第四十八話:このままでは……!
「アイゼンバーグ公爵令嬢、君のことが好きだ。愛している!」
トレリオン王国の国王であるアランからの告白。それは私にとっては唐突なものだが、アランからすると全然違う。
十六年間ずっと、温め続け、何度も何度も諦めようとした想いなのだ。今、万感の想いで告白しているアランを止めることなんて……できるわけがない!
このままでは求婚されてしまう!
求婚されたらアイゼンバーグ公爵家の令嬢として、正式に返答する必要がある。この場で即答しなくても、両親を巻き込んでの大事になってしまう……!
私はまだ自分自身の身の振り方さえ決めかねていた。トレリオン王国に戻るにしても、ピアはどうするのか。せっかく始めた屋台をここで止めるのか。
それに。
私はクラウスから既に告白されているのだ。彼は私の気持ちを尊重し、いろいろ落ち着いてから答えが欲しいと言ってくれた。
自身の想いより、私のことを考え、一歩引いて見守ってくれる。それに対して、アランは――。
「アイゼンバーグ公爵令嬢。トレリオン王国の国王として」
「ま、待ってください、アラン国王陛下! こ、ここは休憩室です。こんな場所では……」
「それは……後日、トレリオン王国で一番のレストランを貸し切り、そこでもう一度やり直そう。だが今は勘弁して欲しい」
そう言いながら、アランは着ているテールコートの内ポケットから小さな箱を取り出している。
まさか既に指輪を用意しているの!? もしかしてプロポーズする気満々でアルシャイン国へ来ていたの!?
「改めて」「お待ちください」
声に驚き振り返ると、私の座るソファの後ろにクラウスがいる!
「アラン国王陛下。いささか性急過ぎませんか。フェリスも『待ってください』と言っているのに」
「クラウス王太子殿下……。性急……それはそうかもしれません。ですがわたしは十六年間、アイゼンバーグ公爵令嬢を」
そこでクラウスは、ドレスの膝に載せていた私の手をとり、甲へと優雅にキスをした。これにはアランは、明るいグリーンの瞳を盛大に見開くことになる。
「アラン国王陛下。冷静になってください。一国の王ともあろうお方が、そこまでなりふり構わずでは少々見苦しいです。優雅さを失ってはならないと思います。それに頭の中がプロポーズで一杯で、大切なことを見落としています」
クラウスの指摘にアランは頬を引きつらせながらも、友好国の王太子であるクラウスに敬意を払い、なんとか押し殺した声で尋ねる。
「何を……見落としていると?」
「僕は彼女のことを『フェリス』と呼んでいるのです」
「!」
「そう呼ぶことを彼女は許してくれました。そして既に僕はフェリスに告白をしています」
これはかなりのダメージをアランに与えたようで、彼は「そんな」と絶句している。
「勿論、正式に求婚もするつもりです。ですが彼女はここ数カ月。アルシャイン国で生きてきた。そちらでの生活もあれば、仲間もいるんです。さらにはようやく国外追放が解かれ、ご両親の元へ戻れる。積もる話もあるでしょう。しばらくフェリスは忙しくなる。だから僕は彼女が落ち着いてから求婚状を送ると話していたのです。彼女の気持ちを尊重して。それに比べると、アラン国王陛下は少し強引に思えますが」
冷静なクラウスの指摘にアランはゆっくり目を閉じた。
一・二・三で目を開けたアランの明るいグリーンの瞳は落ち着いている。
「……クラウス王太子殿下。ありがとうございます」
アランはそう言うと大きく息を吐く。
「まさかクラウス王太子殿下がライバルだなんて……想像もしていませんでした」
さらにそこで深呼吸をして、話を続ける。
「ライバルならば、ここは暴走するわたしを遠くから見守り、自滅するのを待ってもよかった。でもあなたはわたしにクールダウンすることをすすめ、アイゼンバーグ公爵令嬢の気持ちを尊重することをすすめてくださいました。なぜ……ですか?」
アランが真摯に問うと、クラウスはそのアイスブルーの髪をサラリと揺らして答える。
「そうですね。そう問われると困るのですが……僕としては当然のことをしたまでです。第一に。フェリスが困惑し、困っているのに、放っておくことができなかった。彼女は『待って欲しい、こんな場所で』と懸命に声をあげている。でもプロポーズで頭がいっぱいのアラン国王陛下には届いていなかった。そこで僕が声をあげることにしました」
「なるほど……」
「そしてアラン国王陛下が真剣にフェリスを好きだという気持ちは、僕にも伝わってきました。ただ、彼女の気持ちを尊重せず、失敗するのは……十六年は長い時間です。その十六年がたった一度の失敗で崩れるのは……。自然と、アラン国王陛下のことも助けたいと思っていました」
この言葉に、アランは「クラウス王太子殿下……」と瞳を震わせている。
でも私だって同じだ。
クラウスの優しさに感動している。
「とはいえ、僕もフェリスのことが真剣に好きなんです。諦めるつもりはありません。よってアラン国王陛下。これからは良きライバルとして、よろしくお願いします。僕もアラン国王陛下も、すでにフェリスに気持ちは伝えているんです。後はフェリス次第。ここは彼女に委ねましょう」
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