第二十九話:ピュアな約束、そして舞踏会へ
エルとピアのあまりにもピュアな約束。
目撃するつもりはなかったが、しっかり見てしまうことになった。
誰かに話すつもりはなく、これはクラウス、ゼノビア、私の三人の秘密。この約束が二年後に果たされるのを見守るまでだ。
それにしても。
ピアは私にエルは本命ではない、マークも気になるなんて言っていたけれど。やはりエルが大好きだった。私がお膳立てすることもなく、ピアは自らが動き、エルとの約束を取り付けた。
二年後。
間違いなくピアは、自らの力でエルに想いを伝えて……。そこから先は、エルとピアが主人公の物語が始まる。できればThey lived happily ever after.になるように、願うばかりだ。
そんな紅葉を見た日から時間は経ち、舞踏会当日を迎える。と言っても舞踏会は夜からなので、日中は時間がある。
ピアとエルと一緒に街の人気レストランでランチを食べ、小劇場で演劇を観て、屋敷に戻ることになった。
「お嬢様、そろそろお着替えをされますか」
屋敷に戻って一時間程すると、メイドに声をかけられ、「そうね。そうしましょうか」と、準備になった。ピアはルナを連れ、エルに読み書き計算を習っている。
十一月に入り、汗ばむことも無くなった。お湯で濡らしたタオルで拭き入浴をすると、バスローブを着て、髪のセットとお化粧を行う。
それが終わると、まずは下着を身につける。
用意されているトルソーが着ているのは、アイスブルーのシルク生地で出来たイブニングドレス。身頃には繊細な刺繍と模造宝石、スカート全体にはレースとチュールが重ねられ、ビジューも散りばめられている。
デコルテ見せの大きく開いた胸元を飾るのは、クラウスが贈ってくれたネックレス。勿論、イヤリングとラリエットもお揃いものをつける。
「髪はアップにされますか?」
「ハーフアップでいいわ」
「かしこまりました」
準備は着々と進み、そして満を持して用意が整う。
「まあ、素敵ですよ、お嬢様。さながらフェアリーのようです」
「ありがとう」
清楚で柔らかいアイスブルーは、クラウスの髪色に合わせて選んだもの。もしかするとこのドレスを見ただけで、アランは意図を悟る可能性もある。
敢えてそうしたのは、アランのショックを和らげるためでもあった。ドレスを見て「ああ、そういうことか」となれば、その後を予想し、心の準備もできるというもの。
「お嬢様、馬車がエントランスに横付けできましたので、出発されますか?」
「そうね。エルは?」
「既にエントランスホールでお待ちです。奥様と旦那様も、用意できております」
今日は両親と同じ馬車で宮殿まで向かう。
エルは騎乗で、両親の護衛と共に馬車につき、宮殿まで向かうことになっていた。
「では私もエントランスホールへ向かうわ」
こうしてエントランスホールで両親と合流し、ピアとルナ、使用人達に見送られ、馬車に乗り込む。
エル達護衛の準備も完了し、いよいよ出発となった。
「フェリス、今日のドレスは……とても清楚ね。これまでのドレスとは全然違うわね」
対面に座る母親がそう呟くが、それはその通り。最後にこの国で着た舞踏会用のイブニングドレスは、断罪の日のもの。ロスの悪趣味を反映した、けばけばしいドレスだった。母親の記憶はそこでは止まっているのだから、驚いて当然だった。
「そのドレスの色は、何というかクラウス王太子殿下のあのキラキラした美しい髪色のようだ」
父綾の言葉に母親が「あなた!」と、その腕を軽く叩く。同じ女性として、母親は何かに気がついているかもしれない。
とにもかくにもそんな感じで宮殿に到着。
両親と共に、会場となる祝祭の間へと向かう。
通路を進むと、注目を集めていることを感じる。
断罪以来、そして帰国後初で参加する舞踏会。
宮殿には勲章の授与で足を運んだが、それは身内のみでシンプルに行なってもらった。ただし、新聞記者は中に入れていたので、翌日の一面を大きく飾り、私の名誉回復が大々的に報じられた。
チクチクと感じる視線。
好奇の目で見られるのは、仕方ないこと。ここは何も恥じることはないと、背筋を伸ばし、堂々とするのみ。
「よし、入るか」
祝祭の間に到着し、父親の声と共に中に入ると、既に大勢の貴族が会場を埋め尽くしている。特に目立つのは、両親と共に足を運んでいる妙齢の令嬢達だ。
大国の王太子──クラウスが参加するのだ。しかも現状、婚約者なし。自国の貴族令嬢もそうだが、トレリオン王国の令嬢達も、まさに一攫千金、玉の輿狙いで集結したように思える。
「まあ、アイゼンバーグ公爵令嬢!」
「アイゼンバーグ公爵令嬢? まあ、本当だわ」
「お久しぶりです。アイゼンバーグ公爵令嬢」
悪女認定され、断罪された上に、国外追放の憂き目にあった公爵令嬢。約半年の逃亡生活で、どうなったのか。皆、興味津々。だが私の両親もいるので、まずは挨拶をして様子見といったところか。
ここは魑魅魍魎が跋扈する社交界。
気を抜けば底なし沼に引きずり込まれる。
「皆様、ご無沙汰しております。ご心配をおかけし、申し訳ありませんでした。私はこの通り、元気でございますわよ」
扇子を広げ、集まる貴族に微笑みかけた。
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