第十一話:胸にグッと来た。
「ですが気持ちが別にあるようなら……。今回は。今回こそは、ご自身の意に沿わない婚約や結婚は……されない方がいいと思います」
エルのこの言葉は……胸にグッと来た。
アランのことを好きか嫌いか。
それは正直、答えるのが難しい。
なんというかアランのことは、恋愛対象としても、異性としても、考えたことがなかったからだ。
改めてアランを異性として見た時。
魅力は当然だがあると思った。
やはり王太子として教育を受け、留学や遊学の経験もある。さらに国王となり、年齢以上の貫禄だって出ていると思う。意志の強さや一途さも、彼の魅力だと思った。
ではそれで私がアランを好きなのかと言うと……。
人として好ましさは感じるが、そこで恋愛感情が沸くことは……残念ながらなかった。
つまり。
クラウスと一緒にいる時に感じるようなドキドキが、アランと一緒にいる時には……。なかったのだ、残念ながら。
でもそうなるのは仕方ない。何せ私の気持ちはクラウスにあるのだから。
そう。気持ちはアランにない。
クラウスに対してある。
ゆえにこれでアランとの婚約を受けてしまえば、それは意に沿わない婚約からの結婚になってしまう。
もうロスで政略結婚を経験しているのだ。二度目はなくていいのではないか。今度こそ、ちゃんと想う相手と結ばれてください、お嬢様――エルの想いは理解できた。
「エル、ピア。二人ともアドバイスありがとう。とてもためになったわ。お父様からは数日かけ、じっくり考えるようにと言われている。だから二人のアドバイスを踏まえ、今一度自分の気持ちとも向き合ってみようと思うわ」
「うん。エルお兄さんの言う通りだと私も思う。さっきは王妃になれるんだから、なんて言っちゃったけど……。フェリスお姉さんは、王妃になんかなる必要ないよ。とにかくフェリスお姉さんには、ちゃんと幸せになってほしいな!」
「自分もピアと同意見です。旦那様も『これは決定事項だ。アラン国王陛下と婚約するように』とおっしゃったわけではないということは、お嬢様の意志を尊重したい気持ちがあるように思われます。ここは遠慮せず、お嬢様の素直な気持ちをお伝えいただければよいと思いました」
エルとピアに背中を押され、私はアランにごめんなさいをする気持ちを固めている。
そもそもアランには断るつもりでいた。
だが両親から強くアランを勧められ、かつクラウスにはアウラが求婚すると宣言したのだ。そこで私の中で迷いが生じたと思う。
クラウスと結ばれることは難しくなった。だがアランは私と婚約したいと思っており、両親もぜひにと思っている。それが分かると、「ならば私はアランと婚約した方がいいのではないか」なんて思ってしまったが……。
そんな必要はなかった。
エルとピアのアドバイスのおかげで、正しい決断をしよう!となれたのだけど……。
まだ懸案事項がある。
そう、それはアウラのこと。
アウラのことを相談したら、エルは今と同じように、ためになりそうなアドバイスをしてくれそうだった。
そこで。
「エル、お願いがあるの。食後、ちょっと相談に乗ってくれるかしら?」
「ええ、勿論ですよ、お嬢様!」
こうして夕食後。
エルにアウラの件を相談することを決めた。
◇
この日の夕食は、アイゼンバーグ一族が勢揃いした、晩餐会さながらの夕食会になった。
しかも仔羊を丸ごとのローストや秋鮭を一匹使ったパイが登場し、テーブルの上が大変華やか! 出来立てを目の前で給仕が取り分けてくれるが、いい匂いがダイニングルームに漂う。
ピアはこういう席は当然初めてなので、最初から最後まで目が輝いていた。
「お姫様になった気分だった! お料理も全部、美味しかったよ~! 仔羊肉は柔らかくてジューシーだったし、サーモンのパイはサクサクで絶品。デザートの糖蜜タルトは驚いた! あんなに甘~い、甘~いタルトがあるんだね」
糖蜜タルトは、トレリオン王国の伝統的なスイーツ。蜂蜜に似たシロップを使ったフィリングのタルトで、大変甘い。クロテッド・クリームやアイスクリームをのせて食べるが、後者を選ぶと甘さが倍増する。
ピアはバニラ味のアイスクリームをたっぷりのせて食べていた。それはもう脳天を直撃するような甘さだっただろう。だが本人はこの甘さが気に入ったようだ。
「また食べたい。レシピを知りたい」と大喜びだった。
そんなピア大満足の夕食。当然だが満腹である。入浴を終えたピアは、ルナを抱っこして一足先におねむ。そして私は前室にコーヒーを用意してもらい、エルが来るのを待った。
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