第三十話:彼の覚悟
好奇心丸出しの貴族のお相手をしていると、ファンファーレが聞こえた。これはホストであるアランの入場を知らせるものだ。
「国王陛下のお~な~り」
どこか懐かしく感じる侍従長の口上と共に、アランが入場。
国王のみの着用が許されている、白のファーがついた重厚なベルベットの赤いマントに、黄金の王冠を被っている。まさに勝負服とも言える装いだ。
そのアランに続いて入場したクラウスは……。
セレストブルーのテールコートに、タイとマントがアイスブルー。宝飾品はシルバーで統一されており、実に若々しく爽やか。サラリと揺れるその髪も、透明度の高い海のような碧い瞳も、そのスラリとした長身も。一目見ただけで、令嬢達は魅了されいている。
「まあ、あれがアルシャイン国の王太子なの!?」
「病弱だという噂、あれは間違いだったの!?」
「なんて脚が長いのかしら! それに笑顔が最高」
クラウスにメロメロ令嬢がいる一方で――。
「ああ、アラン国王陛下のあのマント姿はとっても素敵」
「この若さで国王なんて! 今宵こそダンスしたいわ」
「今日は一際ハンサムよね。何かあるのかしら!」
独身の若き国王であるアランへの熱も高い。
そこで音楽が止み、アランの挨拶が始まる。
「お集りの貴族諸君。今日はこの舞踏会へ参席いただき、主催者として心から感謝する。そして今宵、我が国にとって大変大切な客人をお迎えしている。紹介しよう。アルシャイン国王太子、クラウス・エディ・アルシャイン殿下だ。拍手で迎えて欲しい」
ものすごい勢いで拍手が起きた。
特にご令嬢が熱心に拍手を行っている。
「ではクラウス王太子殿下。改めて挨拶をお願いしたい」
アランの言葉に、一歩前に出たクラウスは、優雅にお辞儀をした。
その姿に令嬢マダムから「ほう」とため息がもれる。
「皆様、初めまして。アラン国王陛下からご紹介いただいた、アルシャイン国王太子、クラウス・エディ・アルシャインと申します。この度はアラン国王陛下の我が国への訪問を受け、その御礼を兼ね、王の名代としてこの場に参りました。連日、素敵なおもてなしを受け、心から感謝している次第です。これからもアルシャイン国とトレリオン王国が友好国として、共に歩めることを祈願しております」
そこで再びクラウスがお辞儀をすると、またも拍手が沸き起こる。
「ではクラウス王太子殿下を歓迎する舞踏会を始めたいと思う。最初のダンスは殿下への歓迎の意を示すため、わたしが踊ろう」
未婚の国王が最初のダンスを踊る場合。ゲストの最上位の身分の女性が選ばれる。クラウスが妹や姉を同伴していれば、アランは彼女らと踊ることになるが、あいにく随行していない。
となるとゲストの最上位の身分の女性は――私だ!
「アイゼンバーグ公爵令嬢。我が国で最も高位な身分の令嬢である君を、最初のダンスの相手に指名しても?」
私の目の前でアランはそう言うと、お辞儀をして、手を差し出す。
このお誘いに「ノー」の選択肢はない。
「光栄でございます、アラン国王陛下」
即答でアランが差し出した手に、自分の手を載せる。アランは「では」と私をエスコートして、ホール中央へ向かう。
私たちの移動に合わせ、楽団がプレリュード(前奏)を始める。その三拍子の優雅なテンポはメヌエットだ。
ワルツやカドリールが人気になりつつある中、メヌエットはやや古風であるが、より伝統を重んじる場で、特に王族の最初のダンスで採用されることが多い。
アランは自身が最初のダンスを踊ると決めており、楽団にもメヌエットを指定していたのだろう。
ファーのついた赤のマントといい、メヌエットを選曲した点からも、アランが国王として、自身の立場を最大限にアピールしている様子が伝わってきた。
今日、私から告白の返事を貰える。アランはその返事が「イエス」であっても「ノー」であっても、立派なこの国の王として、振る舞おうと決意したのだろう。
その覚悟を、自身が王であると強く示すマントやメヌエットでの選曲で表現している。
それは誰かに見て欲しいわけではなく、彼自身の誇りを保つために、そうしているはず。歓喜で我を忘れそうになった時。絶望で自暴自棄になりかけた時。理性を働かせるために。自分は王なのだから、冷静に振る舞うのだと。自分が王であることを思い出せるよう、王らしく行動できるように、自身を律しようとしている。
「では」
「はい」
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