第五十六話:帰ろう
突然現れたアウラという美少女。
しかも宮殿にかけられているクラウスの魔法……おそらくは障壁魔法などの、防衛魔法を突破した。特級魔法を破るなんて、同じ特級魔法の使い手しか出来ないことだと思う。
つまり彼女はとんでもなく、魔力が強い!
「フェリス、紹介するよ。彼女は」
「初めまして! 私はアウラ。クラウスの初恋の相手であり、結婚を誓った仲じゃ!」
「!?」
これには驚き、目が点になる。
「アウラ、誤解を招くような言い方はやめてほしい! 初恋、なんて、君が勝手に言い出したこと。しかも結婚なんて、これもまた君が一方的に言い出したことだろう?」
「おやおやクラウス。そんなふうに言うが、君だって同意した筈じゃ。今更無効とか言い出すつもりか?」
アウラの発言を無視して、クラウスは私に告げる。
「彼女は大魔法使いで、僕の魔法の師だ」
「えっ、マギウス!? 世界三大大魔法使いの一人と言われる、あのマギウス!?」
「そう。彼女は先代マギウス、ルデリオンの跡を継いだ」
特級魔法の使い手を超えた、まさに伝説級の魔法使いが、世界三大大魔法使いと呼ばれていた。なぜかいつの時代もマギウスは三人しかおらず、亡くなる時に弟子から一人を選び、跡継ぎにする。
跡を継ぐのは特級魔法の使い手だが、儀式を通じていくつかの相伝された魔法を行使できるようになることで、マギウスと認められるのだ。
クラウスが特級魔法の使い手であるのだから、その師がマギウスでもおかしくはない。でもマギウスが弟子と認めるなんて余程だ。それにアウラは私と同い年ぐらいなのに、マギウスだなんて……!
「フェリスお姉さ〜ん!」
「お嬢様!」
「みゃー!」
ピアとエル、ルナがこちらへと駆けて来る。
「二人とも、どうしたの!?」
驚いて尋ねると、ピアが元気よく答える。
「ルナが散歩したがって。庭園をエルお兄さんとルナとで散歩していたの!」
「なるほどね。そして私達の姿が見えたと」
「そうだよ〜」「みゃん!」
そこで私はエルにアウラのことを紹介しようと振り返る。やはり魔法の使い手であれば、マギウスは憧れの存在。エルもきっと挨拶をしたいはず……と思ったが、そこにアウラの姿はない。
「アウラはああ見えて人見知りなんだ。あまり人前に出るのが好きじゃない。特に扱いがよく分からない、子供と動物は苦手なんだ」
クラウスが肩をすくめ、これには「なるほど」だった。それに冷静に考えれば、クラウスが特級魔法の使い手であることは、公には出来ないのだ。エルは絶対「なぜマギウスがこんな所に!?」と疑問を持つだろうから、アウラが瞬時に転移魔法で消えてくれたのは……良かったのかもしれない。
「フェリスお姉さん、そろそろ帰るんだよね!?」
「ええ。でも着替えをするから、もう少し散歩していてもらえる?」
「いいよー! ねえ、クラウスさんも一緒に行かない?」
「ピア、クラウスさんはもう、ただのクラウスさんではないのよ。きっと忙しいのだから」
「大丈夫だ。それに敬称がついたぐらいで、かしこまる必要はない」
こうして私は三人とルナと別れ、部屋で着替え。
その後は転移魔法を使い……東部の村に戻った。
◇
東部の村に戻ってから、帰国の準備は大変だった。
最初は人を雇い、幌馬車を託し、イースト島まで運んでもらうことを考えた。だがピアはこんな提案をしてくれたのだ。
「フェリスお姉さんの作るツケメン、冷やし中華、冷やしラーメン。お父ちゃんとお母ちゃんに食べさせるべきだよ! あんなに美味しんだもん。二人とも喜ぶと思う。調理道具からフェリスお姉さんが用意したんだよ! アルシャイン国でお姉さんがどれだけ頑張ったのか。両親に見てもらわないと!」
それを言われると両親に食べさせたくなる。
ならばと幌馬車で首都を横断し、西部エリアを抜け、帰国を考えた。
すると私の様子を心配し、東部の町に戻った翌日にひょっこり姿を現したクラウスは……。
「幌馬車で帰国では、何日もかかる。任せて。僕が国境まで幌馬車も転移させる」
これには仰天してしまう。だって馬込みで転移させるというのだ。
「魔法陣を描き、そこに各種魔法をかければ、どうってことない」
「どうってことはない……そんなことはないと思うけど、本当にそんな魔法を行使して……クラウスさん、終わったら気絶したりしない!?」
「大丈夫、大丈夫。屋敷を一つ運びたいと言われたら、気絶するかもしれないけど、幌馬車ぐらいなら問題ない」
そこでクラウスが真剣な表情になるので、思わずドキッとすると……。
「幌馬車を転移させるなんて尋常ではないことだから、エルとピアに、特にエルの方にはしっかり納得させて、フェリス」
「えっ!」
「フェリスならできる」
そう言って額にキスをすると「魔法陣を描くための準備をするよ。今晩、こっそり転移させておくから!」と言って姿を消してしまうから、もう大変!
でもクラウスのおかげで、幌馬車は無事、国境まで届けられた。私も魔力をフル充電させていたので、転移四回で、国境に到達できたのだ!
首都寄りの東部の町に滞在していたことが、功を奏したのだけど……。首都の横断に三回も転移するなんて! 首都アールの巨大さを噛み締めることになった。
そんなこんなで国境で幌馬車に乗り込み、ついにトレリオン王国へ戻って来た……!
お読みいただき、ありがとうございます~
ついに帰国しました……!
第三部では沢山の謎が明かされましたが
いかがでしたでしょうか。
謎とは違う「そういえば!」がある第四部は
8月5日(火)の朝更新から開始です!
引き続きよろしくお願いいたします~
お待ちいただく間のおススメ連載作&完結作
【現在連載中】
『宿敵の純潔を奪いました』
『婚約破棄された悪役令嬢はざまぁをきっちりすることにした』
『悪女転生~父親殺しの毒殺犯にはなりません~』
【完結過去作おススメ】
月間異世界転生文芸ランキング4位
四半期完3位。なろう人生初の順位
『 悪役令嬢は我が道を行く~婚約破棄と断罪回避は成功です~』
https://ncode.syosetu.com/n7723in/
└章ごとで読み切りです!
上記作品、すべてページ下部に目次へ遷移するバナーがございます。
ジャケ買い気分でバナーを眺めていただき
気になる作品があったらまずは第一話、ぜひご覧くださいませ~