第二十三話:うちの護衛騎士が有能過ぎる件
宿場町に到着し、その町の規模に驚く。
トレリオン王国の宿場町、王都に近い場所には、今回の出国の際、立ち寄っている。だがそこは休憩所に、毛が生えた程度のものだった。
ところが今回立ち寄っている宿場町は、アルシャイン国の首都アールからかなり遠く、まさに地方の宿場町の一つに過ぎないが……。
「お嬢様、すごいですね。商店がズラリと並び、まるで市場。しかも区画ごとに食品、雑貨、衣料品などに分かれており、買い物もしやすそうです」
馬車を降り、中心地にエルと共に移動。そこで立ち並ぶ商店を見て、度肝を抜かれていた。
「欲しいものは全部揃うと思うわ。舶来品を扱うお店もあるし!」
ここまでいろいろあるなんてと思うのと同時に。アルシャイン国が大国であることを実感することになる。
おかげでチャーシューを作るのに必要な材料は全て揃った。あとは……。
「お嬢様、圧力鍋ですね?」
簡単な説明をしたので、エルは私が作りたい鍋が、圧力を活用するものと理解してくれていた。
「ええ。頑張って作ってみるわ」
そこからはもう試行錯誤と四苦八苦。
人馬を休ませる休憩スペースが宿場町の中にもあったので、そこに一旦幌馬車を止め、そこで圧力鍋作りに励むことにしたのだけど。
圧力鍋を前世では使ってはいたが、その原理なんてよく理解していなかった。それっぽい鍋にするが、圧力をどう発生させているかが分からない。ゆえに悪戦苦闘していたが……。
その間、エルはてっきり剣術の練習でもしているのかと思っていた。でも違っていたのだ! 私の圧力鍋作りに役立つ情報がないか、金物屋に向かい、そして本屋に足を運んでいてくれていた。
「お嬢様、金物屋の店主が教えてくれた情報をもとに、本屋でこんな本を見つけました!」
そうやってエルが渡してくれたのは、『アメージング科学』というタイトルの本だ。転生して科学の勉強をすることになるとは思わなかった……と嘆いている場合ではない。時短で美味しいチャーシューを作るために、圧力鍋は欲しかった。
「これを見てください。お嬢様がしたいことが、この実験で行われたのではないでしょうか」
「えーと。スチーム・ダイジェスターを使った蒸気圧の実験、と。スチーム・ダイジェスターとは、蒸気技術の原理を実証するために作られた実験装置である。同時に食材を柔らかく煮ることも可能だ。スチーム・ダイジェスターは、密閉容器内で蒸気圧を利用し、食材を煮込むことができる……すごいわ、エル! まさにこれよ、これ!」
あまりにも感動し、エルに抱きつくと、「お、お嬢様!」とエルはかなり焦っている。
「ごめんなさい、つい興奮して。でもここに書かれている原理がとても分かりやすいわ。『密閉容器に水と食材を入れ、火に掛ける。温度が上昇すると、水蒸気が発生。通常は蓋の穴から水蒸気は逃げるが、密閉容器であるため、水蒸気は逃げない。密閉容器内にたまった水蒸気は、空気と混ざり合いながら、次第に容器内の圧力を上げていく。すると水は100度を超える高温で沸騰を続けることになる』と書かれているわ。つまり高温での沸騰が続くから、通常の調理よりも早く熱が食材に伝わり、柔らかく煮込むことができるわけね」
「そうですね。ただ、金物屋のおじさんによると、そのスチーム・ダイジェスターは、量産できるものではなかったようです。しかも圧力の調整が難しく、場合によっては爆発の危険もある。そのため調理器具として、広く一般に普及することはなかったそうです」
「なるほど。エル、偉いわ! そのヒアリングしてくれた情報はとても重要よ。しかも鍛鉄より鋳鉄がいいことも分かったわ。鋳鉄を使い、書かれている原理に基づいて、圧力鍋を作ってみるわ!」
方針が見えたので、まずは鋳鉄を手に入れた。そして前世で使っていた圧力鍋を想像しながら、魔法で鋳鉄を変形させる。蓋をきちんとロックできるようにして……。スチーム・ダイジェスターを踏まえながら、いくつかの工夫を凝らした結果。
「エル、できたと思うわ!」
「ではいよいよチャーシュー作りですね!」
「今日は昨日以上に忙しいわよ。スープ、麺、煮卵、そしてチャーシューなんだから」
「でもいろいろ同時進行できますし、昨晩で勝手は覚えました。やりましょう!」
エルは呑み込みが早くて本当に助かる。
これまで当たり前のように私のそばで護衛騎士をしてくれていたが……。
実は攻略対象並みに有能だと思う!
というかロス第二王子よりできる子に思えてしまうぐらい。
それどころか……。
「今、手が空いているので、チャーシューの方、進めませんか!」
「そうね。いいタイミングだわ」
作業の状況を見て、こんな声がけもできるのだ。
うちの護衛騎士が有能過ぎる件……というラノベを一本書けそうだわ!なんて。
「ではまずボウルに、アンチョビベースの魚醤、シナモン、スターアニス、クローブ、ニンニク、生姜、白ワイン、塩、蜂蜜を混ぜ合わせて、マリネ液を作るわ」
「了解です。ここにある材料を混ざ合わせるわけですね」
私が頷くと「お任せください!」と応じてくれる。
ならばマリネ液はエルに任せた!
私はマリネ液が染み込みやすいように、豚バラ肉に切り込みを入れよう!
お読みいただきありがとうございます!
今日のランチはチャーシューたっぷりのラーメンか
チャーシューがゴロゴロ入ったチャーハンを食べたい~
次話は18時頃公開予定です☆彡