第五十二話:恋人?友達?
朝食では自分達の今後について話すことになったが、話はそれですべて終わったわけではない。
クラウスの正体の件をまだ話せていなかった。
そこで朝食は下げてもらい、引き続きお茶を出してもらい、会話を続けたいとメイドに伝えると……。
「もし朝食の後、お話を続けたいという要望が出たら、温室へご案内するよう、申し付かっています」
これはクラウスの采配だが、とてもありがたい申し出!
温室は温かいし、緑も多いので気持ちも和む。
ということでメイドの案内で温室へ向かうと、エルと私にはコーヒーを、ピアにはオレンジジュースが出された。オレンジはこの温室で栽培したもの。前世ではオレンジが年間を通じて手に入るが、この世界では貴重なフルーツ。貴族が楽しむ果物であり、ピアはオレンジジュースの登場に大喜び。
こうして各自、飲み物を口にしながら、私はクラウスの正体について話すことになった。ただし、特級魔法の使い手であることは除いて。
「えええええっ、お、王太子!? え、あのゼノビアの護衛をされていたクラウスさんが……この大国、アルシャイン国の王太子!? アルシャイン国の王太子は病弱で病に臥せっているのではなかったのですか!?」
「え、王太子って、次に王様になる人だよね? え、あのクラウスさんが!?」
二人はもう仰天し、前世で言うようなドッキリを仕掛けられたのでは!?という状態。するとこの二人の反応を、クラウスがまるでどこかで見ていたかのように、温室へ姿を現わしたのだ!
しかもこの後、アランとの会談があるというので、白のフロックコートを着ているが……。
アイスブルーの髪、透明度の高い海のような碧い瞳に、白はとにかく映える!
昨晩、大変ハンサムなテールコート姿を披露したが、それでもやはりいつもの粗末なベージュの布をまとう姿の印象が強い。その反動もあり、今の姿は紛れもない王子様に見える。
ピアの目もハートになり「本物の王子様を初めて見た……!」と感動。エルは「聞いていません! こんなに容姿端麗で、文武両道で、王太子だなんて……!」と驚愕している。
とにもかくにも追加で用意された椅子に着席すると、クラウスはそこでとんでもない衝撃情報を明かしたのだ!
「君達が誤解しているようだから、訂正する。僕はゼノビアの護衛ではない」
「え、ではゼノビア様の恋人ですか?」
エルが真剣にそんなことを問うので、私が「エル!」と注意する。
だがその直後。
「じゃあ、クラウス王子様は、ゼノビア伯爵様のお友達?」
ピアの可愛い回答にクラウスは「正解だ。でも友達だけではない」と答える。
こうなると私が正解を……。
そこでハッとする。まさかと思いつつ、答えを口にする。
「もしかしてクラウスさんを護衛していたのが、ゼノビア伯爵、なんですか……?」
するとクラウスは、白い歯を見せ、好感度NO.1のCMタレントのような笑顔になる。
「さすがフェリス。正解だ。でも王太子が護衛一人でウロウロしていると思われると困る。ゆえにあたかもゼノビアが護衛されているように振る舞っていたが……実は逆だったということだ」
昨晩、怒涛のサプライズがあったのに。
まだそんな隠し玉を持っていたなんて!
でも王太子の護衛を一人で任せられるということは。ゼノビアは相当優秀なのだろう。
だが考えて見れば、エリオンドというトレリオン王国の諜報部のリーダーは、ゼノビアが制圧しているのだ。相当腕が立つのは間違いないだろう。
しかし。
あんな美女が護衛だったら、気持ちがそちらへ傾かないのかしら? 私が男だったら、美女で強くて酒豪ときたら、ぜひ嫁にしたいと思ってしまうけれど。
チラッとクラウスを見ると、彼は再び木漏れ日のような、爽やかな笑顔を向ける。
そこでクラウスが私を好きであることを思い出す。
本当に、私を好きなの……?
ゼノビアのグラマラスさには負けるし、あんな武道の覚えもない私なのに。
「さて。話は尽きないと思うが、この後、アラン国王と会談がある。これで失礼させていただく」
そこで席を立つと、実に優雅な動きで、私の耳元に顔を近づける。
毎度のことだがこれをされると、全身から力が抜けそうになってしまう。
「フェリス。お昼は父上と母上との食事、よろしくね。それとゼノビアは僕の護衛をしている。それは彼女の実力が、護衛として相応しかったからだ。そして僕から見たらゼノビアは、護衛というより、姉御。向こうも僕を弟のように見ている。変な想像はしなくていい」
この体温を感じる息が耳にかかるだけでドキドキなのに。まるで私の心を読んだかのような言葉をクラウスは口にする。
もしかして特級魔法では心も読めたりする? まさか。それはさすがにない。
「では失礼する」
洗練されたお辞儀と共に、クラウスは温室を出て行った。
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次話は12時頃公開予定です~