第二十四話:フェリス以外は考えられない
住む場所の自由、ゼノビアと同じ即日即罰権、そして婚姻の自由。
特級魔法を国と国民のために惜しみなく使う代わりで、クラウスはこの三つの自由を手に手に入れたと言う。
「転移魔法を使えるからね。僕はどこにだって住むことができる。王宮にずっといる必要もないわけだ。即日即罰権はゼノビアと同じで、悪を見逃すことがないようにするため。そして婚姻の自由。まだフェリスと知り合う前だったし、具体的な結婚相手がいたわけではない。ただ、政略結婚。そんなものはしたくないと考えたし、ハニートラップのリスクを減らしたかった……ということもある」
「な、なるほど。その三つの自由を、国王陛下が認めたんですね」
特級魔法で防げる災害を想えば、この三つなど些末なことと、国王陛下は思ったのかもしれない。
「そうだよ。だからフェリスが東方人で、平民だろうと問題はない」
「こ、国王陛下が、例えば異国の姫君と結婚して欲しいと頼んでも?」
「断るよ、そんなもの。フェリス以外は考えられない」
これを聞いた私は心臓がドキドキしている。
アウラが言っていた「……王族と言うのは、私人である前に公人として、国のためになることをする必要がある。国の平和のためだと国王から説かれれば、クラウスとて認めざるを得ない」これは関係ない――ということでは!?
いや、でも……。
「その姫君と結婚しないと、戦争が起きてしまう。国の平和のために、その姫と結婚して欲しいと頼まれたら?」
「……応じないよ。そんな提案をしてきた相手国の、国王を捕らえればいいだけのこと。撤回しないと海に沈めると言えば……応じるんじゃないかな?」
これはつまり、そんな提案をしたら特級魔法の使い手として、全力で撤回させる……ということだ。
「フェリス。温室はそこでは?」
「! そうね。ごめんなさい、通り過ぎるところだったわ!」
そこで押し殺した笑い声が聞こえ、ドキッとしてしまう。
振り返るとかなり離れた場所で、ゼノビアの姿が見える。
クラウスの護衛なのだ、ゼノビアは。
そばにいて当然だった。
そこで温室の扉の前に到着し、取っ手を持ち、開けようとするが……。
「あ、でも鍵がかかっているわ」
「そう? 開いているよ?」
「!?」
鍵はかかっていた。
でも間違いない。
クラウスが魔法で開けた……!
さらに温室の中に入ると、そこは暗い。
「ランプがあるから今……」
入り口脇のテーブルの上に置かれたランプを手に取ろうとしたら、明かりを感じる。
見上げた私は「あ」と息を呑む。
温室のあちこちにランプが置かれていたと思うのだけど、そのランプに火が灯り、それが宙に浮かんでいるのだ! それはさながらランタンフェスティバル!
幻想的な光景だった。
同時に。
いくつもの魔法が同時進行で行使されていることに気付く。
火の魔法、風の魔法、浮遊魔法……。
これが特級魔法の使い手、なんだ!
「フェリス、見て。あそこで白い花が咲いている。大きくてとても華やかな花だね」
クラウスの視線を追い、目に飛び込んできたのは……。
「クラウスさん、あれは月下美人よ」
「月下美人……」
「舶来品よ。ドルネシアン共和国産の花なの。トレリオン王国とこれまで独占を取引をしていたから、アルシャイン国では見かけない花よね」
月下美人の近くまで来ると、甘い香りが辺りに漂っている。
「これは……ジャスミンみたいな香りだね」
「香水にも使われているわ」
「丁度いい。ここに椅子とテーブルがある。座ろうか」
クラウスはまず私を椅子に座らせると、対面の椅子に座るのかと思ったら……。椅子を私の隣まで移動させ、そこでおもむろに腰を下ろした。
「フェリスはさっき、異国の姫君の話なんかを急に始めたけど……何かあった?」
「! そ、それは……」
「……話したくないなら、話さなくてもいい。ただ、ちょっと心配だな」
そう言ってクラウスは膝に載せている私の左手をぎゅっと掴む。
「アルシャイン国にいた時。幌馬車で移動して、屋台をするフェリス達のことを、ゼノビアが見守ってくれていた。そしていざという時はすぐに助けることができたけど……。ここはトレリオン王国。アルシャイン国の時のように、フェリスを守ることができない。だから何か不安を感じることがあったら、遠慮せずに言って欲しいな。できれば、ね」
王太子という立場なのだから、命じることだってできるだろうに。クラウスはあくまで私の意志を尊重しようとしてくれている。
その優しさに、私はアウラのことを打ち明けることにした。
「実は……」ということで話すと……。
「フェリス」
「はい」
「アウラのことは気にしないでいい。多分きっと、アウラは……勘違いしたのだろう」
「勘違い……?」
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