第二十二話:あれを作りたい!
幸先のいいスタートを切ることができた。
前日、変な酔っ払いに絡まれたが、そんな出来事が吹き飛ぶぐらい、試作品は大盛況。
「お嬢様、この休憩所で明日もツケメンを売れば、きっと売れると思いますが……」
「そうね。そうしたい気持ちは分かるわ。でもそうなると明日も、明後日も、その次の日も……となって、この場所から離れられなくなる。それにこの休憩所にいる人は、みんな移動や旅の途中よ。この休憩所でツケメンが食べられると噂は広まり、お客さんは増えるけれど……。追っ手に目をつけられる可能性がある。それは『ここにいます!』と宣言するようなもの。一か所に留まるのは危険。移動、しましょう」
これにはエルがしょんぼりしてしまうので、励ますことになる。
「みんな初めてつけ麺を食べて、美味しいと感じてくれたのよ。つまりそれは本当につけ麺が美味しかったということ。移動した先でも、きっと売れると思うわ」
「お嬢様……!」
エルは私の言わんとすることをちゃんと理解し、次の休憩所へ移動することに同意してくれた。
◇
街道沿いには人馬が休める休憩所以外にも、こぢんまりとした村、宿場町なども存在している。今回目指すのは、カナンという宿場町。規模としては小さいが、ちゃんと宿屋もあり、飲食店も充実している。旅人だけではなく、町民もいるのだ。町民がいるということは、商店もあるので、いろいろな材料も手に入る。
「今回、試作品ということで、煮卵を用意したけれど、他にも提供したいトッピングがあるの」
幌馬車での移動、私は御者を務めるエルの隣に座っていた。
「ニタマゴは最高のトッピングと思いますが、他に何をお考えなのですか?」
エルは期待のこもった目で、私をチラリと見る。
「まず彩りをよくしたいの。スキャリオンを刻んで出したいのと、チャーシューを作りたいのよね……」
スキャリオンは、イメージとしてはネギの代わりだ。
「チャーシュー、ですか。それは何なのですか、お嬢様!」
そこで私はチャーシューについて説明すると、エルの瞳がキラキラと輝く。
「想像するだけで、とても美味しそうです。ただ、スープ同様、作るのにとても時間がかかるのですね」
「そうなの。実働は長くても三時間ぐらいよ。でもマリネするから、一晩寝かせることになる。トータルで十時間以上はかかるわね」
「そう考えると、ツケメンの値段が銅貨三十枚でも違和感を覚えません」
本当は電子レンジがあれば、いろいろと時短できる部分はある。特にチャーシューなんて、電子レンジの時短レシピを前世で見た記憶があった。
もし特級魔法を使えれば、雷も落とせるのだ。電気も作り出せるかもしれない。
だが知り合いに特級魔法の使い手はいない。勿論、アイゼンバーグ公爵家の力を活用すれば、見つかるかもしれないが……。
特級魔法の使い手=貴族とは限らない。魔力は遺伝と思われる部分も多いが、突然変異的に庶民で魔力持ちが誕生することもある。でもそうなると権力者にいいように抱き込まれる可能性もあるので、本人が魔法を使えることを隠すことも多かった。
さらに特級魔法の使い手ともなると、国を挙げての争奪戦にだってなりかねない。ゆえに特級魔法を使えても、その事実が伏せられていることも多かった。
そんなことを思いながら、エルに話すことになる。
「特級魔法を使えたら、いろいろ時短できるのだけど……」
「そういえばアルシャイン国は、特級魔法の使い手がいるんですよね」
「そうね。天候のコントロールをしているという噂があるから、本当だと思うわ。洪水被害も事前に食い止めたり、大火災がほぼないというのは、裏で特級魔法の使い手が動いているからだと思うわ」
天候をコントロールし、災害を食い止める特級魔法の使い手がいる。アルシャイン国の国力は、そのことでさらに高まっていると思う。
だがアルシャイン国は特級魔法の使い手がいることを公表していない。もしいると分かれば、その人物を狙う動きが起こるからだ。
脅威となるので暗殺を試みる。自国で活用しようと誘拐する──ともかく不穏な動きが起きるということ。
そんなことを考えていて、ハッとする。
「圧力鍋……圧力鍋があれば、チャーシューの時短ができるわ! しかも肉が柔らかくジューシーになる。電気はいらない。圧力鍋を魔法で作れないか。試してみる価値があるわ」
「お嬢様、アツリョク鍋。また新しい調理器具ですか!?」
「ええ。これから向かう宿場町では、休憩所よりいろいろなものが揃うから、そこでいろいろ挑戦してみるわ! 圧力鍋を魔法で作れたら、チャーシュー作りはとても楽になるから」
私の言葉を聞くと、エルの表情がキリッとする。
「なるほど! では急いで宿場町を目指しましょう!」
「ふふ。ありがとう、エル。でも焦らなくて大丈夫よ」
私に理解あるエルがいてくれること。本当に助かるし、心強い。
何はともあれ、宿場町を目指し、幌馬車は街道をひた走る。
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次話は12時頃公開予定です~























































