第十九話:初対面
遂に我が家へ国王と隣国の王太子がやって来る日になった!
今回クラウスと両親は、初対面になる。
そこでアランより一足先で、クラウスは公爵邸へ来ることになっていた。
宮殿でアランに会った足で、クラウスは我が家へやって来る。
「旦那様、クラウス王太子殿下が宮殿を出発されたそうです」
ヘッドバトラーが、居間にいた私達に、クラウスの動きを報告してくれる。
「おお、そうか。我が公爵邸は宮殿に近いからな。すぐに到着となる。二人とも、用意はいいな?」
「ええ、大丈夫ですよ、あなた」
「はい。お父様」
グレーのフロックコートを着た父親とワイン色のローブ・モンタント姿の母親と共に、エントランスホールへ向かう。ちなみに私はオフホワイトのローブ・モンタントだ。
クラウスを迎えた後、私は夕食会の準備となる。両親とクラウスの三人で、話すことになっていた。
「クラウス王太子殿下、門を通過されました。……殿下が乗られた馬車に続き、荷馬車が十台ほど続いています」
「!? 荷馬車が十台も?」
ヘッドバトラーの報告に、父親は驚く。だが門を通過したのなら、もうすぐそこまでクラウスは来ている。
「待った」はなしだ。
エントランスへ出ると、先頭を走る護衛の騎士の白馬が見えている。三人の騎士は、国旗、王太子旗、騎士団旗をはためかせ、エントランスに入って来た。その後に続くのは、白馬が引く馬車で、美しいセルリアンブルーで塗装されている。
ピタリと私達の目の前で馬車は停車。
すぐに御者の一人が階段をおろし、扉が開かれる。
「「「!」」」
馬車から姿を見せたクラウスに、両親も私も目が釘付けになる。
今日のクラウスは、アイスブルーのサラサラの前髪の左側を、後ろに流していた。形のいいおでこが見え、さらにキリッとした眉が際立つ。それに睫毛の長さ、透明度の高い海のような碧い瞳にも、いつも以上に目が吸い寄せられる。肌艶も大変よく、唇の血色もいい。そして鼻梁が高く、通った美しい顔立ちに、両親が「ほう」とため息をもらす。
さらに着ているのは、アイスブルーのフロックコートで、襟や袖の銀糸の繊細な刺繍が実に美しい。そして階段に足を下ろした瞬間。その足の長さに息を呑み、エントランスに降り立つと、スラリとした長身にため息がもれた。ハラリと揺れる、セレストブルーのマントが、彼の引き締まった体のラインを露わにしている。
クラウスがこの世をあまねく照らすような笑顔となり、両親は両手を胸の前で組み、まるで主に祈りを捧げているような状態。気持ちは分かるが、ここはホストとして、声を発する必要がある。拝んでいる場合ではない。
ヘッドバトラーが慌てて父親のそばに行き、その背にそっと触れる。父親はハッとして、ようやく口を開く。
「アルシャイン国王太子、クラウス・エディ・アルシャイン殿下。この度は我が公爵邸まで足をお運び下さり、恐悦至極にございます。何より娘が大変お世話になりました」
「アイゼンバーグ公爵。こちらこそ急な訪問を受け入れていただき、とても嬉しく思っています。ご令嬢には、アルシャイン国でとても美味しい手料理を食べさせていただきました。その御礼と手土産を持参したので、どうかお納めいただけないでしょうか」
クラウスはそう言いながら、あとから馬車から降りてきた従者……かと思ったら、何と男装の麗人姿のゼノビア! 黒のフロックコートを着ているが、その胸の辺りははちきれそうになっている!
ゼノビアはクラウスに目録を渡し、私にウィンクした。その姿はもう大変セクシーで「お姉様♡」となりそう!
私がゼノビアにメロメロになっている間に、父親は受け取った目録をざっと確認し、衝撃を受けている。
「イーストワイン、セヴィエル磁器、シルク……こ、こんなに大量の手土産を……よろしいのでしょうか!?」
「本当はもっとお送りしたかったのですが、急に決まった日程であり……アラン国王陛下への手土産もあり、これだけしかなく、申し訳ないです」
「十分でございます、殿下! 本当にありがとうございます」
父親が頭を下げ、母親と私もそれにならい、頭を下げる。頭を下げながら、幻と言われるイーストワインが、荷馬車一台分もあることにビックリ。それだけでもとんでもない価値がある。
さらにセヴィエル磁器。これはアルシャイン国を代表する磁器であるが、生産数がコントロールされているため、なかなか手に入らない。ゆえに外交上の贈答品として、王家が使うことが多いと妃教育で習っていた。トレリオン王国の王宮にも、セヴィエル磁器のティーセットが大切に棚に飾られている。それが荷馬車一台分……。屋敷が手に入ると思う。
そんなものをそれだけ贈り「これだけしかない」だなんて……。
アルシャイン国の国力と豊かさに、舌をまくしかない。
「こんな場所での立ち話もなんですから、どうぞこちらへ。フェリスはこれから夕食会の準備となるため、同席できず、申し訳ありません」
「問題ありません。フェリス嬢の料理を楽しみにやって来たので」
そこでクラウスが秀麗にウィンクして、ズキューンとなったのは私と母親だけではない。この場に立ち会っていたメイドや侍女も、目がハートになっていた。男性の使用人は、さりげなくクラウスのそばに控えるゼノビアに頬を赤くしている。
こうして登場と同時にその場にいた者を魅了し、クラウスは両親に連れられ、応接室へ向かった。
お読みいただきありがとうございます!
本日もよろしくお願いいたします☆彡
次話は18時頃公開予定です~