第六話:流儀
毒味係が毒味をしている間に、両親の分のつけ麺も完成した。
こうしてテーブルに着席した両親とアランは、遂につけ麵を食べられる状態になった。
まるで結婚披露宴のように飾り付けられたテーブルに置かれたつけ麵。そのつけ麺を前に着席している、ドレス姿の母親、フロックコートを着た両親とアラン。
昼の正装でつけ麺に挑むその姿は、何だかシュールでならない!
そんなことを思いつつ、これまでのお客さんと同じように、三人とも我流で食べ進めると思っていた。
だがアランは私に尋ねる。
「アイゼンバーグ公爵令嬢。このツケメンは何か食べ方に手順はあるのだろうか? この料理を最大限味わうための手順があるのであれば、それを知りたい」
これを聞いた私は、アランをラーメン部の一員に推薦したくなる。ラーメンほどではないが、つけ麵も食べ方に流儀があった。
「では僭越ながら、つけ麵の食べ方を紹介させていただきます。まず、フォークで召し上がっていただいてもいいのですが、この箸を使うと、こちらの麺を軽快にすすることができるんです。つけ麵はこの麺をスープにつけ、すすっていただくもの。それが東方流です」
「なるほど。このハシを使うのか」
しばし箸の使い方レッスンとなる。母親にはエルが、父親はピア、そしてアランに私が指導した結果。なんとか三人とも箸を動かせるようになった。
「それでは実践に移ります。まずは麺をつけることになるスープ。こちらで味を確認してください。このれんげというカトラリーで、味を確認です。一口飲むので大丈夫ですよ」
両親とアランがそれぞれレンゲを使い、スープを一口飲む。
「まあ、なんてこくがあるのかしら!」と母親。
「しっかりした味がついているが、しつこさはないぞ」と父親。
「これは……旨味がぎゅっと凝縮されているのに、後味はさわやか。このスープだけでも楽しめそうだ」とアラン。
「スープは今、召し上がっていただいた通り、アツアツになっています。それは麺をつけて食べていただくためです。麺の方は冷ましてあるので、口の中で冷めた麺と温かいスープが混ざり合い、それが不思議と美味しさを増してくれます」
私の説明に両親もアランも「ふむふむ」と熱心に頷いている。
「それでは麺をスープにつけて食べる前に。麺を一本だけとり、そのまま召し上がってみてください。麺の風味、こしや舌触りを確認いただくことになります。つまりは歯応えですね」
そこで三人ともレンゲをおき、箸を手に、なんとか一本だけ麺をつかみ取る。
「まあ、何というのかしら? この歯応え。仔羊肉のような柔らかさだわ!」
「うん。これは何とも柔らかいパンを食べているような心地になる。さっきのスープに合いそうな気がするぞ!」
「これは……まるでマシュマロのような弾力を感じる。小麦の素朴な味わいしかないから、さっきのスープに合わせると、間違いなく最高になるのでは、アイゼンバーグ公爵令嬢?」
両親とアランは、口々に初めて食べる麺の感想を口にした。
私はアランの問いに「まさにその通りです!」と答え、説明を続ける。
「皆様、感想をありがとうございます。スープ、麺、それぞれの味を理解できたところで、実際につけ麺を召し上がってみてください。麺はすべてスープに浸す必要はありません。半分ぐらいつけたら、そのまま麺を口の中へと運び、吸い込みます。……エル、実践を」
「はい。お嬢様」
毒味係はフォークで食べたので、実食の様子はエルが手本を見せた。
「なるほど」と父親。
「まあ、音を立てていいの?」と母親。
両親に問われ、「はい。問題ありません。それがラーメンが誕生した地での文化なんです。すすることで、麺と一緒にスープを口の中に運ぶことができます。この音で『あ、美味しそう』と思う文化なのです」と私は答える。
「そうか。食事で音も楽しむ文化とは。東方は大陸と文化が全く異なるようだ。何事も郷に入れば郷に従えという。わたしも留学先でいろいろと文化の違いに驚くことがあった。でもそれぞれに意味があること。メンをすする食べ方も、きっとツケメンを最大限美味しく食べられる方法なのだろう?」
アランに問われた私は「そうです!」と力強く頷く。
「ならば東方流でいただこうではないか」
こうして両親、アランは、揃っていよいよスープをつけた麺を口に運ぶ。
その結果。
「まあ、不思議だわ! メンとスープが口の中で丁度いい温度。とっても美味しく感じるわ」
「スープの味とメンの味が自然に馴染み、実に旨いぞ、フェリス!」
「メンをスープの中でじっくり煮込んだわけではないのに! 見事に口の中で味が融合している。すすることで、確かにスープが口の中に広がり、スープにつけていないメンにも味が行き渡った。これは……とても美味しい!」
両親とアラン、共にしばらく麺をスープにつけ食べ続け、そこでトッピングについて尋ねた。
するとピアが笑顔で「チャーシューは口の中でほろほろ、ニタマゴは舌の上でとろとろ。どちらもメンとスープと一緒に食べると美味しいよ!」と答える。
「「「やってみよう!」」」
こうして三人はチャーシューと煮卵を代わる代わるで食べ、その味わいに相好を崩す。そしてついにつけ麺とトッピングのマリアージュを楽しみ……。
「なぜこのような料理がこれまで我が国になかったのか……」とアラン。「たった一品なのに、こんなに満足できるなんて」と母親。「私は毎日、ツケメンだけでも生きていける」と父親。
あっという間に三人は完食。
これを見ていた使用人たちは、お腹の虫が鳴ってたまらない。
「みんなの分も用意しているよ、食べて~!」
ピアの声に歓声が起きる。
こうして休憩中の騎士や使用人も集まり、みんながつけ麵を食べ始めた。
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