第九話:前のめり
アウラが去り、アランを見送り、あとは後片付けだった。
調理道具や器を洗う時間を使い、アウラの言葉、クラウスのことを考えようと思ったが。
「フェリス、話がある。後片付けは我が家の優秀なメイド達も参加するんだ。それは美味しいツケメンを食べさせてくれたお前への御礼という意味もある。そこは喜んで手伝ってもらえばいい。そして彼女達が手伝えば、後片付けなどあっという間だ。お前がいないことで、エルやピアが困ることもない。よってフェリス、母さんと父さんとちょっと話そうではないか」
ここまで言われてしまうと、「後片付け、絶対にやりたいです!」にはならない。「分かりました」と応じ、エルには後片付けが終わったらいつも通りピアの読み書き計算を見てあげて欲しいとお願いする。「賜りました、お嬢様。大丈夫ですよ」とエルは微笑む。
こうして庭園から移動し、リビングルームへ向かう。
両親と対面で向き合う形でソファに座ると、メイドが紅茶を運び、ローテーブルへと置いてくれる。
「さて。フェリス。今日のツケメンは実に素晴らしかった。アラン国王陛下も大変喜び、そしてフェリスのことを褒めていた」
「そうよ、フェリス。そしてアラン国王陛下は昔を懐かしんでいらっしゃいましたわ。『もしフェリスとあの日、お茶会をして、そのまま婚約をしていたら。今日という日はまた違っていたのでしょうか』と」
「フェリス。本当はお前は、アラン国王陛下と婚約するはずだった。それをあの無能で低能で許し難い、鬼畜にも劣るロスがでしゃばり、奴と婚約することになってしまったのだ。だが奴はもう王都にはいない。そしてアラン国王陛下はいまだ独身で婚約者もいない身」
両親の会話の流れから、私は何を言われるか想像がついてしまう。
「お父様、私は……」
「アラン国王陛下が動いてくれたおかげで、表向き、社交界でフェリス、お前を悪く言う者はいない。それにお前が護衛騎士を連れて国を出たことは、既に出国した時から知られている。ゆえにお前の身に何かなかったことは、保証されているというのに。悪く言う者もいる。水面下でな。陰でいろいろ言う、社交界のいつもの風潮だ」
「そうやって影でいろいろ言われてしまうと、辛いわよね。フェリスは国外追放前後で何も変わっていないのに。傷者扱いよ、社交界では」
それは……そうなることは分かっていた。でも私はクラウスの想いを受け入れると決めていたのだ。私がクラウスと婚約すれば、この国から出ることになる。トレリオン王国内で何を言われようと関係ない。そう思っていた。だがアウラの宣言を受け、私は……。
「これはチャンスだと思う、フェリス。いや、チャンスなどではないな。本来あるべき姿に戻るだけの話だ。あの日、フェリスはまだ幼かったアラン国王陛下とお茶をして、本当は彼と婚約していたはずなんだ。そして学園を卒業し、来る婚儀に向け準備をしている――それが本来のフェリスの姿。それをあのロスに奪われた。それを取り戻す。当然のことだと思う」
「そうよ、フェリス。遠慮なんてしなくていいのよ。社交界では裏でいろいろ言われ、きっと結婚相手探しは難航すると思うの。さっき、お父様とアラン国王陛下と三人で話し、お気持ちを伺ったら……。アラン国王陛下も、あの日のお茶会をやり直したいと思ってくださっていることが分かったのよ」
「アラン国王陛下は明言こそしなかった。だがフェリス。お前に強い関心を持っていることは確かだと思う。自らまたこの公爵邸に来たいとおっしゃられた。フェリスが挑戦するラーメンの試作品もぜひ召し上がりたいと」
両親が揃って瞳をキラキラさせている。
「あとはフェリス次第だと思っている。どうだ、フェリス。アラン国王陛下と一度お茶をして、あの日のやり直しをしてみないか? 彼の伴侶になる権利。それは元々フェリスのものだったんだ。それを取り戻すだけ。そしてアラン国王陛下もフェリスがそうしてくれることを……願っていると思うぞ」
「ロス元第二王子のこと、フェリスは心から好きだったわけではないのでしょう? 婚約破棄できて、清々しているのよね? アラン国王陛下なら同じ上級魔法の使い手。しかもこの国の国王なのだから。これ以上のお相手はこの国にいないと思うわ」
それはそうかもしれない。
でも……。
「とはいえ、フェリス。お前は帰国したばかりだ。ゆっくり考えたいという気持ちを持って当然。数日、考えてみるといい。アラン国王陛下もそこは待って下さるだろう」
「そうね。お父様の言う通りだと思うわ。でも本当に。アラン国王陛下が、このトレリオン王国で一番の結婚相手よ。既に妃教育を受けたフェリスなら、問題なく王太子妃を務められると思うわ」
ここまで二人が前のめりな今。しかも明確にアランはダメだと言える理由がない状態で、「その話はちょっと……」なんて言えるわけがない! この場をうまく収めるには……。
「分かりました、お父様、お母様。アラン国王陛下とのお茶会、そしてその先の件、検討してみます」
もうこう答えるしかない……!
お読みいただきありがとうございます!
本日もよろしくお願いいたします☆彡
次話は12時頃公開予定です~