第七話:そんなに美味しいのか?
つけ麺を食べ終えたアランは、両親と応接室へ向かい、そこで食後の麦茶を楽しむ。
移動したのは、これからつけ麺を食べる騎士達や使用人が緊張しないため。
実際に、アランがいなくなることで、みんな肩の力を抜き、つけ麺を配る行列に並んでいる。
一方のエル、ピア、私は大忙しでつけ麺作り。
忙しいが楽しく、つけ麺を作り続け、ひと段落した時。
「ほう。そんなに美味しいのか、つけ麺とは?」
聞いたことのある声に振り返ると、そこにいるのは……。
ツインテールのピンクブロンド。ピンク色のふわふわとしたファーのついたドレスを着た、童顔の美少女。
彼女は……アウラ!
一体いつの間にここへ!?と思ったが。
相手はマギウスなのだ。
転移魔法もお手のものなのだろう。
「こんにちは、アウラさん。……よかったら召し上がってみますか? 無料で配っています」
私が声を掛けるとアウラは……。
「うむ。これまで食べたことがないから気になるのう。……東方にも行ったことがあるが、そこで見たのはソバとうどん。ラーメンなんてあっただろうか?」
これには盛大に心臓がドキッとする。
さすがマギウス。
東方なんてここから気が遠くなる距離だが、彼女なら転移魔法で、「ちょっと行ってみるか」と前世のコンビニへ行く感覚で、移動できてしまうのかもしれない。
「ら、ラーメンは比較的新しいですし、まだ一部の人間しか食べていないのかもしれません! ぜひこの機会にどうぞ」
「なるほど。それで一人で食べるのは味気ない。フェリス、おぬしが付き合え」
「え」
驚く私にエルが「お嬢様のお知り合いなんですよね? 残り数食しかないので、後は自分とピアでどうにでもできます。それに後片付けは使用人の皆さんも手伝ってくれると思うので、お嬢様は先にあがってください。今、お二人の分のつけ麺を用意しますよ」と言ってくれた。
この提案を聞いたアウラは「おや、ハンサムくん! おぬしは顔もいいが、性格もいいようだ」と笑顔でエルを褒める。これを見たピアは少し頬を膨らませて……。
なんだか火花がバチバチしているような中、エルは手早く湯切りをする。
「お、かっこいいぞ、お兄さん!」と再びアウラが褒め、ピアはますます頬を膨らませたが、無事、つけ麺は用意できた。
「ではあちらの空いている席で食べよう」
アウラがエルからつけ麺の載ったトレイを受け取ったと思った次の瞬間。
私はその席がある場所まで移動していた。
「え……!?」
「ほら」
しかもアウラは、私の分のつけ麺がのったトレイもちゃんと手にしていた。
「あ、あの、魔法の詠唱は!?」
「そんなまどろっこしいことはせぬ」
「……そうなのですね……」
無音詠唱。初めて接するマギウスの魔法に、私はもう呆然とするしかない。
「座らぬのか?」
「座ります!」
すっかりアウラのペースに押されてしまう。しかしいざつけ麺を食べ始めると、箸の使い方を指導することになったり、料理の説明をすることになったり。そうなると私が主導となる。
「ほうっ。これは旨い。皆が絶賛していたのは納得であるな。こんなに美味なるものが東方にあったことを知らぬとは……私はマギウス失格じゃ」
この言葉には汗が吹き出しそうになる。話題を変えるためにトッピングを勧めてしまう。
「このチャーシューが本当に美味しいんです! 口に入れるとお肉がホロホロとほどけるように感じます。味付けもスープに合い、肉汁がじわーっと溢れます! ぜひ、召し上がってみてください!」
「間違いなく美味しいのであろう。いただいてみよう」
アウラの興味がチャーシューに移り、ホッとしながら私も自分の分をつけ麺を食べ始める。
こうしてしばらくはチャーシューの作り方、煮卵のことを説明し、つけ麺を食べることになった。
だがアウラも私もお腹が空いていた。話ながら、ではあったが、あっという間に食べ終えてしまう。
「うむ。美味しかった。満足じゃ」
アウラはそう言いながらハンカチで口元を拭い、おもむろに私に尋ねた。
「随分とアラン国王と仲が良いのだな」
「! それは……」
「いくら公爵家と言えど、一介の貴族に過ぎぬ。その貴族の屋敷まで、国王がわざわざ足を運ぶ。そして共にツケメンを食する。とても珍しいことに思えたが」
そう言われてしまうと確かにそうだ。
「しかもフェリス、お前はツケメンを食べ終えたアラン国王と、ハンドシェイクを行っていた。かなり親しい間柄に思えたが」
「それは……私はこの国の第二王子の婚約者でした。いろいろあり、婚約を破棄され、断罪された挙句、クラウス王太子殿下の国へ追放されたのです。ですが冤罪を認められ、この国に戻ることができました。そんな私ですので、幼い頃から追放されるまでは、王宮で暮らしていました。アラン国王陛下も当然ですが、王宮で暮らしています。元々顔見知りだったので……。勿論、アラン国王陛下は王太子です。いつも忙しそうでしたし、共に過ごすことは、ほとんどありませんでした。それでも朝食などの席は一緒でしたから……」
「ふむ。それで、アラン国王のことをどう思っているのじゃ? 元王族の婚約者なら、未婚のアラン国王と婚約すれば、返り咲きができるのでは?」
「! そんなことは考えていません! 別に王族の一員になりたいとは思っていません」
私の答えを聞いたアウラは、不思議そうに首を傾げる。
「本当に? そうなのか? 王族にその名を刻むこと。興味はないと」
「はい」
「そうか、そうか。権力に興味なし。王族に関心はなしか。ならば私がクラウスの嫁に名乗りをあげても、問題なさそうじゃな」
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