第十話:好きな人のそばにいたいな
ひとまず検討すると答えることで、私は解放され、自室へ戻ることになった。戻ると前室では、エルがピアに勉強を教えている。ルナは二人の座るソファの端で丸くなって寝ていた。
「あ、お嬢様!」
「フェリスお姉さん!」
私が戻ると、二人は笑顔で迎えてくれる。
ルナも二人の声に目を開け「みゃぁ」と鳴く。
「今日は大成功でしたね。アラン国王陛下もツケメンを気に入っていたようで、本当によかったですよね、お嬢様!」
「後片付けはあっという間だったよ~! みんなが手伝ってくれたから!」
「二人とも、後片付けありがとうね。本当にみんな喜んでくれて良かったわ」
エルとピアに私はいつも通りで応じたつもりだった。だがエルはすぐに私に尋ねる。
「お嬢様、何かありましたか」と。
そこで私は二人が横並びで座る対面のソファに腰を下ろすと、先程両親に言われたことを打ち明けた。
「えええええ、王様の婚約者!? それって……お、王妃様になるの、フェリスお姉さん!?」
ピアはまさにビックリ仰天になっている。
このピアの仰天の声に、ルナの目が大きく見開く。
一方のエルは……。
「そ、そうなのですか……」
なんだかズーンと落ち込んでいる。
これはもしかすると宮殿へ戻るのが嫌なのかしら?
私の護衛騎士であるエルは、王宮で暮らす私のため、彼自身も宮殿の敷地内の離れに部屋を与えられていた。そしてそこで暮らしていたのだ。
頼んで個室にしてもらったが、食事は食堂、お風呂は使用人も使う共同浴場。もし自身の両親の屋敷で暮らせば、家族と食事ができ、お風呂も家族が利用するものを使える。使用人とお風呂場を共用利用することはない。
公爵家の私設騎士団は、希望者は公爵邸の敷地内にある離れで暮らせるが、王都に住む騎士は通いをしている者も多い。エルの両親の屋敷は公爵邸からそう遠くないし、私が公爵家にいる限りは通うことができる。
せっかくアルシャイン国から帰国し、宮殿暮らしから解放され、自宅でのんびりできると思ったのに。もしアランと私が婚約したら、また宮殿暮らしになるから、きっとそれが悲しいのね……。
「エル、ごめんなさいね。もしも私がアラン国王陛下と婚約するなら、また宮殿暮らしになってしまうわ」
「!? い、いえ、そこは気にしていません。というかお嬢様は、アラン国王陛下と婚約されるおつもりなのですか……?」
「それを……悩んでいるのよ。確かに幼い頃、本当はアラン国王陛下と婚約するはずだった。それは事実よ。でも今更そのことを持ち出されても……」
私の言葉を聞いたピアは「えーっ」となった。
ピアの膝の上に抱かれているルナも「みゃっ」とまるで私の言葉に驚くように鳴いている!
「でもフェリスお姉さん、王妃様だよ!? 王様の奥さん! この国で一番偉い人のお嫁さんになるなんて……。貴族の女の人は、一度は憧れることなんじゃないの?」
「ピア。確かに王妃様になりたいと思う貴族はいると思うわ。でもね、王妃になれることが、本当に幸せかしら? ピアは王妃になれるってなったら、嬉しい? でも結婚相手はアラン国王陛下よ」
私の問い掛けにピアはハッとする。
勿論、庶民からしたら、王妃なんて羨望の的だろう。
だがピアはエルに想いを寄せている。
王妃になれても、結婚相手はアラン。
それを想像したら……。
「王妃様になれたら、宮殿で暮らせる。きっと毎日沢山の宝石をつけて、綺麗なドレスを着て、美味しい物を沢山食べられるけど……。でも好きな人と一緒じゃない……。それは嫌だな。私は……好きな人のそばにいたいな」
「みゃー」と同意を示すようにルナも鳴く。
「そうでしょう、ピア。王妃になれる……といっても必ずしも幸せになれるわけではないのよ」
「うん。そうだね。フェリスお姉さんが言いたいこと、よく理解できた。理解できて……フェリスお姉さんは、もしかして好きな人がいるの? だから国王との結婚が嫌なの?」
この問いにはどう答えるか。
好きだとようやく気が付けた相手がいた。そして相手も私を好きだと言ってくれている。だが私とその相手が結ばれるのは、どうやら難しい雲行きになってきた。
好きな相手はいる。でも結ばれることは難しい。
……諦める必要がある。それなのに「好きな相手がいる」と答えていいものか。
「お嬢様」
エルの凛とした声にハッとする。
「アラン国王陛下との婚約。旦那様はその……確定事項というか。内定を済まされているのでしょうか……?」
「内定なんて、それはないわ。相手は国王よ。そして私が帰国できると決まったのは、つい最近。例え我が家が公爵家でも、この国の国王との婚約。そう簡単にはいかないわ。いろいろ調整して……慣例にのっとれば、半年ぐらいはかかるはずよ、内定までには」
「なるほど。ならばお嬢様はまだ自由の身。ロス元第二王子と婚約されていた時のお嬢様は……その、ご自身の殻に閉じこもっていたように思います。婚約破棄された時のお嬢様は、顔が輝いていました。アラン国王陛下に、お嬢様が想いを寄せているなら、婚約されたらいいと思います。ですが気持ちが別にあるようなら……。今回は。今回こそは、ご自身の意に沿わない婚約や結婚は……されない方がいいと思います」
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