第二十五話:私がとっちゃうぞ!
「アウラのことは気にしないでいい。多分きっと、アウラは……勘違いしたのだろう」
勘違いとは一体と思ったら……。
「アウラはフェリスとアラン国王陛下との距離の近さを指摘していた。それはもう親心で」
「親心……というのは、アウラさんがクラウスのお母様のような気持ちで、動いたということ……?」
「うん。そうだよ。アウラは僕達と変わらない年齢に見えるだろう? でも実際は違う。マギウスが使える魔法を使い、自身の外見を変えている。今のあのアウラの姿は、本来のものとは違う。実際のアウラは……多分、百五十歳ぐらいかな。とにかく一世紀は既に生きている」
これにはもうビックリ。そしてそんな風に外見を魔法で変えられることに、ビックリするしかない。
「長生きしているのも魔法のおかげなの?」
「そうだね。自身の体内時計の進み方を、遅くしているのだと思う。魔法を使ってね。マギウスならではだよ」
「ということはアウラさんからすると、クラウスさんは自身の孫のような、子供のような存在ということなのね」
私の問いにクラウスは「その通り」と白い歯が見える素敵な笑顔になる。
「それにアウラは既婚者。すでに旦那さんは亡くなり、子供たちも亡くなっている。孫やひ孫は……いるのだろうけど、距離をとって会っていない。自身がマギウスであることを明かしていないし、不審者扱いになってしまうから。ともかくアウラからすると、僕は弟子であり、自分の孫のようなもの。家族のように大切に思ってくれている」
「アウラさんは、クラウスさんの私への気持ちを知っている……?」
そこでクラウスは苦笑する。
「アウラに話していないけど、彼女はマギウスだ。バレてしまったのだろうね。そして僕がフェリスを大好きなのに、フェリスがアラン国王陛下と仲がいいから……。なんというか意地悪したくなったのかもしれない。アラン国王陛下に現を抜かしていたら、クラウスは私がとっちゃうぞ!と」
これには「なるほど!」だった。
「もしかしてフェリスはアウラの話を信じた?」
「!」
「アウラの話を信じて、僕がアウラと婚約するかもしれない。結婚するしかないんだと思って、悲しくなってくれたのかな?」
「そ、それは……!」
クラウスが私の手を持ち上げ、甲へと優しくキスをする。
「少なからずフェリスは、僕が自由に婚姻できる立場ではないと考えた。アウラの言う通りなら、より魔力の強い子供の誕生のため、彼女と結婚するしかないと考えたのだろう? だから異国の姫君の話をした。もしもの話として」
上目遣いで尋ねられ、私は……白旗をあげるしかない。
「……そうね。気になってしまったの」
クラウスはもう片方の手で私の頬を包み、耳元に顔を近づける。
「安心してフェリス。僕の心は君に捧げているんだ。何も心配せず、僕を好きになって」
こんな……こんなにも甘い言葉を耳元でささやかれたら腰砕けになる……!
椅子に座っていて良かったと噛み締める。
「アウラのことは注意するかどうか、迷ってしまうな。少なくともアウラのせいで、フェリスがやきもきしたのなら……それは僕を好き……なのかもしれないのだし」
耳元から顔を離し、頬に添えられた手は元の位置に戻っているものの。まだ手はぎゅっと握られたまま。ドキドキが継続する中、クラウスはこんなことを言う。
「フェリスから父君が、アラン国王陛下を屋敷に招くことを喜んでいると聞いた時。僕はピンときた。もしかするとフェリスの父君は、アラン国王陛下とフェリスの婚約を目論んでいるのではないかと」
「! それは……!」
そこでクラウスは大きく息を吐き、話を続ける。
「もし父君から決断を迫られたら、フェリスはとても困るだろうと思った。『お父様、私はクラウス王太子殿下が好きなので、アラン国王陛下と婚約するのは無理です!』と言えたらいいけれど、そこは僕にも未知数。未知数だけど、アラン国王陛下との婚約を阻止するためだけに、僕の名を出されるのは少し悲しくもある。しかも今、聞いたところ、アウラの件もあったわけだ。そうなると仮に僕を好きだったとしても……。アウラのことを考えると、僕を好きだからという理由で、アラン国王陛下との婚約は断ることができない」
まさにその通りで八方塞がりだった。
「もしかすると、アラン国王陛下のことをフェリスが好きかもしれない……とも考えたけれど……。その時はそれまでだ。僕が願うのはフェリスの幸せだから、そこは……身を引くしかないだろう。でも今はともかく、フェリスがご両親から決断を迫られ、困っている状況が起きているなら、それを打破したいと考えた」
「もしかして今日、早めに私の両親と会った理由は……」
「フェリスに決断を迫らないで欲しいとお願いした。王族との婚約破棄と断罪をされ、国外追放となり、それでもフェリスは必死に生きてきたんだ。見知らぬ土地で、護衛騎士と孤児だったピアと野良猫だったルナまで抱え、なんとか生きて行こうと必死だった。そんなフェリスは、婚約破棄と断罪で傷ついた心が、まだ癒えていない可能性が高い。本人が将来のこと、結婚や婚約を前向きに考えられるようになるまで、決断を迫るのは止めて欲しいと伝えんだ」
クラウスの言葉に胸が熱くなってしまう。
やっぱりクラウスは私のことを一番に考えてくれた。私を大切にしようとする気持ちが、彼から溢れている。感動で涙が出そうだった。
「両親は……お父様は何と?」
「僕の話を聞いて、ハッとしていた。多分、娘の幸せを想い、アラン国王陛下との婚約で、リベンジしようとしていたのだろうけど……本人の気持ちを置いてきぼりにしていると、気付いてくれたよ。そして実際、フェリスにここ数日の間に、アラン国王陛下との婚約について、答えを出すよう迫っていたと打ち明けてくれたんだ。その上で僕の話を聞き、フェリスに決断を迫らないと、約束してくれた」
「……! そうなのですね。クラウスさん、ありがとうございます。私……本当に悩んでいたので、助かったわ!」
私の言葉にクラウスは「フェリスの助けになれて良かったよ」と再び手を持ち上げ、甲へとキスをした。
その仕草に。甲へキスをされたことにドキドキしながらも、私は伝える。
「アラン国王陛下から、クラウスさんの訪問を祝う舞踏会を開くと聞いたわ。そこへ招待されたの。この時に私、自分の気持ちを整理して、お二人にお返事します」
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次話は18時頃公開予定です~