第八話:茶目気
「そうか、そうか。権力に興味なし。王族に関心はなしか。ならば私がクラウスの嫁に名乗りをあげても、問題なさそうじゃ」
この言葉を聞いた時。
アウラと初めて会った時のことを思い出す。
その時も「初めまして! 私はアウラ。クラウスの初恋の相手であり、結婚を誓った仲じゃ!」と言っていた。
アウラはマギウスであり、クラウスの師ではあるが、どうやら茶目気があるようだ。ここは「そうなんですね」と笑顔で応じてあげることにした。
「! 私がクラウスの嫁になるのだぞ、いいのか!?」
「はい。ただご自身の弟子と結婚なんて、不思議な感じですね。教師が教え子と結婚するようなものですから……」
するとアウラは頬を膨らませる。
「フェリス、おぬしは知らないから、そんなことを言えるのじゃ!」
これには「何の話?」と思ってしまう。
「クラウスは特級魔法の使い手だが、その力量は限りなく私に近づいている」
「そうなのですか!?」
「クラウスの魔法を目の当たりにしたことがないのか!? あれはもはや特級魔法の域を超えつつある!」
ピシャリとそう言われてしまったが……。
身近にこれまで特級魔法の使い手なんていなかったのだ。ゆえにクラウスが見せてくれた魔法の数々は、全て特級魔法の使い手だから出来たこと……そう思ってしまったが。
どうやらそうではないらしい!
「その顔。クラウスのすごさが分かっていないようじゃな。全く」
アウラがブツブツと文句の言葉を言うが、それには「大変申し訳ありません! いかんせん、特級魔法の使い手は、クラウスさんしか知らなくて……そのすごさをちゃんと認識できていませんでした」と平謝りすることになる。
「まあ、仕方あるまい。ともかくクラウスがとんでもなくすごい、ということは理解できたか?」
「はい。とてもすごいという気持ちは以前から持っていましたが、さらにすごいのだという気持ちが高まりました」
素直に伝えると、アウラは「よろしい」と応じてくれた。なんだか授業を受けている気持ちになる。
「そんなクラウスとマギウスである私が結婚したら、どうなると思う? 生まれてくる子供は、誕生した瞬間からマギウスになることを確約されたも等しくなる。魔力は子にある程度受け継がれることぐらい、おぬしも知っておろう!」
「そ、それは……」
私はアウラの言葉に焦ることになる。
クラウスとの結婚の件は、てっきり冗談でアウラは言っているのかと思った。でもこの話を聞くと……冗談では済まないことではと気付く。
「アルシャイン国は、クラウスのおかげで盤石じゃ。クラウスのおかげ……正確にはクラウスの特級魔法のおかげだ。大きな災害はクラウスが防いできた。国のあちこちを縦横無尽に移動し、多くの悪の芽を摘んできた。もしいずれ王位を継ぐクラウスが、生まれながらマギウスになれる子宝に恵まれると国王が知ったら、どう思う?」
「……!」
「クラウスの魔法の恩恵を知っているのだ。国王は『ぜひに!』と思うはずじゃ。つまりは私との結婚。クラウスが望もうが望まないが、関係ない! 国王の方がぜひにとなるのだから。そして王族が政略結婚をするのは、この世界ではごくごく当たり前のこと。王族と言うのは、私人である前に公人として、国のためになることをする必要がある。国の平和のためだと国王から説かれれば、クラウスとて認めざるを得ない」
これは焦りを通り越し、「どうしよう!?」になってしまう。
だって。
私はクラウスから告白され、彼が自分に好意を持ってくれていると分かっていた。しかもクラウスの両親である国王陛下夫妻と食事をすることで、とてもウエルカムな状況を確認していたのだ。
すっかり安心し、アランの告白をまずお断りして、そしてクラウスに返事をしよう……なんて悠長なことを考えていたけれど……。
アウラがクラウスの婚約者になりたいと名乗りを上げたら、私の知っている世界が激変するのでは!?
クラウスは……クラウスが私を好きという気持ち。
それは変わらないと思えた。
だが国の頂点にいずれ立つ者としては、自身の感情だけでは生きて行けないはず。
それに国王も国のこと、国民のことを考えたら、強力な魔法の使い手が欲しいというのは、アウラの言う通りだと思う。
「フェリス、そちらのご令嬢は? アルシャイン国で出来たお友達か?」
父親が母親とアランを連れ、こちらへと歩いて来た。
どうやら応接室での話も終わり、アランは王宮へ戻るのだろう。私に見送りをするよう伝えるため、やって来たのだと分かる。
チラリとアウラを見ると、彼女は席から立ち、カーテシーで挨拶をした。
「フェリス嬢とはアルシャイン国で知り合いました。ツケメンの話を聞き、ぜひ食べてみたいと思い、ちょっと魔法を使い、こちらまでお邪魔させていただいた次第です。急な訪問でご当主夫妻への挨拶が遅れ、失礼しました」
口調も表情も変わり、見事なレディを演じている!
「いやいや、お気になさらず。ちゃんとつけ麺は……」
父親が応じ、アウラは笑顔になる。
「いただくことが出来ました。大変美味しかったです。公爵令嬢でありながら、異国の料理を作れるなんて、素晴らしいと思いました!」
アウラは大変丁寧に父親と話し、さらにはアランにもお辞儀をすると「では私はこれで失礼させていただきます」と姿を消した。
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