けばいいのに!」
もう大好評だった。
そんな盛り上がりの中、残り一食となってしまう。
エルが後片付けに追われる中、私の目の前には本日最後のお客さんが現れた。
それはまだ幼い少女だった。
八歳ぐらいだろうか?
もう少し下にも思える。
ネズミ色のかなりボロボロのチュニックを着て、赤毛の髪も伸び放題。手には粗末な籠を持ち、その中にはマッチ箱が入っている。
間違いない。
貧民街の子供で、マッチ売りをしている。
ストリート・チルドレンだ。
「一つ頂戴」
「ありがとうございます」
そこで料金を伝えると、少女はこんなことを言う。
「お姉さん、見て。マッチ、今日はまだ一つも売れていないの。だから恵んで頂戴」
これには「!?」と思ったら、つけ麺を食べ終え、食器を返却してくれるおばさんが、ジロリと少女を睨む。
「あんた、およしなさいよ! 真面目に商売している人に、そんな風にたかるのは! お姉さん、無視していいよ。このマッチ箱は空箱。マッチ売りなんてしていないんだよ。『一つも売れていないから、食べ物を恵んで』それがこの子の常套手段。そうやって旅人から食べ物からお金まで、物乞いしているんだよ」
これには「なるほど!」と驚き、悪知恵ではあるが、頭はいいと思ってしまう。
一方の指摘された少女は「うるさい、クソババア」と言い、あっかんべーをしている。これを見たおばさんは「なんて生意気な!」とおかんむり。何とかエルが二人を宥め、おばさんがいなくなると……。
「私のお父ちゃんは馬車に轢かれて死んだ。お母ちゃんは病気で死んだの。だからこうやって生きていくしかないんだよ。お姉さん、ツケメン食べさせて!」
「ご両親が亡くなったのはとても悲しいことだわ。あなたはまだ幼いから、それはとても大変だったでしょう。でも人を騙すのはよくないわ。どうして孤児院に行かないの?」
「孤児院? いやだよ、あんなところ! 働かざる者食うべからず──なんだよ」
そこで少女は言葉を切り、キッと顔を上げる。
「あそこに行ったら、農場や工場に、働きに行かないといけないんだから!」
これには前世とこの世界の社会価値観の違いに唸るしかない。前世でもマッチ売りの少女がいるような時代、子供が労働することは問題視されていなかった。貧しい子供は働いて当然と言う価値観があったのだ。そこはこの世界も同じ。
さらに言えばこの世界の孤児院は、子供を保護するが、そこで守り大切にするわけでない。社会に役立つよう育てることが目的なのだ。つまり労働力になるよう、訓練が行われている。孤児院内の雑務、織物や小物作り、農作業の手伝いをして、当然だった。時には少女の言うように、工場や農場に働きに出される。
前世の感覚からすると、許容し難い。だからと言っていくら公爵令嬢であっても、この世界の価値観を、一人で覆すことは難しかった。
「お嬢様、そんな表情なさらないでください。先ほどの婦人の言葉は、事実かもしれません。ですが心優しいお嬢様のこと。たとえ少女が嘘をついていると分かっても、ツケメンをあげたいのですよね? 自分はそれでいいと思います。きっとお腹を空かせているのでしょうから」
「……エル、ありがとう」と言った私は少女を見て告げる。
「つけ麺を食べたいなら、料金は払って」
お読みいただきありがとうございます!
この最後の一言に主人公が込めた想いとは!?
続きは明日の7時頃公開予定です~
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