第十八話:とにかく最善を尽くす
クラウスが突然姿を現わしてから、ラーメン&餃子の夕食会の日まで。
両親は大奮闘することになる。
アランが来るだけでも、両親にとっては一大事。特に私との婚約を目論んでいるのだから。そこにアルシャイン国から王太子であるクラウスまでやって来るとなったのだ。しかもクラウスには私が散々お世話になっている。
そうなると二人が通過する廊下の絨毯を張り替え、カーテンを新調し、窓はピカピカに磨かれ、壁にはこれぞという名画が飾られる。
用意されるのは屋台のラーメンなのに、使われる食器はとんでもないもの! ラーメンを入れる器は、それ一つで馬車一台が手に入る逸品。さらに黄金の飾りのついたお皿にのるべきはキャビアであり、餃子ではない……と思うのは私だけで、両親は至って真剣に食器選びをしている。
そして厨房ではパティシエが餃子とラーメンの後に食べるデザートを考案することになり、こちらも「何にすればいいのか!?」と大騒ぎ。
庭師も庭の手入れに余念がないし、メイドはエントランスホールの清掃を念入りに行い、とにかく最善を尽くそうと、みんなが必死だった。
その様子を呆気にとられて見てしまうのはピアだ。
「貴族って大変なんだね。クラウスさん……屋台にも来てくれたし、身近な存在に感じていたけど……。国王陛下が来るというのもあるけど、それ以上にフェリスお姉さんのおとうちゃんは、クラウスさんに会うのが初めてだから、こんなに頑張っているのかな!?」
「そうだと思うわ。二つの国の最高レベルの客人を迎えることになったから……。でもほら、ピアも素敵なドレスを用意してもらえたでしょう?」
調理をする間はワンピース。だがディナーの席で着用する、クリーム色のリボンとフリル満載のドレスを、ピアは私の両親にプレゼントされていたのだ。
「うん! すごく可愛くて嬉しい!」
ちなみに私は、マーガレットおばあちゃんが贈ってくれた着物を着用するつもりだった。トルソーにきちんと着付けされていたので、メイドはここ数日掛け、着物の着付けを頭に叩き込んでくれていた。
こうしていよいよ二人が来る前日の夜、仕込みを行うことになる。醤油もライスも無事手に入り、必要な物は、全て揃っていた。
ちなみに当日はチャーシューと麺を作ったら、ピアと私は着替え。麺を茹で、スープを温め、餃子を焼くのは、エルと厨房の料理人がやってくれることになった。きちんと着替えて、アランとクラウスの待つダイニングルームに行く必要があるためだ。
ということで本日のスープの仕込みは……。
「うん。スープも前回と同じ。いい感じだわ」
「ではこれは冷まして氷室に入れておきます。後片付けは自分がやっておくので、お嬢様は入浴をすすめてください」
餃子&ラーメンは、夕食会での提供になる。そこでいつもより仕込みの時間が後ろ倒しになっており、既にピアは寝ていた。ほぼ仕上げとなるので、エルと二人で作業していたのだけど……。
「エル、そんなに気を遣わなくて大丈夫よ! 二人で片付けた方が早いわ!」
するとエルはふるふると首を振る。
「明日は……きっとお嬢様にとって大切な一日になると思います。前日の疲れが取れず、目の下にクマが出来ている……では、困ります!」
「!? そんな、でも、そうね。国王陛下と隣国の王太子を迎えるから、大切な日よね」
「……お嬢様は以前、ご友人の恋愛相談をしてくださいましたが、そのご令嬢に何か進展はあったのですか?」
友人の恋愛相談として、クラウスのことをエルに話していた。それを唐突に今、持ち出され、少し焦りながら答える。
「え、えーと、特に進展はないと思うわ。友達も忙しいみたいだから……」
「そうでしたか。……それならば追加でアドバイスしてもいいですか?」
「!? え、ええ。勿論よ!」
そこでエルは何とも慈しみに溢れた表情となる。まるで癒しの大天使が降臨したかのようで、私はそのエルの表情が眩しくて仕方ない。
「ご友人の令嬢とその令息。両想いであるならば、最初から諦めることはせず、二人でちゃんと話し合う方がいいと思います。何より両想いということは、令息は自身の気持ちをご令嬢に伝えているわけです。自分の言動には責任を持つべきだと思います。後から浮上した縁談話に振り回されるなんて、あってはならないこと。それにそれが出来ずで、お嬢様を好きだと言う資格はないと思います」
「エル……! それは、そうね、その通りだわ。まずはちゃんと話して……ちょっと待って! こ、これは私の」
「そうですね。お嬢様のご友人の話でしたね。失礼しました」
そう言うとエルは、スッとその場で跪き、私の手を取る。
「……何があろうと自分がお仕えするのはお嬢様です。自分が忠誠を誓ったのはお嬢様。自分の命ある限り、お嬢様の盾となり、剣となり、御身を守ります。一生お側でお仕えします」
うるうるの瞳で私を見上げたエル。
もしかするとエルは、私が話した友人の令嬢、それが私自身の恋愛相談だと分かっている……? それどころがその相手が、クラウスだと気がついている……?
「さあ、お嬢様。早く、お部屋へお戻りください!」
「わ、分かったわ! では後はよろしくね」
「お任せください、お嬢様」
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