第二十七話:絶景!
「うわぁ、すごい! なんだか物語の世界みたい!」
「これは……こんな美しい景色、初めて見ました……!」
「みゃぉん! みゃぉん!」
クラウスのお誘いで王都郊外にあるデンヌの森へやって来たが、ここはまさに絶景地。早朝の到着で、小高い丘から眼下を眺めると……。雲海が広がる中、紅葉する木々を眺めることになったのだ。
「澄んだ空気もなんだかご馳走ね。でも空気を食べても満たされないわ。ピアちゃん、エルくん、ルナちゃん。朝食を摂りながら眺めましょう!」
襟元に黒のファーがついたロングケープをまとうゼノビアが声を上げる。
「「は~い!」」「にゃー」
二人と一匹が元気よく返事をして、こちらへと戻ってくる。
「クラウスさん、今日はお誘いいただき、本当にありがとうございます。ピアをどこに案内するか、考えていたところだったんです。それに私自身、王都に住んでいましたが、こんな景勝地があったなんて……知りませんでした」
丘には丸太を使ったテーブル、切り株の椅子があり、そこで用意した朝食をクラウスと私で並べていた。ゼノビアはルナの食事を用意し、上級魔法の使い手は火をおこし、ソーセージを焼いてくれている。
「僕も偶然、知ることになったんだ。滞在している大使館の離れの客間に飾られていた絵が、まさにこの景色。紅葉する木々が雲海の中に浮かぶ……今日のような絶景だった。職員に確認したら、王都の郊外で見られる景色だって言うから、これは見たいと思って。せっかく見るなら、みんなで見られたらいいなと思ったんだ」
サファイアブルーの厚手のマントを羽織り、白のセットアップを着たクラウスは、明るい笑顔で微笑む。朝に拝むには眼福なその笑みに感動すると共に。みんなで見たいと思い、誘ってくれた彼の優しさにキュンとしてしまう。
しかもクラウスは、ライバルになるアランにも声を掛けていたのだ。ただアランは外せない公務があり、断念することになったが。
意中の女性がいたら、ライバルを出し抜き、二人きりで見に行こう……という提案だって出来たはず。でもそうはせず、みんなで楽しみたいと思えるクラウスのその優しい判断に、ほっこりしていた。
「殿下、完成です!」
上級魔法の使い手が、山盛りいっぱいのソーセージを乗せたお皿をテーブルに置く。
「すご~い! 焼き立てのソーセージ!」
「マスタードもあるから、このパンに載せて食べるといいわ。このパンも大使館の食堂の焼き立てを持って来たの。まだ温かいから」
ゼノビアがブレッドナイフでパンを切り分け、渡してくれる。
「よし。みんな揃った。食べようか」
「「「「「「いただきます!」」」」」」
「みゃん!」
◇
「お腹いっぱ~い」
「ご馳走様でした」
ピアとエルが満足気な顔で口元をナプキンで拭う。
ゼノビアは朝からロゼワインを飲んでいるが、顔色や言動に変化はなく、まさに水を飲んでいるかのよう。
クラウスはリンゴをむくのに使ったフルーツナイフを片付けながら、「近くに泉があるので、見に行こうか」と提案すると、上級魔法の使い手が「では片付けは自分が」と言う。
「片付けはピアもやるよ! 朝食の用意手伝っていないから!」
「同じく自分も。クラウス王太子殿下やお嬢様は、ぜひ泉へ散策へ行ってください!」
ピアの瞳が輝き、エルはウィンクをする。
すぐに理解してしまう。
多分、二人は私がクラウスと二人きり……護衛のゼノビアはいるが、自分達がいない状況を作ろうとしてくれているのだと。
ピアは恋愛小説の読み過ぎの妄想で、私とクラウスは恋をしていると想像して。
エルは……気付いているのだろう。私の気持ちを。
そして実際私はクラウスのことが好きであり、明後日の舞踏会で、その気持ちを伝えようと考えている。
ならば二人の好意、ありがたく受け取ろう。
「ありがとう、エル、ピア。では後片付けは二人に頼むわ。クラウスさん、泉へ案内いただけますか?」
「分かりました。瓶を持ってきているので、泉の水を汲んで帰りましょう。なんでもご長寿の水らしいですよ」
こうしてピアとエルは近くの小川でお皿を洗いに、上級魔法の使い手はテーブルの片付け、クラウスと私はゼノビアを護衛につけ、泉へ向かうことになった。
クラウスが瓶を取り出している間に、エルとピアは既に小川へ向かっている。屋台営業で培っただけあり、後片付けのために、二人は迅速に動けた。
「おや、マスタードの瓶にスプーンが残っている」
上級魔法の使い手の言葉に「本当だ。僕が届けよう」とクラウスが応じる。
どの道、小川の近くを経由して泉に至る。そもそも泉で沸いた水が、小川につながっているからだ。
ということでスプーンを手にしたクラウスと共に、小川の方へと向かう。私達の後ろを距離を置いてゼノビアが護衛としてついて来てくれている。
この逆転にもだいぶ慣れてきたわ――なんて思っていたら、小川が見え、エルとピアの姿が見えてきた。
クラウスは「おーい」と声を掛けようとしていたが、それを呑み込む。
どうしたのかと思うと、クラウスが腕で私の動きを制止させ、人差し指で自身の唇を押さえる。
つまり「しーっ」という、静かにしようの合図だ。
「エルお兄さんから見たら、ピアは子供でどうせ妹みたいなんでしょ」
「!? 急に、どうしたんですか、ピア?」
クラウスの合図の理由。
それは耳を澄ませた結果、理解できた。
お読みいただきありがとうございます!
本日もよろしくお願いいたします☆彡
次話は18時頃公開予定です~























































