第五十五話:あ、今だ!
国王陛下夫妻との昼食会は、本当に楽しかった。
ゼノビアといる時の、クールなクラウスからは想像出来ない、少しやんちゃでドジなクラウスの幼少期について聞けたのは、とても大きい。
特級魔法の使い手だと分かってからは、人と距離を取るようになったクラウスだが。本来の気質は人懐こく、明るく、フレンドリーなもの。私と二人の時に見せてくれるクラウス、それこそが彼の本質だと確認出来た。
「今日は本当に楽しかった。今後もこのような機会を持てたら嬉しく思う。クラウスは間違いなく、良き王になる。ぜひアイゼンバーグ公爵令嬢に支えてもらえるとよいのだが」
食事を終え、退出しようとする私にハグをしながら、国王陛下はこんなふうに言ってくれた。彼が言うまでもなく、クラウスは……賢王になるだろう。しかも有言実行の。何せ彼は特級魔法の使い手なのだから。
「アイゼンバーグ公爵令嬢、あっという間だったわ。もっと沢山クラウスのこと、話せるのに。それに今回はクラウスの話ばかりで、アイゼンバーグ公爵令嬢の話は聞くことが出来なかったわ。あなたのことも、もっと知りたかったのに! ぜひまたいらしてくださいね」
王妃殿下にもそう言われ、私は胸がじーんと熱くなる。
一国の王と王妃。
他国の公爵令嬢など、本来警戒するはずだ。しかも一度は悪女認定されていた。アランが前国王とロスの言葉として撤回してくれたが……。
完全に不信感が拭えていなくてもおかしくない。それがここまで心を許してくれたのは……。間違いなく、クラウスのおかげだ。彼が心を砕き、私の良さを国王陛下夫妻に伝えてくれたから。
そこまでしてくれたクラウス。
彼の人となりは今日の昼食会でさらによく分かった。わたしの前だからと取り繕っているわけではなく、演じているわけでもない。彼の本質は優しいということ。
クラウスと一緒に生きることが出来れば、絶対に幸せになれる。幸せにしてくれるだろう。そして私もクラウスを支え、彼に幸せになってもらいたいと思えた。
ならばもう、クラウスの告白の返事をしてもいいのではないかしら?
「ではフェリス、部屋まで送るよ。来た時に着ていたワンピースに着替えたら、ピアとエルとルナと、合流できるようにする」
王宮のダイニングルームを出て歩き出すと、クラウスにそう言われ、「分かりました」と応じる。
返事、どうやって伝えようかしら?
ドキドキしていると、クラウスから尋ねれる。
「今朝の朝食で、エルとピアとは話せた? 屋台をどうするかを」
これには「そうだ!」と思い、屋台はピアに引き継ぐこと。ピアは村に戻り、マーガレットおばあちゃんと暮らしながら屋台をやることを話した。さらに一旦トレリオン王国へ戻り、両親に会うこと。その際はピアやルナを連れて戻るつもりであると話すことになった。
「そうか、ピアが屋台を継ぐのか。彼女の頑張りは分かっているから、フェリスも安心なのでは? それにいつだってピアには会いに行ける。そこは僕も協力するよ」
「それってつまり、転移魔法でピアの所へ連れて行ってくれるということ?」
「そうだよ。フェリスでは何度か転移魔法を繰り返し、魔力の回復もしないといけない。それでも馬車と船で島を目指すより、早くは到着できる。でも僕だったら即日でピアの所へフェリスを案内できるだろう」
それはそうなのだけど、それでは前世で昭和の時代に存在していた、アッシーくんになってしまうのでは、クラウスが!
「クラウスさんは王太子なのよ。そんな私的な理由に、その力を使ってもらうわけにはいかないわ」
「確かに僕は王太子だけど、その前に一人の人間だから。自分の大切な人のために、何かしたいと思って当然では? もし僕がフェリスの立場で、フェリスが僕の立場だったら……。フェリスは間違いなく、僕に手を貸してくれるだろう? 見返りなんて求めずに」
「それは……それはそうね。ええ、そうだわ。分かったわ、ありがとう、クラウスさん。ピアに会いやすくなるのは嬉しい!」
そこでふわりとクラウスは優しい笑顔になる。
「フェリスは笑顔が一番。困った時は、一人で抱え込まず、僕を頼って。男って、頼られると嬉しいんだよ。特にフェリスみたいな、普段は自分で何とかしようと頑張っている子に頼られると」
あ、今だ、と思えた。
気持ちを伝えるなら、今だ、と!
「クラウスさん、私」
「クラウス!」
私が声を発すると同時に。
重なるようにクラウスの名前を呼ぶ声が聞こえる。
だ、誰!?
宮殿の回路に姿を現したのは──。
ピンクブロンドをツインテールにして、ピンク色のふわふわとしたファーのついたドレスを着た童顔の美少女。
小柄だが、胸は大きく、色白で年齢は……私と同じか一つ下ぐらいに見えた。
「アウラ! 驚いたよ! また宮殿に掛けられている魔法を突破した!?」
「今回はかなり難儀したぞ。クラウス、腕をあげたのう」
美少女なのに口調は何だか古風。
「お褒めに預かり、光栄だよ」
二人は快活に笑い、その場でハンドシェイクした。
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