第四十三話:もう私が知る彼ではない
クラウスの私を想う真摯な気持ちにトクトクしたところで、ワルツは終わってしまった。
ここからは一斉にダンススタートとなるが……。
ホール中央からはけようとするクラウスに、令嬢が群がる。
そうなるのは仕方ない。病弱で、もやしのような王太子を想像していたら、若々しくこんなに美しいのだから。
しかも今見たクラウスのダンス。
踊りたくなるだろう。
リードは完璧、踊っている最中の表情だってパーフェクト。最後に見せた笑顔はまさにズキューンもの。
その上で婚約者もいないとなれば、両親に言われずとも、未来の王太子妃を夢見て、令嬢が殺到して当然だった。
「フェリス、僕はまだ君と話をしたい」
「そのお気持ちは分かりますが、王太子であると明かしてしまったのです。社交は避けられません。少なくとも数名の令嬢とはダンスをした方がいいと思います」
ここは社交慣れしている私がクラウスの手を離すしかない。
彼はゼノビアの護衛をしている時は、大変クールなのに。今、私がエスコートしているその手を離した瞬間。まるで世界の終焉を目の当たりにしたような、絶望的な顔をするので、ドキッとしてしまう。
だが私と連続でダンスをするわけにはいかないし、これは仕方ないことなの、クラウス――!
思わず心の中で謝罪していると。
「アイゼンバーグ公爵令嬢」
目の前にいるのはアラン!
「君とはゆっくり話したかった。ダンスをしながら、少し話をしても?」
彼はもう私が知る王太子のアランではない。
一国の国王なのだ。
その国王からダンスに誘われている。
しかもさっき、寛大な判断をしてくれたのだ。
「はい。ダンスのお誘い、お受けいたします、アラン国王陛下」
そう言って私はアランにエスコートされ、再度ホール中央へ戻ることになった。
チラッと見ると、クラウスも観念したようで、一人の令嬢とホールの中央で始まりのポーズをとっている。
「ロスが……本当に迷惑をかけて、申し訳なかった」
「もう終わったことです。……ですがどうして今回、私の国外追放を取り消し、賠償金を払い、勲章まで……そしてご自身の弟なのに、厳しい処罰を与えることを決めたのですか? その……アルシャイン国から強い働きかけがあったのですか?」
今、アランは自ら謝罪の言葉を口にした。もしイヤイヤ私の件を国王として対処したなら、そもそもダンスに誘わない。さらには謝罪の言葉も自分からは言わないだろう。周囲に人はいるとはいえ、皆、ダンスのため、ざわついている。ここで話していることなんて、さすがに誰も聞こえない。アランから謝罪をしなくても、誰も気づかないだろう。
それでもちゃんとアランは謝罪しているのだ。今、彼は私と話したいと思っているし、私の言うことにも真摯に耳を傾けてくれると思った。それに私とアランは見知らぬ者同士というわけではない。ならばと思い切って、聞いてみたのだ。クラウスが働きかけたことをきっかけに、私の件を対処することにしたのかを。
本当はクラウスに聞けばよかったのだけど、それ以上の驚き、彼が王太子だった件があり、完全に頭から失念していた。
でもやはりなぜ今回、アランが動いたのか。それは知っておきたい。クラウスが言っていた通り、ピアの気持ちを確認する必要があるものの、国外追放を解かれたのなら、両親に会いたかった。心労をかけたのは間違いなく、今も心配していると思うのだ。それはエルの家族だってそうだと思う。
つまり遅かれ早かれ、トレリオン王国に戻るにあたり、その国のトップがどういう経緯で私を受け入れ、ロスを罰したのか。それを知りたいと思ったのだ。
「アルシャイン国から強い働きかけがあったわけではない。ただ、別件で王太子殿下と国王陛下とは何度も話をすることになった。その話の中で、ロスの件が浮上した。そして王太子が教えてくれたんだ。アイゼンバーグ公爵令嬢が、ワーリス男爵令嬢に対し、何もしていないことを。ロスがうがった見方をしていたこと。ロスがそんな行動をとった理由が、自分より勝る婚約者への嫉妬だったことに、気付かされた」
そこでアランは少し大きなため息をつく。
「遊学先で、君が国外追放になったと聞き、非常に驚いた。事の真意を知りたいと、一度帰国し、父上やロスに話を聞いたが……。既に公式発表がされており、そこで書かれている通りのことしか、父上もロスも言わない。これは本人に確認するしかないと思った。ところが君は既に出国している。足取りを追わせてみたが、全く分からない。君は上級魔法の使い手でもある。いずれかの国へ入国した後、転移魔法を使われたら、もう追跡はできない。そこで諦めていた部分もあったから……クラウス王太子殿下から君のことを聞けたのは、とても意味があることだった」
「そうだったのですね。ではクラウス王太子殿下と話し、ご自身の判断で、私の国外追放を取り消し、賠償金を払い、勲章を授与し、ロス第二王子を処罰することを決めたのですね」
「その通りだ。自国の公爵令嬢に起きた冤罪。引き起こしたのは、事もあろうに王家の人間だ。これほどの身内の恥はない。当然のことをしたと思っている。……改めて申し訳ないことをした、アイゼンバーグ公爵令嬢。どうか許していただきたい」
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