第一話:積もる話
「「フェリス」」
「アイゼンバーグ公爵令嬢!」
本当に驚いた。
クラウスとゼノビアに見送られ、国境を越えると、そこには私の両親、エルの母親に加え、アランが待っていたのだ。アランがいるということは、近衛騎士もいるし、王家に使える魔法の使い手もいる。さらに新聞記者や周辺の村や町から集まった人までいるのだから……。
もう国境は超V.I.Pをお迎えするような様相を呈している!
「フェリス、元気そうで良かった!」
「エル、よく娘を護ってくれましたね。ありがとう」
両親はボロボロと涙を流し、私を抱きしめた。
エルは「とんでもございません! お嬢様にお仕えできて本当に光栄です」と瞳をうるうるさせている。ピアはもう涙でぐしゃぐしゃで、ルナが慰めるように頬の涙をぺろぺろと舐めていた。ピアは完全にもらい泣き!
「アイゼンバーグ公爵令嬢は転移魔法を何度も使ったはず。ここはわたしに任せて欲しい」
私の魔力切れが近いと踏んだアランは、私と両親を屋敷まで転移させると申し出てくれた。アランは既に新国王。これは両親がビックリするが、アランは「これも先代国王とロスの罪滅ぼしだと思い、遠慮しないでください」と言ってくれる。ここは前世のような遠慮文化ではないので「では有難く」ということで、アランに転移させてもらうことになった。
エルとピアとルナ、そしてエルの母親も、アランの指示で、王家に使える上級魔法の使い手により、こちらも王都まで転移できるという。だが幌馬車の転移は無理な話。クラウスはいとも簡単にやってのけたが、普通はできることではない。こちらはアランの連れてきた騎士が御者となり、魔法は使わず王都まで運んでもらえることになった。
屋敷へ戻ったら、これまでの積もる話が先で、つけ麵どころではないだろう。きっと積もる話がひと段落した頃に、幌馬車は屋敷へ到着するはず。
「ではわたしはこれで失礼する」
アランは両親と私を屋敷へ転移させると、自身はそのまま王宮へ戻ると言う。
「え、そんな! 陛下、せめてお茶だけでも!」
父親が慌てて声を掛ける。
「こう見えてわたしも暇ではないゆえ。わたしのことを気にする必要はない。……ただアイゼンバーグ公爵令嬢とは、追って食事でもしたいと思っている」
「……? あ、はい。勿論でございます、陛下」
両親にはアランから告白されたことは、当然だが話していない。アラン本人も私の両親にはまだ話していないようだ。
一国の王の恋愛事情。
そう簡単に話せることではない。それに私はクラウスに返事をする気持ちになっている。
あの日は突然現れたアウラに動揺し、返事ができなかった。その後は帰国へ向けバタバタしてしまい、色恋沙汰どころではない。それにクラウスにしても、帰国だと大騒ぎしている最中に返事をもらっても、なんとも慌ただしいだろう。
ちゃんと落ち着いてからで返事はいいと言ってくれているのだ。焦る必要はない。
何よりクラウスは、私を好きだと既に言ってくれているのだから……!
そう。
クラウスに返事をするということは。
アランには残念ながらお断りをすることになる。
それならば両親にアランの告白の件を話す必要はないだろう。
「フェリス、お前の好きな料理をこれから用意させる。お昼までまだ時間があるから、ひとまずお茶でもしながら、アルシャイン国で何があったのか。ぜひ聞かせて欲しい」
「そうよ、フェリス。万一に備え、ずっと連絡をとらないようにしていたのだから。何があったのか。全部聞かせて頂戴。そちらの可愛らしいお嬢さんと猫ちゃんのことも気になるわ」
アランが去り、エルとピア、そしてルナ、さらにはエルの母親が合流すると、両親はお茶をしながら話すことを提案してくれた。そこで皆でダイニングルームへ移動となる。
すぐにお茶が運ばれ、ピアにはリンゴジュースが用意された。ルナはミルクをもらい、ゴロゴロと喉を鳴らしながら飲んでいる。
私もお茶を飲み、喉を潤してから、改めてピアとルナを簡単に紹介することになった。
「まあ、この可愛らしいピアちゃんとルナちゃんが、アルシャイン国にいる間、共に過ごした仲間だったのね」
「娘が世話になった。本当にありがとう。この御礼は後ほどたっぷりさせてもらおう」
両親はすぐにピアとルナとも打ち解けた。
アルシャイン国で苦楽を共にしたと分かっているから、もう無条件でピアとルナを受け入れている。
父親は普段、とても慎重なのだけど、今はかなりガードが緩んでいると思った。
「ではそろそろフェリス。アルシャイン国で何があったのか。話してもらえぬか?」
父親に言われた私は「はい」と頷き、口を開く。
「話せば長くなりますが、まずは最初の滞在先、ローストヴィルでの出来事について話しますね。ローストヴィルではまずこぢんまりとした屋敷を手に入れて……」
ピアもローストヴィルでの日々については詳しくは知らない。よってとても興味津々で聞いてくれる。
「驚いたわ、フェリス。あなた料理が出来たのね!」
「フェリスは多彩だと思っていたが、料理もできるとは。さすが我が娘だ!」
ローストヴィルでの自給自足の日々について話すと、両親は私が料理を出来たことに驚きつつ褒めてくれた。さらにエルの狩りの腕についても褒めると、本人は勿論、エルの母親も喜んでいる。
だが追っ手の登場の話になると、両親は「まぁ、なんてことかしら」「食事の最中にやってくるとは!」と怒り気味になり、大変!
その後南部に逃げ延び、屋台の話になると……。
「未知の東方料理、気になるわ!」
「うむ。私も食べてみたいぞ」
そこで昼食の用意ができたと声がかかる。
続きは食事をしながらになった。
お読みいただきありがとうございます!
8月5日(月)から開始と告知していたのに
先走って本日公開してしまいました。
ごめんなさい。。。
***
遂に第四部がスタートです。
そして……この第四部が最終章なんです~
最終話を早く読者様にお見せしたい反面
本作が終わることが寂しい。。。
そこで第四部は想いをじっくりお楽しみいただけるよう
一日二回更新できればと思います。
これまで一日三回の更新をお楽しみいただいていた読者様がいらっしゃると思うので
バランスをとりながら2話更新していきますね。
ということで次話は12時頃公開予定です~























































