第四十四話:そ、そうなんですか!?
「もうその件は済んだ話です。謝罪は受け入れています。それに陛下が起こした罪ではないのですから……ただ、ロス第二王子と婚約した男爵令嬢はどうなったのですか?」
「ああ、ワーリス男爵令嬢か。彼女には選択権が与えられた」
開始のポーズをとりながら、アランが口にした「選択権」という言葉に、「選択権……?」と反芻してしまう。
「ロスは王族ではなく、元第二王子で、男爵という身分に変わった。貴族令嬢にとって、結婚相手の身分は重要だ。しかもロスは罰を受けて、王家から追放される。とても不名誉なことでだ。だがワーリス男爵令嬢はまだ若い。やり直しだってできる。そこでこちらの有責で婚約破棄するか、それともこのまま婚約を続け、共に北の地へロスと共に旅立つか。選ばせることにした」
これはなかなかに驚きの展開だ。
攻略対象とゴールインしたヒロインが、婚約破棄か継続かの選択を迫られるなんて!
ただ、ヒロインなのだ。そこはロスに愛を捧げ、そのまま領地へ行くのだろうと思った。
「結果、ロスとの婚約は破棄されることになった。ロスは単身で北の領地へ向かうことになる。そこで領地経営をしながら、自分の生活、さらには君への賠償をし続けることになるだろう」
「そ、そうなんですか!?」
そこで曲がスタートし、ダンス開始だ。
「ロスとの婚約は破棄となった。それはロスにとっては自業自得だ。仕方のないこと。かなり未練がましくワーリス男爵令嬢にすがりついたが……彼女は綺麗さっぱり、ロスのことを切り捨てた」
これには本当に驚き、言葉が出ない。
ロスという一人の人間を好きで婚約したのではなく、第二王子という身分で彼を選んでいたのだろうか、ヒロインは……。本来のゲームでは、純粋な愛で攻略対象と結ばれるはずだったと思うのだけど……。
私がまさにそんなふうに考えると、アランはさらなる仰天情報をもたらす。
「しかしロスと婚約破棄になるなら、わたしと婚約したいと言い出した時は……正直、辟易した」
これにはビックリを通り越し、呆れてしまう。第二王子がダメならばと、王太子に乗り換えようと考えるなんて!
逞しいというのか、ふてぶてしいというのか……。とにかくヒロインはとんでもないメンタルの持ち主だと思う。
「だがそんなことを言われてしまうのは、わたしに未だ婚約者がいないことも要因だと思う」
「!?」
これはあまりにも謙虚過ぎる発言だとは思うが、なぜアランは婚約していないのだろう?
文武両道であり、容姿だっていいし、上級魔法の使い手で、しかも国王。性格はロスのようにひねくれていないし、今回の件を鑑みても、アルシャイン国から学ぼうとする前向きな姿勢も感じられる。婚約したいと動けば、秒で相手が決まりそうなのに。
幼い頃に一度は私と婚約の話が浮上したが、それも立ち消え、私はロスと婚約。そこからは断罪回避に向け邁進し、正直、アランのことは全く気にしていなかったけれど……。
「なぜ、婚約されないのですか?」と聞きたい気持ちはあるが、私が聞かずとも、過去に多くの彼の関係者が尋ねているはず。今さら聞いても……と思い、その件には触れずにいると、アランはこんなことを言う。
「そもそもの始まりはロスの我が儘だった。起点となった出来事があったのに、その時はそうとは気が付かずにいた。もし過去に戻りやり直しができるなら……そこからだ。そこを正したいと思う」
アランが真摯な表情でそう言うので、一体いつのことを言っているのかと思い、これはつい尋ねてしまう。
「アイゼンバーグ公爵令嬢。君が一番よく分かっていると思っていたのだが……」
「!? 私が、ですか??」
そこでクルリと回転することになり、その回転の最中も考えるが、全く分からない。
回転が終わり、アランと向き合うと、改めて「どう考えても分からないです」と降参する。アランはとても残念そうな顔をするが、それでも気を取り直し、話し始める。
「先代国王……父上は、長男であり、王太子であるわたしには、常に厳しかった。学問においても。武術においても。王太子として完璧さを求められた。対して弟には……ロスに対しては甘かった。特にロスが下級魔法しか使えないと分かると……。父親はますますロスに甘くなる。『可哀想な、我が息子よ』と、本来わたしにも注いでほしかった愛情は、ロスが独り占めだった。そうなることで、ロスはとても我が儘に育ってしまったと思う」
それはまさにその通りだったと思う。だからこそ、私との婚約破棄と断罪も遂行されたと思うのだ。いくら第二王子と言っても、公爵家との婚約を破棄すること、さらには断罪すること。ロスの父親である前国王が首を縦に振らない限り、遂行されなかったはず。それが成されたのは……もちろん、ここが乙女ゲームの世界というのもある。だが国王陛下が認めたことも大きいと思うのだ。
「ロスのこの我が儘は許すべきではなかった。それはうんと前のあの日もそうなんだ」
「あの日……?」
お読みいただきありがとうございます!
完全に更新時間を失念してました。
ごめんなさい。
次話は18時頃公開予定です!
























































