第四十二話:特大級のサプライズ
周囲の貴族は仰天し、言葉が出ないようだが、私も同じ。
ううん、それ以上だと思う。
今日一番で驚愕し、思考は停止し、言葉が出ない。
それでも自動車の運転を体が覚えているように。ダンスをしようと差し出された手には、まるで条件反射かのように、自身の手を載せてしまう。
するとクラウスは世界を照らすような明るい笑顔となり、私をエスコートして歩き出す。
私の体はヘタレな精神に比べ、よくできていて、クラウスのエスコートと共にちゃんと歩き出している。体が動きだすことで、機能停止していた思考も再開した。
え、クラウスが王太子!?
クラウスがこの国の王太子!?
王太子は病で臥せっているのではなかったの!?
だがすぐに気が付く。
クラウスは特級魔法の使い手。そのことで暗殺の危機、誘惑のリスクに晒されることになる。そういったものを排除するために、表向きは病弱な王太子を演じていたのでは!? でも実際はゼノビアの護衛をして、国中を動き回り、悪を潰し、災害を防ぎ、三面六臂の活躍をしていたのではないかしら!?
「特大級のサプライズ! 驚いた、フェリス?」
「驚きました。人生で最大です。王太子が護衛をしているなんて、前代未聞だと思います」
そこでホール中央に到着した。
つまりはダンスをするスペースについたので、スタートのポーズをとった。オーケストラの演奏を確認し、これから奏でられるのは、王道のワルツだと理解する。
「ではアルシャイン国の王太子と、トレリオン王国の公爵令嬢の最初のダンス、ご堪能あれ」
国王陛下の言葉に拍手が起き、音楽がスタートする。
双方の国を代表する二人のダンス。
友好アピールには最適だった。
同時に。
国外追放を解かれるのだから、当然トレリオン王国に帰るしかないことにも気がつく。エルは母国に帰るのだから、嬉しいだろう。離れ離れになった家族に会える。でもピアはどうかしら? そして私は──。
「フェリス。君は舞踏会もダンスも久々だろう? でもブランクを一切感じない。さすがだね」
「ありがとうございます。でもそれを言うならクラウスさん……クラウス王太子殿下もそうですよね」
「フェリス。そんな敬称をつけて急に呼ぶのはやめにしないか? 公の場では仕方ない。でも今はダンスの最中。会話は聞こえない。これまで通りのクラウスさんでいいよ。なんならクラウスでもいいんだけど」
そうは言われてもクラウスは……大国の王太子なのだ。これにはどうしたものかと小さくため息をついてしまう。すると……。
「これまで黙っていたのは、僕の身分を知って距離を置かれたくなかったからだ。それに王太子と言っても、僕は少し特殊だ。王宮にいて公務をこなすより、国中を回り、災害を防ぎ、悪党を追っている。父上もそうすることを認めてくれているんだ。僕が特級魔法の使い手なのだから、通常の王太子のように過ごす必要はないと。……それでも一通りの王太子教育は受けたけれどね」
そこでふわりとクラウスに回転させられ、ダンスの最中であることを思い出す。
「ともかく僕の身分を聞いて、かしこまらないで欲しい。王太子は僕だと明かしたけれど、では明日から王宮にこもり、執務机に座り書類仕事をするかと言うと……その答えはノーだ。今まで通りのクラウスとして動くから、フェリスも……これまでと同じようにして欲しい」
「自身が王太子であると明かしたんですよ? これまで通りで済むんですか!?」
「特級魔法の使い手であることは、まだ明かしていないからね。激変はないかな。ただ、病弱だと思った王太子が健在であると知り、悪いことを考えた奴は焦るかもしれない。どうせ病弱と見限っていた奴らは、娘の求婚状でも贈りつけるかもしれないね。でも相手にしないだけだ」
そう言ってクラウスは大胆な動きで私をリードしながら、一瞬、遠い目をした。
「昔の僕は、暗殺やら甘い罠を恐れ、人との接触を止めていたけど……。その頃の僕は、まだ特級魔法の使い手として歩み出したばかり。自分の力のコントロールも、どんなことができて、どんなことはできないのか。そんなことすら分かっていなかった。でも二十歳になり、ようやくいろいろ自信がもてるようになったんだ。だからもう病弱だって隠れている必要もないと思った。それに……」
そこで曲が終盤に向かっていることに気付く。クラウスもそれを踏まえ、ステップを踏んでいる。
「フェリスが悪女の汚名を返上し、名実ともに公爵令嬢と名乗れるようになったら……。正体不明のクラウスでは、会えなくなるだろう? ちゃんとした身分を伝えた上で、その……正式に。求婚状だって送りたいと思っているから。勿論、今すぐではなく。フェリスのいろいろが落ち着いたらね。国外追放は解けたのだから、ご両親にだって会いたいだろう?」
クラウスの言う通りで、この後の件も、考えなければならないが……。それよりも私が驚いたのは、彼自身が王太子であると、皆の前に姿を見せた理由。
その一つに私が含まれていること!
しかも正式に求婚状を送りたい、だなんて!
胸がトクトクと急速に高鳴り始めたところで、曲が終わり、クラウスと二人でフィニッシュのポーズをとる。
その瞬間、割れんばかりの拍手が起きた。
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