第二話:積もる話が終わらない!
昼食を摂りながら話し続けたが、とても終わらない!
南部に入ってからの道中を話し、クルスに会ったところで昼食は終了だった。
ちなみにクラウスが王太子であることを、エルもピアも知っているが、南部の道中で出会ったジョーンズ教授、エディ、シャイン、クルスが同一人物であることは……未だ知らない。知らないし、今後も明かすことはない気もする。
ともかく昼食は終わったが、話は終わらないので、そのままコーヒー片手に話は続く。
でもさすがにエルとピアをこれ以上話に付き合わせる必要もない。南部の旅は二人が一緒だったのだから。そこでエルの母親は残り、ピアとエルとルナは退出。読み書き計算タイムでお茶の時間まで過ごしてもらうことにした。もし時間が余ったら、ステッキ護身術の練習時間となる。
ということでお茶会までの時間を使い、私はひたすら話を続けた。
その結果。
お茶会の時間までにはイースト島の話が終わり、東部の町へ入るところまで話せた。ルナとの出会いも分かり、旅の仲間がようやく勢揃いだった。
「フェリスの話を聞いていると、すべて現実のことに思えないわ! まるで本で読むような冒険をしていると思ってしまうわよ」
「それに東方との縁がずっとついて回っている気がするぞ。ヨクアンという食べ物も非常に気になる」
「ピアはイースト島で暮らすんです。会いに行った際に、ヨクアンを手に入れて帰ってきます!」
「「それは楽しみ!」」となり、父親は喫茶室にお茶の準備をするよう命じ、エルやピア、ルナも再集合することになる。
そこへ幌馬車が到着したと報告が入った。
「お茶の後、仕込みをすれば、明日、みんなにつけ麺を食べてもらえるよ!」
ピアが笑顔でそう言うと、父親も母親も大喜び。
こうしてパティシエが焼き上げたばかりのリンゴのシーブスト、マカロン、クッキーなどをいただきながら、東部の町で起きたルナ誘拐事件、さらにはクラウスからの舞踏会への同伴の提案。ドレスにまつわる驚きのエピソードも明かすことになった。
「猫を誘拐するなんて! しかもこんなに愛らしい小猫を穀物庫に閉じ込めるなんて! それは許し難いわ」
「東部の町の、けしからん男爵も、大変けしからんかった。しかしこの小麦粉偏執愛三人組も、実にけしからんな!」
父親の中で、もはやポアラン男爵はネタで、教育ママ風リディアン、信楽焼のタヌキみたいなセファン、ピザ職人マイア氏の三人は、小麦粉偏執愛三人組になっている!
さらに舞踏会当日の話を聞いた両親は……。
「そのクラウスさんという方が、アルシャイン国の王太子だったなんて! まるでロマンス小説みたいだわ!」
「自ら国内のあちこちへ出向き、ゼノビア伯爵と共に悪事を暴く。これはある意味、実地を兼ねた帝王学。ただの遊学とは違い、実に有意義だ」
両親のクラウスへの賞賛が止まらない。
こうして、映画三本分の時間をかけ、私はアルシャイン国で過ごした日々について語り終えた。全てを聞き終えた両親は……。
「フェリスがアルシャイン国でどんな風に過ごしたのか。よく分かったわ。大変なことも多かったと思うの。でも素敵な出会いも沢山あったのね。本当に。ただ、綱渡りみたいな場面もあったわ。特にイースト島の、ピアちゃんの生まれ故郷で起きた事件。トレリオン王国が関わっていたなんて。恐ろしいことだわ」
「ああ。エリオンドというその男。国内では一切何も報じられていない。これはアラン国王陛下に問いただすしかないな。もしも今ものうのうと生きているなら、私がこの手で……」
前世で乙女ゲームをプレイしていた時に見たリナの父親。最後までリナの味方であり、王族に反旗を翻す。そんな父親だから、エリオンドが生きていると分かったら……。大変なことになりそうだ。ここはアランに予め私から、エリオンドがどうなったか確認してみよう。
そんなこんなで積もる話が終わり、エルとピアと私はつけ麵作りに取り組むことになる。
幌馬車の到着の知らせを聞いた時、必要となる材料を用意するよう、使用人には頼んでいた。よって仕込みはスムーズに進む。
厨房は夕食の準備で込み合っているので、公爵邸の庭園での作業になった。
公爵家の庭園で屋台の仕込みなんて、前代未聞であるが、両親は興味津々で私達の様子を見ている。手の空いている使用人にも立ち合いを許可したので、公爵家の私設騎士団の騎士達も集まってきた。騎士達は自身の先輩でもあるエルが、熱心に麺の生地を捏ね、伸ばす様子が気になるようだ。まるでそこに剣の極意でもあるかのように、食い入るように見ていた。
「仕込みは完了。夕食にしましょう!」
立ち上るスープの香りにすっかり魅了されていた面々は、「今日は食べられないのか」と実に残念そうにしてくれる。そこで私は大声で告げる。
「明日のお昼につけ麺を皆さんに無料で配ります。お時間がある方は、この庭園に来てください。今、この場にいない仲間にも声をかけていただいて大丈夫ですよ!」
実はスープも麺も通常の倍、用意している。
明日のお昼は……つけ麺祭りになりそうだった。
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