第四十一話:これで終わりではない。
アランの強い目力でロックオンされた私は、咄嗟に身動きがとれない。それに一斉にホールにいる貴族達も私を見た。さらには国王陛下夫妻も私を見ている。
一瞬、頭が真っ白になる。
「アイゼンバーグ公爵令嬢。どうかこれで許していただけるだろうか? 無実の罪を着せられたのだ。君が望む補償には、最善で対応したいと思っている」
落ち着いて、私。
私は悪女ではないと、この場で訂正してもらえたのだ。さらに私を断罪したロスは王族から追放される。国外追放は解かれ、賠償金も支払われ、名誉を回復する勲章まで与えられるのだ。これで十分ではないか。
ううん。待って。それだけでは足りないわ。
そこで素早く考えをまとめた私は、ゆっくり口を開く。
「アラン国王陛下。公式な謝罪、罪の取り消し、賠償金の支払いや名誉の回復など配慮いただき、ありがとうございます。また間違った判断をした者への処罰もいただける。私への補償は十分に思えます」
アランは私の言葉に、口元に笑みを浮かべる。
だがこれで終わりではない。
「ですが私が悪女とされたことで、私の家族や親族一同、使用人は苦しむことになりました。また国外追放された私に従った護衛騎士やその家族にも影響は出たでしょう。そういった私への関係者への公式な謝罪。私の悪女認定で、職を失った者へ仕事の斡旋や補償なども行っていただけないでしょうか」
貴族である私の一族やエルの家族は、金銭より何より名誉が重んじられる。王家からの謝罪が公式にされるだけで、世間の目の色は変わるのだ。
その一方で、使用人や貴族でない者たちは、名誉よりもその日の生活、すなわちお金が大切。仕事を失った者への新しい仕事や補償をしてもらいたいと考えた。
「なるほど。……君が才媛と言われるゆえんだ。自分以上に、家族や関係者を大切にしたいということなのだな。その希望に応えること。それはわたしの責務。約束しよう。君の関係者への公式な謝罪、補償を行うと」
アランは力強く、私の要望に応じると答えてくれた。
私は「良かった……!」と心から安堵し、周囲の貴族達は驚きの声をあげている。そこまでアランが配慮することにビックリしたのだろう。
だがこれで貴族達も私が悪女ではないと強く認識できたはず。なにせ新国王がそこまでするのだから!
「いやはや、アラン国王は太っ腹。だがそれは新国王として、過去の王家の過ちを正すために必要なことなのであろう。アイゼンバーグ公爵家との友好関係を深め、今後二度と同じような間違いが起こらないようにしないといけない」
国王陛下の言葉にアランは素直に「はい、その通りです」と応じる。
その様子を見ると、主導権をアルシャイン国が握っているが、トレリオン王国が渋々従っている……というわけではなさそうだ。まだ若いアランは、アルシャイン国を見習い、トレリオン王国をこれから良い国にしたいと思っているのでは?
留学する前の私が知るアランは、思い出せば志の高い人物だった。彼は自身の父親と弟の過ちを知り、正しく国を導きたいと思っているのではないか。
「アイゼンバーグ公爵令嬢の名誉も、これで無事回復した。そろそろ舞踏会を始めようか」
国王陛下の言葉に、会場の緊張した雰囲気が緩んでいく。それに合わせたかのように、オーケストラが軽やかなメロディを奏で始める。
「それでは今日の最初のダンス。ここはトレリオン王国を代表し、一番高貴な身分であるアイゼンバーグ公爵令嬢。そしてお相手は……おお、今日は我が息子が舞踏会に参席していた。クラウス。王太子であるお前が、アイゼンバーグ公爵令嬢のお相手をするといい」
この言葉に、貴族達が再びざわめく。
「王太子殿下がいらっしゃるの?」
「王太子殿下は病で臥せっているのでは!?」
「王太子殿下がいるならご挨拶をしないと!」
私も貴族同様で驚き、どこに王太子がいるのかと思ったが。今、国王陛下は耳馴染みのある名を口にしなかった……?
「父上。最初のダンスの栄誉、謹んでお受けいたします。アイゼンバーグ公爵令嬢、ぜひ僕とダンスをしていただけますか?」
私の隣にいるクラウスが、爽やかな笑顔で私に手を差し出した。
お読みいただきありがとうございます!
ついにクラウスの真の正体が明らかに~
次話は18時頃公開予定です☆彡























































