第三十四話:終わり
乙女ゲーム『愛の華と魔法』の世界に転生していた。
前世での死の瞬間の記憶はなかったが、闘病生活を余儀なくされていたのだ。その辛い日々の慰めが、『愛の華と魔法』だった。限られた時間でコツコツ遊んだこのゲームの世界に転生できたことは嬉しい。
前世記憶が覚醒したのは、赤ん坊の頃だったが、体はすこぶる健康。しかも成長すれば小顔で首と手足はほっそりしているが、胸は大きく、ウエストはくびれ、お尻はきゅっと上向く。要は抜群のスタイルでどんなドレスも映える令嬢へと成長するのだ。魔法のランクは上級。美女で才女である。
だがしかし。
私が転生したのは、婚約破棄され、断罪されて、斬首刑で死ぬ運命の悪役令嬢フェリス・ラナ・アイゼンバーグだった。
せっかく転生できたのに。花の盛りの十八歳で死ぬなんて。しかも体は健康そのものなのに。しかし悪役令嬢としての役目を果たさない限り、私はこの世界に存在できないだろうと考え、断罪されても生き残る方法を模索。
その結果、断罪は回避できたが、国外追放になる。
そこからまさかの一転、二転、三転……とにかくヒロインがゲームクリアした後。悪役令嬢の私は波乱万丈な人生を送ることになった。
元悪役令嬢が、転生した世界で屋台でラーメン屋をやるなんて! 棺をベッド代わりにするとは、まったく予想外。
それでも多くの出会いと別れがあり、その中で……。
私は紆余曲折を経て、最愛と出会うことができた。
「フェリスお姉さん、婚約式にはおばあちゃんとマークを連れて参加するからね!」
ピンク色のロングケープ姿のピアがそう言って、オフホワイトのコートを着た私に抱きつく。
「ありがとう、ピア。マーガレットさんやマークさんと会えること、楽しみにしているわ」
「屋台も頑張って続けるから。フェリスお姉さんが生み出したラーメン、ツケメン、冷やし中華、冷やしラーメンはみんなに愛されて、イースト島で残って行くから、安心して!」
「ええ。それはピアに任せたわ」
最後にぎゅっとハグをすると、ピアは黒のコート姿のエルへ声を掛けた。一方の私は、細身の紺のロングコートを着たクラウスと向きあうことになる。
「フェリス。早急に婚約式の日程を決めるよ。……本当は婚約式より結婚式の日程を決めたいぐらいだけど、王族はいろいろしきたりもあるから……」
歯がゆそうにするクラウスに、私は微笑みかける。
「クラウス、すぐに結婚もいいと思うわ。でも私は婚約をしてからの、婚約者同士の甘い時間もじっくり過ごしてみたい。結婚したら二人して公務に当たることになるでしょう? 忙しい日々になりそう。でも婚約中ならデートだってできるのでは?」
「……! そうだね。婚約式に合わせ、フェリスは王宮へ引っ越してくる……。いろいろアルシャイン国を案内する……と言っても、フェリスは既に南部を制覇し、東部もほぼ回っているか」
「でも観光はほとんど出来ていないわ。それに首都アールは広すぎて、ほぼ手付かず。結局、ブックストリートも見ることができなかったの……」
するとクラウスはふわりと私の腰を抱き寄せ、耳元でささやく。
「いくらでも僕が案内するよ、フェリス」
彼のつける香水の爽やかな匂い。
胸がキュンとする。
「楽しみにしているわ」
そう答えて、頬にバードキスをすると、クラウスは「フェリス」と私を抱きしめようとするが……。
「ピアちゃん、荷物の積み込みが終わったから、乗船できるそうよ」
黒のファー付きのロングケープを着たゼノビアの言葉に、クラウスが動きを止める。
「ありがとうございます、ゼノビア伯爵」
ピアは返事をすると、エルとハグをする。
まだ恋と言える関係ではないが、エルとピア。二年後の約束に向け、二人の気持ちも動きだしているはず。
「みゃおん」
ピアの肩にいるルナが、エルと私を順番に見て、別れの挨拶をしてくれる。
エルが拾ったルナだったが、ピアにすっかり懐き、気づけばその肩に乗っていることが多かった。
ピアもルナを大好きなのだ。そしていつかピアとエルが素敵な関係になれたら、ルナと再び暮らせるはずなのだから……。
ルナはピアと共に、イースト島へ旅立つことになった。
「ルナ、元気でね。ピアのこと頼んだわよ」
「ルナ。ピアと一緒に元気に育ってください。また会いましょう」
「みゃぉん!」
私とエルの言葉に、元気よくルナが鳴き、ピアはタラップを上がって行く。
甲板に着いたピアとルナがこちらを見下ろした時。
ボーッ、ボーッ、ボーッと汽笛の音が鳴り響く。
「みんな、元気でね! また会おうね!」
「みゃぉん!」
「「「「ピア、ルナ、気を付けて!
また会いましょう!」」」」
クラウス、エル、ゼノビア、私が大声をあげ、手を振る。
私達の物語は、一つの帰結を迎えた。
でもこれは終わりではない。
ここからまた、新しい物語が始まる。
そう、ここからこそが、本当のThey lived happily ever afterの物語なのだ……!
~おしまい~
最後までお読みいただきありがとうございます!
お約束通りのハッピーエンド、お楽しみいただけましたら
☆☆☆☆☆評価をぽちっとよろしくお願いいたします~
語ると長くなる派なので(笑)ここは一言。
完結できて嬉しいのに寂しいよぉ~!
落ち着け、作者。
【新作スタート】ページ下部にバナーあり
『悪役令嬢はやられる前にやることにした』
https://ncode.syosetu.com/n8047kv/
まずは試しに第一話、お読みいただけると嬉しいです~
次の読書の旅もご一緒できたら幸いです~